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春が来て、花が咲いたら。

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春が来て、花が咲いたら。
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リアクション



9


「花見や〜! 宴会や〜! いくぞお前ら〜!!」
 普段よりも割増高いテンションで、日下部 社(くさかべ・やしろ)は拳を空へと突き上げた。
 桜は満開、空は快晴。これ以上なく花見日和である。そうなるとやはり、テンションは上がってしまうというもので。
 てきぱきと動き回り、一緒に花見に来た面々にコップを手渡しジュースを注ぎ。
 どこからともなくマイクを取り出し、
「さぁ! やってまいりました大お花見大会!
 本日はお日柄も良く、桜も綺麗に咲き誇っているわけですが……まぁ難しいことは抜きや抜き!
 皆〜!春を満喫しような〜♪ 乾杯っ!」
 声を張り上げた。


 一方、別の場所。
「ふははは!! 俺様登場!」
 広い花見会場で、リンスとクロエを見付けた新堂 祐司(しんどう・ゆうじ)は二人の手を掴んだ。
「上から来たね」
「二人が見えたからな。美咲に投げてもらった」
 何も言わずに投げてくれ、さああっちの方向に! と言って、岩沢 美咲(いわさわ・みさき)に無理矢理協力させたのだ。結果、いつも通りに派手な登場になった。クロエが驚いていたから成功といえよう。
「ゆうじおにぃちゃん、すごい!」
「そうか? じゃあクロエちゃん、メイド服を着てくれ! あっちに衣装はあるから!」
「どうしてそうなる。うちの子に変なことを吹き込まないように」
「リンスが着てくれてもいいんだぞ?」
「いや着ないし」
「まあそれはともかくとして、二人ともこっちへ来い! 花見だ宴だ宴会だ!」
 掴んだ手をぶんぶん振って、そのまま社たちの集まる場所へと連れて行く。引っ張られてクロエは楽しそうに笑い、リンスはつんのめりながらもついてくる。
「楽しそうだね」
 それからぽつりとそう言ったので、
「当然だ! 花見だぞ? 騒がずにはいられんだろう! というかリンスのテンションが低すぎるんだもっと上げていけ!」
 祐司は再度、手を振った。上下にぶんぶん。
「これでも楽しんでるけどね?」
「足りん! 勢いでメイド服を着るくらい上げろ!」
「結局そっちか」
「それが俺様だからな! ふはははは!!」
 高笑いを上げながら、場所取りをした場所に到着。
 リンスの姿を見つけた社が、
「お♪ リンぷーも来たんか♪ ええタイミングやでぇ〜!」
 たこ焼きを焼きながら、にかりと笑った。
「日下部はどうして花見の席でたこ焼き焼いてるの」
 リンスの疑問に、ちっちっち、と指を振り。
「こういう席ではロシアン系イベントは必須なんやで?
 というわけで、ロシアンたこ焼きの仕込中やねん。リンぷーも参加やからな!」
「えっ」
「嫌とは言わせんぞ! ふはははははは!」
「さぁさぁさぁ! 新学期、新生活、新と名のつく行事が多いこの季節! 色々あると思うから、景気付けのロシアンや!!」
 焼き上がったたこ焼きを手際良く皿に盛り。
 にやり、社が笑った。
「ほな、ロシアンたこ焼きの開幕やで〜♪」


「クロエちゃーん」
「ヴァーナーおねぇちゃんっ」
 ロシアンたこ焼きの輪から離れたクロエへと、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は抱きついた。クロエもぎゅーっと抱き返す。
「ヴァーナーおねぇちゃんもきてたのね!」
「きてたですよー♪ みんなでお花見するって社おにいちゃんがおしえてくれたです♪ だからおべんとつくってきたのですー」
 一旦離れてシートに座り、それからじゃんっと出したのはピンク色のエコバック。桜の刺繍がされた、可愛らしいものだ。
 その中に入れたお弁当箱を取り出して、蓋を開いた。
「わぁ……!」
 クロエが感嘆の声を上げる。
「これぜんぶ、ヴァーナーおねぇちゃんがつくったの?」
「はいです♪ たのしくなるようにいろんなサンドイッチさんに、みんな大好きな鳥のからあげさん」
 ひとつひとつ、指差して楽しげに説明する。
「それからタコさんウィンナー! ミニトマトさんもかわいいからいれちゃいました」
「タコさんすごいー……わたし、こんなふうにじょうずにつくれないわ」
「じゃあ、こんどいっしょにつくるです♪」
「おしえてくれるの?」
「この間のタオルねこさんのお礼なのですよー」
 にこにこ笑って、小指を差し出す。
「ゆーびきーりげーんまん」
「うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーますっ」
「「ゆーびきった」」
 約束を交わして、二人で顔を見合わせて、にこっと笑う。
「わたしもおべんとう、つくってきたの!」
 それからクロエもお弁当箱を取り出した。
 おにぎりや、少し焦げた卵焼きの入ったお弁当箱。
「ヴァーナーおねぇちゃんほどじょうずじゃないけど……」
 クロエにしては珍しく、不安そうな声で言う。
「わーっ! クロエちゃんとヴァーナーちゃん、お弁当作ってきたんだ!」
 そんな声を吹き飛ばしたのは、日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)の明るい声。
「ちーちゃん」
「美味しそうだねー☆」
 満面の笑みでそう言って、千尋がシートの上にあがる。ちょこんと正座する千尋に、
「ほんとう?」
 クロエが確認するように問い掛けた。
「うんっ。ふたりともすごいね♪ ねえねえ、食べてもいい?」
「もちろん!」
「めしあがれですよー♪」
「わたくしも一緒に頂いてもよろしいですか?」
 ヴァーナー、クロエ、千尋の三人が輪になっているところへと、ブランローゼ・チオナンサス(ぶらんろーぜ・ちおなんさす)がやってきた。
「どうぞですよー」
「おはしとおさら、どうぞ!」
「ありがとうございます♪」
 シートにあがり、ちょこんと座ったブランローゼを千尋がじっと見る。
「? どうかしましたの?」
「花妖精さんだよね! ちーちゃん、花妖精さん初めて見たよー♪」
「はなようせいさん?」
「きれいなお花なのですー♪」
 三人からそう言われ、ブランローゼの表情が少し恥ずかしそうな笑みに変わった。
「ね! 綺麗だよね! 桜も綺麗だけど、おねえさんのお花もとっても素敵☆ なんていうお花なの?」
 それから千尋のその言葉に、「お姉さん……」と嬉しそうな顔をしてから、
「なんじゃもんじゃの木ですわ」
 と質問に答える。
「なんじゃもんじゃ?」
「おもしろいおなまえね!」
「かわったなまえなのです〜」
「別名もありますけど、こちらの方が親しみ易い名前ですわよね」
 ふわりと微笑み、お弁当に箸を伸ばした。それを皮切りに、みんなでお弁当をつまむ。
「飲み物もあるですよ〜。生姜紅茶とオレンジジュースです♪」
「ちーちゃん、オレンジジュースがいい!」
「わたくしは紅茶でお願いします」
「はいです♪」
 飲み物も入って、のんびりまったり食事モードだ。
 けれど、花より団子というわけでもない。
「桜、綺麗だねー♪」
 目的である花見だって、する。
「わたくし、お花見初めてですわ!」
「わたしもはじめてなの! ローゼおねぇちゃん、いっしょね!」
「まあっ、そうなのですか。良い思い出になるように、めいっぱい楽しみましょうね」
「うん!」
 食事を終えたら、そうやって桜の木を見上げる。
「……ありがとう」
 不意に、ブランローゼが呟いた。
「?」
 きょとんとする三人に、ふわりと彼女は笑いかける。
「花も植物も、話しかけてもらえると嬉しいんですのよ?
 それに、ありがとうには力がありますの。素敵な言葉、温かな笑顔。言う側も、言われる側も明るい気持ちになれる言葉なんて、そうありませんわ」
 だから大好きで、だから伝えたいのだと話すと、
「ありがとうっ」
「ありがとうなのです」
「ありがとー!」
 三者三様に、気に向かってお礼の言葉。
 綺麗に咲いてくれてありがとう。
 魅せてくれてありがとう。
 お邪魔させてくれてありがとう。
 色々なありがとうの言葉を、気持ちを込めて語りかける。
 優しい風が吹いた。花びらが舞う。四人の周りを、時間や重力にも逆らうようにゆっくりと、くるくると。
 それは幻想的で、まるでありがとうのお返しを魅せてくれるようで。
 綺麗と言葉を発するのも野暮で、何も言えずに四人は桜を見つめる。


 それはとても画になる様で。
 紺侍がその瞬間を逃すはずがなかった。
「いやいやホント、良いもの撮れた」
 社や祐司、ヴァーナーに呼び出されたから来たけれど。
 こんな素敵なものが撮れるならもっと早く来れば良かったかな、とも。
「お。キツネ、エエとこ来たな〜♪」
「……へ?」
 思った瞬間、社に腕を掴まれた。がしりと。力強く。逃がさんとでも言うように。
「……え? えっ? 何スか?」
「ロシアンたこ焼きや。参加してき♪」
「謹んで辞退申し上げたく」
「却下や♪ 社長命令やで〜♪」
「横暴だァ!」
 前言撤回。
 もう少し遅く来ていれば良かった、かも。


「ロシアンたこ焼きか……日頃の行いが試される時だな!」
 祐司が不敵に笑う。
「ちょ、やめてくださいよ。オレ確実に被弾するじゃないっスか!」
 逃げようとする紺侍を、
「それでもおもろいからええよな♪」
 社が捕まえて、
「はっはっは。面白そうじゃないか、ロシアン! 私も参加するぞ。なに、口直しになるものも用意してある」
 一方で自ら巻き込まれに来たニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)はたいやき片手に楽しそうな笑顔。
「俺も食べるの?」
 いつも通りのテンションでリンスが言うと、
「もちろんや! さあさあ、どれでもガブリといってくれ!」
 社がずいっと皿を出した。
 逃げられないのは紺侍とのやり取りを見ていてわかっていたから、なんとなくでひとつ選び。
「……うん、普通のだ。タコ入ってないけど」
「あ、それはハズレやな。なんとも微妙なハズレや」
「中身が異常な物を選ぶでもなく、タコが入っているわけでもなく……おいしくないな、ネタ的に」
「でも美味しいからいいや」
 リンス、アタリかハズレか微妙なものを引き当てる。
「ならば次は俺様だ! タコ入りを引き当ててやる!」
 祐司が手を伸ばし、躊躇いなく口に入れた。
 数秒の沈黙。
「…………っ」
 後に、口を抑えてもんどり打った。
「中身はー?」
 容赦なく訊きにいく社に、身振り手振りで祐司は伝える。
「ふんふん。わさび入り、と……」
「ちょ、えげつねェ!」
 祐司、わざび入り直撃。
「ほな次いこか!」
「ンで回すの早ェ!」
「私か」
 続いて回されたのはニコラである。
「これだな」
 残ったみっつのうちの一つを選び、口に入れると。
「…………」
 祐司の時以上に長い沈黙。
「ハズレっスか?」
 紺侍の問いに、掌をすっと向けて応える。ちょっと待て。そう言うように。
 それからまたしばらく沈黙が流れ、
「……ふう、噛み切れなかった」
 漸く口にしたのはその言葉。
「ってことは」
「大タコ入りだ。しかしタコは噛み切れなくてどのタイミングで飲み込めばいいのかわからんな」
「ニコラ、大当たり〜!」
 どこからともなくベルを取り出した社は、がらんがらんと振ってみせる。さながらクジで一等を当てたような騒ぎ方である。
 ニコラ、ハズレ回避の大タコ入り。
 残った二つのたこ焼きを前に、社はふっと薄く笑った。
「キツネ。今までに出たのは何や?」
「今まで……ってェと、アタリかハズレか微妙なもの、微妙にハズレ、大アタリが一つ……」
「そこから推測されることは何や?」
「……残るは普通のアタリと、大ハズレ。っスか?」
「ほな、食うか。どっち選ぶ?」
 先に選んでええで、と皿を差し出す社。
「ンじゃこれ……」
 紺侍が選び、二人は同時にたこ焼きを口に運んだ。
 噛んだ瞬間、紺侍の口の中に広がったのは甘い味。
「……!?」
 カカオの香り。濃厚な甘み。それと混ざるは、和風ダシの効いたたこ焼きの生地……。
 チョコレート入りのハズレは、なんとも言えない味だった。しばし、悶絶。吐き出さなかった自分を褒めてやりたい気分になった。
 じゃあ社がアタリを引いたのか。そう思った紺侍が社を見たら、彼も彼でもんどりうっていた。
「え。オレがハズレなんだから社さんアタリなんじゃ……」
「ふ……予想を裏切りたかったんや……ちなみに中身はカラシやで……」
 それだけ告げると、がくりとうつ伏せた。
「あの流れでどっちもハズレとか……社さんパネェ」
「それよりフラメルのたい焼き美味しいよ」
「はっはっは。もちろんだとも! この錬金術師、ニコラ・フラメルに不可能などない!」
 称賛にニコラが胸を張って笑う。
「万能だね、錬金術」
「いや? 調理は至ってまともだぞ。きちんと台所で料理をしたとも」
「錬金術師って言うから。実験するように作ったのかと」
「ビーカーやフラスコ、薬品使用でか? そんなはずあるまい。人様に食べてもらう料理だぞ。危険な真似など出来ん。
 そういうわけで、こちらは安全だ。桜餡の詰まったたい焼き、嫌いでないなら食べるといい。少々餡がはみ出してはいるがな」
 それからそうして紺侍に勧めて、
「……あ、ホントだ美味ェ」
 口直し、完了。
「不思議なものだ」
 お茶を淹れながら、ぽつりとニコラが零す。
「私は昔の記憶はないが、前にもこんな風に大勢で花見をしたような気がするよ」
 その言葉にリンスや紺侍が何と返すべきか迷っていると、
「そうだろう! 花見は良いものだ!」
 復活した祐司が高く笑った。
「せやで! アホほど騒いで楽しめばええねん!」
 続いて社も復活し、肩を組んで笑う。
「はっはっは。そうだな、花見とは楽しいものだな!」
 楽しそうにニコラも笑い、笑い声が響きわたる。