波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

春が来て、花が咲いたら。

リアクション公開中!

春が来て、花が咲いたら。
春が来て、花が咲いたら。 春が来て、花が咲いたら。 春が来て、花が咲いたら。 春が来て、花が咲いたら。 春が来て、花が咲いたら。 春が来て、花が咲いたら。

リアクション



11


 会場の盛り上がり具合と、過ぎた時間を見て。
「そろそろええ時間やな!」
 社は声を上げた。
 集まる視線にニヤリと笑い、
「宴会芸始めるでー!」
 先程よりも大きく声を張り上げた。
「寺美、ちょっとええか? あ、すまんがオリバーも手伝ってや♪」
 設置しておいた簡易更衣室に望月 寺美(もちづき・てらみ)を押し込んで、ヴァイオリンを弾いていた終夏と一緒に更衣室に入る。
「はう? はう〜!? 社っ、目隠しされたら何も見えませんよぉ〜!」
「ええやん、ちょっとじっとしとき。あ、オリバーそこ。もうちょい上やな」
「この辺かな?」
「そうそう、その辺。あとはここと……」
「はぅ〜、くすぐったいですぅ〜! そ、そこはらめぇ〜! ですぅ〜!!」
「中で一体何が……」
 更衣室から聴こえてくる声に、周囲が不安になり始める頃。
「皆、待たせたな!」
 更衣室の扉が開かれた。
「じゃ〜ん♪」
 得意気な社に連れられて、簡易ステージの上に昇ってきたのは、
「望月寺美、バージョンスプリングや!」
 桜のタトゥーシールを、それこそ桜吹雪の如く身体にちりばめられた寺美である。
「は、はぅ〜!? な、なんですかコレはぁ〜!?」
 今まで目隠しをされていた寺美が、自身の姿を見て素っ頓狂な声を上げた。そんな寺美の反応はすっぱり無視して、
「どうぞこれからもウチの花妖精を宜しくお願いします♪」
 笑って社は言った。
「って! 社ぉ〜、ボクは花妖精じゃなくてゆる族ですぅ〜!」
 すかさずどこからともなく巨大ハリセンを取り出し、社にツッコミを放つ。すぐ隣にいる終夏には当たらない、絶妙なハリセンさばきである。
「ラミちゃん可愛いー!! やっぱラミちゃんは世界のマスコットキャラクターだね☆」
 その時千尋から大絶賛の声が上がり、
「とってもかわいいわ!」
 クロエからも褒められ、
「うん、可愛い」
「寺美ちゃん可愛いよ!」
 意外と好評な様子に、寺美が「はぅ? はぅ?」と戸惑いの声を上げた。
「寺美、いっそ花妖精に転職せぇよ」
「転職してなれるものではありません〜っ! でも、踊ります〜♪ はぅ〜、皆さんも踊りましょ〜☆」
 くるくる踊る様はご機嫌そのものじゃないか。
 ステージ上に千尋やクロエも呼びよせて、踊る寺美を見ながら社は笑った。


「ほな! 次の宴会芸は誰がやる〜!?」
「ふはははは! 俺様が行こう!」
 社の声に、ステージ上に躍り出たのは祐司である。
「クロエちゃん、千尋ちゃん、寺美ちゃん。ちょっとこっちへ来てくれないか?」
「? いいわ!」
「なあにー?」
「はぅ〜? またボクですかぁ?」
「それからリンスも!」
「俺はやだ。嫌な予感しかしない」
「チッ……」
 舌打ちしつつも簡易更衣室に三人を連れて入り、待つこと一分。
「ふはははは! これぞメイド天国!」
 ばっ、と開かれた扉から、三人のメイドさんが現れた。
「一分で全員を着替えさせただと……!?」
「あんなひらひらふわふわの服に!?」
「うわっ、ちー、めっちゃ可愛いやんけ……!」
 驚きの声や親馬鹿の声に、祐司が三度高笑いを上げた。
 その瞬間、
「いい加減にしなさいっ!!」
「ぐふぅっ!!」
 美咲の鉄拳制裁が飛んできた。ステージ上、端から端まで吹っ飛ぶ程の一撃なのに、
「痛いだろうが!」
「もう傷一つない癖にどの口が言うか!」
「これぞギャグ的瞬間回復! ふはははは、以上俺様の宴会芸だ!」
 おおー、という声と共に、ぱちぱちと拍手が送られた。


「秋ちゃんは何かやらへんの?」
「宴会芸?」
 社に問いかけられて、秋日子はうーんと首を傾げる。
「みんなの前でできそうなものなんてないなぁ……」
「はーい! 私、リンス君のモノマネやりまーす♪」
 秋日子の答えにかぶせるように言ったのは、キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)だ。
「え。キルティ、リンスくんのモノマネって、キミ……」
 思わず、呆れた目で見てしまう。それは宴会芸、なのだろうか。
 どうなの、と思っているうちに、キルティスは持ち前の行動力でリンスをステージ上に引っ張って行った。
「こほん」
 ステージ上で咳払いをしたキルティスが、
「……どう、似てる?」
 声を低めに作り、抑揚を殺して声を出す。
「似てない」
 との駄目出しは、隣の本人から。
「そもそも俺、猫耳ないし」
「それは仕方ないと思うけど」
「あ、でも帽子かぶればわからないかな」
「わからないんじゃないかな。かぶってみようか」
「そうだね」
「ねえ、誰か帽子貸してよ」
 淡々と繰り広げられる二人のやり取りに、
「あ、あれ? 意外と似てる……?」
「っていうか、どっちがどっちかわからなくなってきたぞ」
「帽子かぶせたら本当にわからなくなるんじゃ……」
 秋日子たちは思わず顔を見合わせた。
「でも、これ、モノマネ……?」
 やっぱりなんか違う。
 そうツッコミたいが、言うべきか言わないべきか。悩んでいるうちに、キルティスがいつもの笑顔に戻った。
「うふふ、どうでした〜?」
「だから、似てない」
 やっぱり駄目出しは本人から。
「似てますよぅ。クロエちゃんのモノマネやってくれる人が居たら完璧になりますね!」
「クロエのモノマネねぇ……」
 二人の会話に、秋日子は会場を見回してみた。けれど、生憎似た顔立ちの子は居ない。
「背恰好だけなら千尋ちゃんが近いかもね」
 秋日子が言うと、
「ちー、今度クロエちゃんの恰好してみるか〜?」
「ちーちゃん、クロエちゃんとお揃いしたい!」
「おそろいするの? ふたごごっこね!」
 クロエと千尋が、思いのほかノリノリの様子で答えた。いつかやるのだろうか。似てるか似てないかはともかく、微笑ましそうだから見てみたいとは思う。
「それにしてもキルティスさんは男なのか女なのかイマイチわかんねぇな」
 ぽつりと遊馬 シズ(あすま・しず)が言った。
「あはは。男装時と女装時の変貌っぷりをやってみても良かったかもね、キルティは。
 そういう遊馬くんは? 何かしないの?」
 振ってみると、思案気な顔をした後、
「……そうだな、じゃあ」
 シズが取り出したのは指穴が六つ空いた笛。
「何その楽器初めて見た」
「ティン・ホイッスル」
 簡潔に楽器の名前を答え、その場で笛の音を響かせた。春らしい曲が響く。
 二分ほどの演奏を終えると、
「あんまりこういうのは宴会向きじゃなかったか?」
 そう問われたので、秋日子は首を横に振った。
「いい音じゃない」
「なら良かった」
「あ。そういえばさ、ここにいるみんなって、楽器できたり歌が上手な人が居るじゃない? セッションしてみたら?」
「お! それ宴会っぽくてええな!」
「って社さんも言ってるし」
 と、勧めてから気付いた。
「あ、でも遊馬くん、くれぐれも『テンポが少しずれた』とか『音が半音違う』とか細かいこと言わないように! 音楽は楽しめればそれでいいの!」
 シズは音楽に関してだけはうるさく、音楽バカと言っても過言ではないのだ。自分が関わると拍車が掛かるきらいがあり、完璧な演奏を求めたりも、する。
「う。……気を付ける」
 けれどその点以外は常識人の彼のこと。先に注意すれば、それがどういう意味かも考えてくれる。
「セッションするなら、私ヴァイオリン弾こうかな」
 そして終夏が名乗りを上げ、
「ちーちゃん、歌う!」
「ボク、踊るです♪」
「わたしも! うたいたいしおどりたい!」
 千尋が、ヴァーナーが、クロエが名乗りを上げた。
 総勢五人の音楽隊がステージに上がり、音楽を披露し拍手を貰うまであと数分。


「やっぱり桜は良いな」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は、料理を食べながら呟いた。
 隣に居る東峰院 香奈(とうほういん・かな)に笑顔を向け、
「何回でも見ていられる。香奈もそう思うだろ?」
 問い掛ける。
「しーちゃんは桜が好きだね」
「ああ。香奈は? 嫌いか?」
「ううん。私もしーちゃんと同じ。桜が好きだよ」
 短いやり取りの後、どちらともなく桜を見上げた。
 ぽかぽかとした陽気。周りの楽しそうな雰囲気。たまに吹く風は気持ち良くて。
 時間を忘れて見入っていたところ、
「忍よ。せっかく花見をしているんだ。芸の一つもしてみせろ」
 織田 信長(おだ・のぶなが)が唐突に話を振ってきた。
「いきなり何だよ」
「花見とは宴。宴に芸がないとは如何ともしがたいのでな」
「って言われても……俺は芸なんてできないぞ」
「なんでもよい。そうじゃな……それなら敦盛をやれ!」
 あの場所で、と信長がステージを指差す。丁度、ヴァイオリンとティン・ホイッスルのセッションが終わったところだ。
 言われるがまま、忍はステージに上がった。


 忍がステージに上がるのを見送った香奈は、ノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)が誰とも喋らないでいることに気付いた。
「ノアちゃん、どうしたの?」
 隣に移動し問い掛けると、
「大丈夫よ」
 短く返された。
「具合が悪いとかじゃない?」
「ええ、そんなことないわ。ただ静かに花見を楽しみたくて。心配してくれてありがとう」
「そっか。なら安心だね」
 具合が悪いわけではないことに安堵して、ステージ上の忍を見る。
「忍の敦盛、聞いてみたかったのよね」
 ぽそり、ノアが言った。
「うん。私も」
 しーちゃん、頑張れ。
 ステージ上の忍には聞こえないだろうが小さく応援。すると、忍と目が合った。まるで応援が聞こえたみたいに。
 手を振ってみせると、柔らかく微笑みが返される。
 次の瞬間には、演舞が始まっていた。


「45点じゃな」
 敦盛を終えた忍を待っていたのは、信長の辛口の評価。
「全然駄目ね」
 次いで、ノアのキツイ一言。
「お前ら……せめてお世辞でもいいから褒めてくれよ」
「お世辞? そんなの言われて嬉しい?」
「う……。じゃ、労いの言葉とか」
「お疲れ様。私は魅入っちゃったけどなぁ」
 冷たい言葉の連発だったため、香奈からのフォローがとても温かく感じる。
 そうこうしている間に、信長がステージに上がった。いつの間にか桜模様の赤い着物に身を包んでいる。普段結いあげている髪も下ろし、花飾りを付けて飾っていて。
「手本だ。この私がひと差し舞ってやろう」
 そう嫣然と笑うと、敦盛を始めた。
「人間五十年〜、下天の内をくらぶれば〜、夢幻のごとくなり〜」
 声が、響く。
「一度生を得て〜滅せぬ者のあるべきか〜」
 騒がしかった周りの声が、音に聴き惚れしんと静まるほど、美しく凛とした信長の声。
 感動して言葉も出ない中、信長がステージを降りてきた。
「どうじゃ?」
 そう問いかけられて我に返る。
「信長! すごく綺麗な舞だった!」
 称賛すると、当然とでも言わんばかりに胸を張る。
「あんたにしてはなかなかやるじゃない」
 ノアも珍しく褒めているし、香奈も満面の笑みで拍手を送っている。
 全員から褒められたのが恥ずかしいらしく、「やめんか、騒がしい」と言って信長はそっぽを向いてしまった。
「俺さ」
 言うなら今かな、と思って忍は静かに語りだす。
「香奈や信長やノアと出会えて、良かった。
 三人とも、これからもよろしく頼むな」
 手を差し出して、握手を求める。
 真っ先に香奈が手に手を重ねてくれて、それに信長も続き。最後にノアが手を重ねた。
 重なった四つの手は、絆を深めるようにしばらく離れることはなかった。