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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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レッスン3 空京の街に出てみましょう。その1


 諸葛 霊琳(つーげ・れいりん)は、元INQB所属の魔法少女である。
 INQBが豊浦宮に合併された折、こちらに移ってきた。
「ふふーん、ふん」
 鼻歌を歌いながら、豊浦宮の事務所を掃除する。
 自分宛の依頼が来るまでは、こうして掃除することが霊琳の日課になっていた。
 はたきでぱたぱた埃を落とし、机や窓を拭いて、最後掃除機をかけて床を綺麗にする。
 あらかた綺麗になったところで、
「アラン。何か仕事はきたアルか?」
 パートナーのアラン・エッジワース(あらん・えっじわーす)に問いかけた。掃除を始めるとそっちに集中してしまうため、依頼の受付は彼に任せておいたのだ。
「依頼はありませんでしたが、豊美様が魔法少女を引き連れてまいられたようですよ」
「ん?」
 どういうこと? と首を傾げているうちに、
「こんにちはー」
 事務所の扉が開かれた。
「こんにちはアル。みんな連れてどうしたアルか? 知らない顔ばっかりアル」
「あ、こちらの方はみんな新米魔法少女なんですよー。なりたてなので、まずは事務所見学を、と思いまして」
「アイヤー。そういうことならお茶菓子を買っておけばよかったアル」
 ぺち、と額を叩いたら、
「きをつかわなくていいの。それより、これからよろしくおねがいしますするわたしたちのほうこそなにかするべきなのに」
 なにやら大人びたことを少女に言われた。
「あなたも新入りアルか?」
「うん。クロエよ」
「そか。これからよろしくアルよー」
 にっこり笑顔で握手して、ぶんぶん手を振る。
「ワタシは八卦少女ラッキー★れいりんアル。こっちは、」
「わたくしは、カボチャの国の執事ミスターパンプキンでございます。霊琳様の本来のパートナーが魔法の国にバカンスに行ってしまわれたので、急遽呼ばれて参りました」
 使い魔として、ジャック・オ・ランタンをイメージした格好のアランと共に自己紹介。
 それからはたと気付いた。
 この子たちが全員新入りなら、霊琳は先輩にあたるわけで。
 何か教えられることがあるかもしれない、と。
 少なからず、新入り魔法少女たちも期待しているようで。霊琳をじっと見つめている。
 こほん、とひとつ咳払いしてから、
「新人さんへ向けて、ちょっとお話をさせてもらうアル。……ワタシも新人みたいなものアルけどね」
 話が硬くならないように、親近感を与えるようなことも付け足しておく。
「これはワタシ個人の考え方で、他の人はまた違った考え方をしてると思うアルけど……」
 それから、前置きひとつ。
「人の夢は儚くて、豊浦宮のお給料の話とか『正体はどこの誰だ』なんて話が出るとがっかりしてどっかに消えてっちゃう物アル」
 告げられた現実感溢れる話に、少女たちがうっと一歩引いた。
「だから、魔法少女以外の人がいる所ではこういう話はしちゃ駄目アルよ」
「だいじだとおもったわ」
 魔法少女は夢を与えるお仕事。
 だから、バレてはいけないのだ。伝わってくれたようで、何よりである。
「『魔法少女クロエはリンスさんの同居人とは別人』ぐらいの心意気で行くと良いと思うアルよ」
「それくらいげんみつにないしょなのね!」
「その通りアル。だけど、『夢のない話』をずーっと自分の中にだけ溜め込むとストレスが溜まって、自分の中の夢や希望が磨り減ってしまうアルよ。そういう時は、おんなじ魔法少女同士で嫌な物を出してスッキリするアル!」
 美味しいものを食べたり、ウィンドウショッピングをしたり。
 ストレス発散して、話をして、また明日から頑張れるようにするのだ。
「ひみつね?」
「そうアル。魔法少女同士の、ヒ・ミ・ツ。それに、女の子は秘密があった方が魅力が増すアルよ!」
 ウインクしてみせると、クロエが嬉しそうに笑った。
「ワタシが教えられるのはそんなところアルね。参考になったらなによりアルよ」
 事務所の見学にいつまでも時間をかけるわけにもいかないだろうし。
 話も終えたし、霊琳は自ら退席しやすい空気を作った。豊美ちゃんが頷いて、「それでは街に出てみましょうー」と指揮を取る。
「ばいばい!」
「ばいばいアル」
 手を振るクロエに手を振り返し、霊琳は新米魔法少女たちを見送った。


*...***...*


 神代 明日香(かみしろ・あすか)は、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)――通称ノルンの様子を見るため、今日も今日とて保育園に来ていた。
「これ、差し入れです〜。ノルンちゃんに渡してあげてください〜」
 持ってきたマドレーヌは保育園の教員に預けて、明日香は元気に遊ぶノルンを眺める。
 ノルンがぴょこぴょこと動くたび、ひとつに纏めた栗色の髪が跳ねるように揺れた。
「今日も元気そうですね〜」
 同じ園の子供たちと一緒に遊ぶ姿はとても微笑ましい。
 もう少し眺めてから帰ろうかな、と決めたとき、
「明日香さん、こんにちはー」
 豊美ちゃんの声がして、振り返った。豊美ちゃんは幾人か少女を連れており、その中には知った顔もあった。この間、明日香が大切にしている写真を取り上げようとしてしまったあの子とか。
 誰が居るかはともかくとして、
「こんにちは〜☆ 豊美ちゃん、お散歩ですか?」
 明日香はにこにこ笑顔で豊美ちゃんに挨拶を返す。
「お散歩というより、新米魔法少女さんと一緒に街を見て回ってるんですよー」
 なるほど。彼女たちは魔法少女になりたてだから、豊美ちゃんの後をついてまわっているのか。
「あすかおねぇちゃん、こんにちは」
 お久しぶりの彼女から、ぺこりと挨拶された。ちょっぴり腰が引けているのは、あの時のことを悪く思っているからかもしれない。たぶん、良い子だ。
 だから明日香は、もうなんとも思っていないよ、という意思表示のために豊美ちゃんに向けた類の笑顔を少女にも向ける。
「こんにちは〜☆」
「あれ? 明日香さん、クロエさんとお知り合いですか?」
「いいえ〜。今初めて名前を知ったような関係ですよ〜。ただ、お話したことはあります〜」
 ね〜、と少女……クロエを見た。クロエがこくりと頷く。
「まえに、わるいことをしちゃったの」
「あ。ちゃんと覚えていたんですね〜。良い子ですね〜」
 一度会った相手のことをきちんと覚えているなら、やっぱり良い子だ。手を伸ばしてクロエの頭を撫でる。髪の毛がさらさらしていて、とても撫で心地が良かった。クロエがくすぐったそうに笑う。
 なでなでなで。
 なでなでなでなで。
「……あのぅ。あすかおねぇちゃん、いつまでなでるの?」
「良い髪の毛ですね〜。いつまでもこうしていたいです〜」
「あ! 豊美さんだー!」
 クロエの頭を撫で回していると、ノルンがこちらの話し声に気付いて駆け寄ってきた。
「明日香さんも居るー! 知らない子もいっぱい居るー!」
「ノルンさんこんにちはー」
「こんにちは! 豊美さん、何してるんですかー?」
「新米魔法少女のみなさんと街を見て回っているんですよー」
「新米! ということは、私の後輩なんですね! 私は先輩ですねっ」
 誇らしげに、ノルンが胸を張った。小さな子が背伸びしているようにしか見えないけれど、それがまたなんとも可愛らしいのだ。
「明日香さんに撫でられているのが、クロエさんです」
「先輩です。えっへん」
「じゃなくて〜。ノルンちゃん、自己紹介しなくちゃダメですよ〜」
「あっ。……魔法少女のノルンです! 先輩って呼んでもいいですよ」
 明日香に言われ、ノルンが慌てて名前を名乗った。そして再び胸を張る。誇らしげだ。
「魔法少女としての活動などを教えてあげたいんですー」
 明日香やノルンに向けて、豊美ちゃんが言った。
 けれど、明日香は自分が魔法少女であることをクロエに明かすつもりはなかった。
 正式に魔法少女として認定されてはいるものの、明日香の行動は正義の味方とは程遠い。
 ――幻滅させては申し訳ないですからね〜。
 自分が守るべき世界のためなら、ごく身近な親しい人たちのためなら、他人の命をも切り捨てる。
 そういう魔法少女も居るということは、まだ知らなくてもいいだろう。
「ほらほらノルンちゃん。教えてあげましょうね〜」
「えっ。……え、えーと、えーと」
 ノルンは教える内容を考えていなかったらしい。明日香に話を振られ、指先を意味なく動かしたり視線をさまよわせたりしている。
「こ、子供たちに夢を与えるんです。それが活動です」
 しどろもどろになりながらも、なんとか取り繕った。
 えらいね、上手に教えられたね、ともう一方の手でノルンの頭を撫でる。
「クロエさんは明日香さんや豊美さんと仲良しなんですか? だったら、私も仲良くしてあげてもいいですよ。仲間に入れてあげましょう」
「ほんとう?」
「本当です。先輩ですから後輩の面倒もばっちり見るのです」
「うれしい! なかよくしてほしいわ」
 明日香に撫でられたまま、クロエとノルンが手を繋いだ。
 二人の様子に頬を緩めながら、明日香は撫でる手を止めた。そろそろイルミンスールに帰らないといけない。
「それでは私はこの辺で。ノルンちゃんと仲良くしてげてくださいね」
 にっこり笑ってクロエに言って、ばいばいと手を振った。
「あすかおねぇちゃん、かえるの?」
「はい。イルミンスールで待ってる人が居るんです♪」
 その人のためにご飯を作りたいし、お話をしたいし、一緒の時間を過ごしたい。
 だから今日は帰るのだ。
「クロエさんが立派な魔法少女になれるように、応援していますね」