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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 唯一の贖罪 ■
 
 
 
 アトゥ・ブランノワール(あとぅ・ぶらんのわーる)は元々は日本の生まれだ。
 実の両親は、アトゥが幼いときに家に押し入った強盗に殺されてしまった。身寄りの無いアトゥを引き取ってくれたのは、父の知り合いだった九重という名の男性だった。
 その人の墓参りをする為に、アトゥは夏の長期休暇を利用して日本へと帰ってきたのだった。
 
 花と線香を持って墓へと向かえば、そこには先客がいた。
 故人と何を語り合っているのか、墓に手を合わせてじっとしている大和撫子然とした20歳前後に見える美人。
 それを見た途端、アトゥの足はぴたりと止まった。
(御門……)
 九重 御門。御門本人は知らないだろうけれど、それはアトゥの産んだ娘だった。
 気配に気づいて振り返った御門は一瞬訝しげに眉をしかめ、それからアトゥを睨みつけながら立ち上がった。
 
 
 ――両親を失ったアトゥを引き取ってくれた男性は、古武術を教える道場を開いていた。
 その頃のアトゥは、弱さというものを毛嫌いしていたから、強くなるためにその人に古武術を教えてもらっていた。
 今思うとその頃の自分は性格も随分ひねくれていた。
 強くなること。それだけが全てで、それだけを求めていた。
 そんな性格が災いしてか、ある時アトゥは道場に通っている数少ない門下生のうちの数人に襲われてしまった。
 その時アトゥは子供を身篭もったのだ。
 堕ろすことだって出来た。
 けれど。
 子供を身篭もる原因になってしまったのは自分の弱さ。襲ってきた門下生を一捻り出来る力が、強さが無かったから。
 そう思ったアトゥは、己への戒めとしてその子を産んだのだ。
 本当に最低だった。今ではそう思うけれど、そのときのアトゥにはそれすら分からなかった。
 産みはしたけれど、子供を育てるだけの能力もないアトゥに代わって、その子は九重が自分の娘として育てた。
 その一件以来、アトゥは以前にもまして強さを求めるようになった。すべての悪いことは、自分に力が無かった所為。ならば強くならなくてはならない。それは既に強迫観念のようになっていた。
 
 そんな日々が続き、アトゥが二十歳になろうかという頃。
 強さという妄執に囚われ、実際に強くなってきていたアトゥは……組み手中に力の加減を誤って、九重を殺してしまった。
 そのことがアトゥに、強さを追い求めるだけの自分の姿の滑稽さとむなしさに気づかせてくれた。
 自分が死に物狂いで求めていた強さで、自分に温かさというものを教えてくれていた大切な人を殺してしまったのだから。
 アトゥは御門を九重の父に託すと、自分はその家を離れて世界を旅した。
 やがてパラミタに渡って契約者となり、その際に瞳の色と肌の色が変化した。髪の毛もともと白髪だったけれど、今はその5分の3ほどは黒くなっている――。
 
 偽名を名乗り、シャンバラで暮らし。見た目も少し変わり。
 けれどアトゥの過去がそれで変わるはずもない。
 きっと御門は自分を恨んでいるだろう。養父だと知りながら慕っていた九重をアトゥが殺したときの光景を、御門は目にしているのだから。
「お前、あの門下生の……ッ! どの面下げてやってきたんだ!」
 御門が投げる罵声も、ぶつけられる憎しみも、アトゥは逃げずに正面からすべて受け止める。
「父さんの仇! 私は、ゆるさない。お前を――絶対に許さない!」
 御門の目尻に浮かぶのは、悲しみではなく悔しさの涙。
 父親を門下生の女に殺された娘の涙。
(本当に、私は駄目な母親だね……)
 自分が産んだ娘に何もしてやれることがない。
 こうしてただ、受け止めることだけが唯一の贖罪だなんて――。