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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ ネルソン家訪問 ■
 
 
 
「イングリットさんは夏の休暇はどうされるんですかぁ?」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)に聞かれ、イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)は実家に帰りますわよと答えた。
「両親がパラミタの話を聞かせて欲しいと言われていますし、少し長めに帰省する予定でいますわ」
 パラミタの百合園女学院に入学して、イングリットにとってこれが初めての長期休暇だ。実家に連絡は定期的に入れていても、やはり娘の顔が見たいというのが親心。早く帰ってくるようにとの矢の催促だとイングリットは笑った。
「そういえばイングリットさんはイギリス貴族の出身でしたねー。一体どこら辺の出身なのでしょう?」
「ノーフォークですわ」
「そうなんですかぁ。ウェールズとは逆の方角ですね」
 メイベルの母方の祖父母はイギリスのウェールズ地方に住んでいる。何か付き合いが無いかと聞いてみたけれど、イングリットには心当たりはないようだった。
「ではあなたはウェールズ地方に里帰りされるのかしら?」
「いいえ、私の実家はカリフォルニア州なので……」
 そう答えてメイベルはふと思いついて言ってみた。
「よろしければイングリットさんのお宅にお邪魔させていただいてもいいですか?」
 百合園女学院には世界各地の名家からお嬢様がやってくる。イングリットがどんな家庭で生まれ育ったのかには興味があった。
「ええどうぞ。うちの城に滞在するなら歓迎いたしますわよ」
 この時期、ネルソン家には多くの客が訪れ滞在するのだからと、イングリットは答えた。
 
 
 ノーフォークに建つ古城がイングリットの生まれ育った家だった。
 庭は幾つかの区画に分かれ、それぞれの趣向が凝らされていた。メイベルが通っていったウォーター・ガーデンでは噴水が涼しげに飛沫を散らし、水路を流れる水音も耳に心地良い。
「時間があれば是非他の庭もご覧になると良いですわ」
 イングリットがそう言う通り、庭を散策している滞在客の姿がそこかしこに見られた。
 
 両親への挨拶は夕食時に、ということで、メイベルはまずイングリットと差し向かいでティータイム。
 ドレッシーなワンピースで紅茶を楽しむイングリットはいかにもお嬢様然としている。
 学院で見る限りにおいても、イングリットは多少やんちゃなところはあるけれど、十分に百合園野校風に合った行動を取れる人だとメイベルは見ていた。
 だからこそ、イングリットが古流武術の使い手になったことが不思議でならない。
 その疑問を解消するのにこれは良い機会かも知れないと、メイベルはイングリットにそれについて尋ねてみた。
「うちの家系は海軍の将校を輩出してきたこともあって、わたくしも幼少の頃から文武両道に習い事を受けていましたの。スポーツハンティングなども嗜んでいましたから、それもバリツを習う切っ掛けとなっているのかも知れませんわね」
 習い事はどれも好きで熱心にやっていたのだけれど、泉美緒訪ねて来日した際、たまたま見かけた古流武術に心奪われてしまった。
「古流武術における特有の美しさと厳しさに魅入られてしまって、どうしてもこれを身につけたいと思ってしまったのですわ」
 以降日本の百合園女学院に転校し、古流武術バリツの修業に明け暮れることとなったのだと言う。
「ではどうしてヴァイシャリーの百合園に転校していらしたのですかぁ?」
「パラミタの方が強い相手に出会えるかと思ったからですわ」
 古流武術を極める為には、強い相手と戦ってその経験を己のものにすることだ。
 そう考え、イングリットは転校を決意したのだった。
「日本の百合園女学院に通っていたこともあって、別段抵抗はありませんでしたわ。父母もやりたい事があるのなら行ってくるようにと快く送り出してくれましたの」
 そう語るイングリットは生き生きとしていた。
 一見お嬢様らしからぬバリツだが、イングリットは彼女なりに真摯にそれに取り組んでいるようだと、メイベルは興味深くイングリットの話に耳を傾けたのだった。