リアクション
○ ○ ○ 「こ、こちらのパビリオンでは、シャンバラの現代、を……」 現代のパビリオンの衣装を纏い、セルマ・アリス(せるま・ありす)は苦しげに案内をしていた。 ……何故苦しげかというと。 「ああ、めんどい、めんどいよぉぉー……」 「ヴィー……いい加減にしてくれ……!」 パートナーのヴィランビット・ロア(う゛ぃらんびっと・ろあ)が、セルマの胴にしがみついているからだ。 「歩くのめんどい〜。このまま引き摺ってください。お願いします〜」 ヴィランビットはセルマより身長も体重もある。 その彼が全力でしがみつき、全ての体重を預けてきているのだ。 セルマは歩くのも必死で、案内業務を満足に行えない状態だった。 「仕方ない……。ヴィー! これ飲んで!」 取り出したのは、栄養ドリンクのような小瓶。ふたを開けると、ヴィランビットの口にぐいっと押し付けた。 「もが〜。これ何〜?」 ごくごく飲んだヴィランビットの身体が、突如縮みだす。 「にゃん? にゃんにゃにゃ?(あれ? 言葉が上手く出ない。身体が猫になっちゃった!?)」 口から出た声と、自分の身体を見て、ヴィランビットはしばし驚く。 「ここで大人しくしててくれよ、じゃ!」 パンフレットを手に、セルマは案内業務に戻ろうとする。 「にゃんにゃー。にゃあー(待ってー。置いてかないでー)」 先ほどまでと同じように、抱きつこうとヴィランビットはどーんとセルマに体当たりをする。 「って、離れろって! う、子猫なのに結構重い……? あーもー」 ぶらんぶらん抱きついているヴィランビットを一旦抱き上げて、それからセルマは地面に下した。 「ヴィー、俺一応コンパニオンやってるから邪魔しないで欲しいんだけど」 そして、セルマは穏やかに諭そうとする。 「にゃー」 ヴィランビットは目を潤ませて、セルマを見上げていた。 「そんな目で見たって連れていけないものは、連れていけないから……な……」 「にゃー……」 悲しげな声でメインクーンの子猫が鳴いている。 「……」 セルマは苦悶の表情を浮かべていく。 「にゃあっ、にゃー」 「くうっ。もとはヴィーの癖に、ヴィーの癖に、ヴィーの癖に!!」 がしっとセルマは子猫の身体を両手でつかんだ。 メインクーンはふさふさでもふもふな撫で心地抜群の子猫だ。 「そんな姿で、そんな目で見られたら放っておけるか、うわーん!!!」 かわいいかわいいかわいいかわいいかわいい!! かわいいかわいいかわいいかわいいかわいい!! かわいいかわいいかわいいかわいいかわいい!! 我慢できなくなって、なでてなでてなでて。 それから、バスケットを用意してその中に入れて、案内業務に連れ歩くことに。 「お、重い……でも、かわいい。おいていきたくない。ヴィーの癖にぃ」 汗をぬぐいながら、セルマは歩く。 「ぱ、パンフレット……ど、どうぞ」 変わらずセルマの案内は苦しげだ。 「にゃーん(気持ち解ってくれて、ありがとおー。おやすみ〜)」 ヴィランビットはバスケットの中で丸くなる。 目を潤ませて見つめていたのは、勿論『移動がめんどくさくて、自分で歩きたくなかった』からだ。 そんな願望というか欲望を籠めた訴えに、セルマは応えてくれた! これからも、こうやってお願いしよう! そうしよう! そんなふうに考えながら、満足げに目を閉じたのだった。 ○ ○ ○ 待て。ふれあう対象俺かよ! そう叫んだつもりだった。 だけれど 黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)の口から出た声は「にゃーん」という可愛い鳴き声。 「しかし、この可愛らしさ……反則ではないか……?」 子猫覗き込みながらそう言ったのは、ミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)。 「ユリア殿が猫とふれあいたいと言うから来てみれば……まさか主殿を猫化してしまうとは」 「ふふふ、可愛いねかっわいいー」 リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)は、さっそくなでなでしている。 「ど、どうしましょう。こんなに、ここまで可愛くなるなんて。ええ、想像はしていました、普段はかっこいい竜斗さんの可愛らしいお姿を。でも、でもこんなに……」 こっそり飲み物に動物化する薬を混ぜたユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)は、竜斗のあまりにも可愛らしい姿に、しばし戸惑っていた。 「にゃんにゃー(もどせー、と言っても無理なんだろうな。確か時間で戻るんだったよな)」 竜斗はリゼルヴィアに撫でられながら、ふうと息をついた。 「そんな姿もかわいーーーっ」 言いながら、獣人のリゼルヴィアはキツネに姿を変える。 「コンコン(お話し通じるかな?)」 「にゃーん(わかる、わかるぞ〜)」 「コーン!(よぉし、通訳任せて〜っ。なでなで)」 キツネの手でも、リゼルヴィアは竜斗の頭を撫でる。 「にゃーん。なうー(仕方ないな、せっかく来たんだし、このままパビリオンを見て回るか)」 「うん! しょうがないから、このまま見て回ろうって言ってるよ!」 リゼルヴィアは竜斗の意思を早速通訳。 「はい、見て回りましょう、見て回りましょう……」 そう呟くユリナが見ているのは、竜斗の姿だけだ。 「そうだな。しかし……なんか集中できんな。その……あまりにも、主殿が」 ミレーネは言葉を飲み込む。 一人だけ子猫化した竜斗はとにかく可愛らしい。 顔がかゆいのか、前足でちょんちょんと自分の顔に触れている姿も愛くるしくて仕方がないっ。 (私も撫で回したいが、主殿に仕える身としてそのようなことは……いやしかし、魅力がないと思わせてしまっては失礼であろう……) ミレーネは葛藤しながら、歩きはじめる竜斗についていく。 しかし。 見て回るのは無理で。 やっぱり竜斗は見られてもふられる対象としかなれなかった。 「ここの芝生入っていいんだって〜。遊ぼう遊ぼう」 リゼルヴィアが子猫の竜斗を抱きかかえて、芝生に入っていく。 「ううう、やはり我慢できぬ!」 ミリーネが続き、リゼルヴィアが地面に下した竜斗に走り寄り、その頭を、体を、思う存分撫で回し始める。 「可愛い。可愛すぎるのだ。この可愛らしさは罪ともいえよう!!」 鬼気迫るような勢いで、なでてなでてなでていく。 「はあ、はあ、はあ……」 そして、ユリナも飛び込んできて。 「もう我慢できません……!」 むっぎゅーーーーーーっと子猫竜斗を抱きしめた。 体を振りながら、両手と自分の身体で竜斗を撫でて撫でて撫でて。 「ふにゃ、にゃにゃんにゃーん!(こ、こらユリナ! 抱きしめるな! 当たってる! 小さいけど柔らかい何かが当たってるって!)」 「んー。ユリナお姉ちゃん! お兄ちゃんがとっても小さい何かが当たってて気持ちいいって言ってるよ!」 「にゃん、にゃにゃん(ち、違う、なんかちょっと違うぞその訳!)」 「なんですって! そんなこと言う仔はお仕置きですお仕置きです お し お き〜♪」 子猫竜斗の小さな体をユリアはポンと自分の服の中に入れて。 ふぎゅーっとぎゅううっとぎゅーーーっと抱きしめて。 それでも足りなくて、芝生に寝転んで、抱きしめたままごろごろごろごろごろごろごろごろ転がって。 「ああ、ううう、かわいい、かわいい、かわいい、かわいい、かわいいです、かわいい、かわいいかわいい、かわいい、かわいい、かわいい……」 「ふにゃーん、にゃん、にゃああああ(ユリア、やめ、やめ……やめてくれー……)」 哀れ竜斗は小さな何かに押し潰されて圧死寸前。 「ボクも遊ぶー!」 「私もまだ、撫でたりないぞ!」 リゼルヴィアとミリーネも飛び込んできて。 命からがら這い出してきた竜斗にすり寄って、撫で繰り回して。 「離しませーーーーーん。ぎゅーーーーーっ」 最後に、ユリナが子猫竜斗にダイビングハグ! 「ふにゃーん……(ま、参った)」 竜斗はたまらずギブアップ。 それでもパートナー達の撫で回しは、竜斗がもとに戻るまで続いたという。 |
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