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【2021修学旅行】エリュシオン帝国 龍神族の谷

リアクション公開中!

【2021修学旅行】エリュシオン帝国 龍神族の谷

リアクション

 隣の闘技場から、突如上がった龍の咆哮。
 それは契約者によるものではなく龍によるもので、放たれた激しい怒りに周囲の炎は煽られ大気は震える。
 息苦しさを感じるそれさえも心地良いというように三道 六黒(みどう・むくろ)は目を細めた。
「逆鱗にでも触れたか……?」
 六黒は呟くと、そちらの闘技場から目をそらし、これから対戦する龍を見上げた。
「久々に、挑戦者というのも悪くない」
 喉の奥で短く笑うと、六黒は葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)を纏い、虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)を降ろした。
 六黒とは違う雰囲気になった六黒が「ほぅ」と息を吐く。
「これが修学旅行か。……この旅で六黒が何を修学してきたのか、見てやろうではないか」
 波旬は自身を龍鱗化で強化し、狂骨もリジェネーション、痛みを知らぬ我が身と保護をかける。
 続けて己の底のある力を引き出すと、六黒の攻撃を待ち構えている龍へと仕掛けた。
 六黒の剣を尾で受け止める龍。
 力比べとなったが、それは龍が押し切った。
 とっさに地面に手を着き、闘技場からの落下を防ぐ。
 またすぐに斬り込むが今度は振り回された尾の上を駆け上がり、龍の目を狙う。
 剣を振りかざした時、目の前で龍がばっくりと口を開いた。
 六黒は鋭い牙の並ぶ口の奥に、力がたまっていくのを感じた。
 ブレスが来るとわかったが、逃げることはせずに攻撃目標を変える。
 直後、龍のブレスと六黒のヴァルザドーンから放たれたレーザー砲が真っ向から衝突した。
 眩しさに目が眩む中、六黒は自分の体が大きく投げ出されたのを感じた。
 このまま闘技場の外へ放り出され業火に焼かれるかと思った時、衝撃と共に何かに拘束されたのがわかった。
 ゆっくりと地に下ろされると、
「ずい分豪快な戦い方をするのですね」
 と、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)のやわらかい声。
 六黒はロザリンドのレッサーワイバーンに助けられたのだ。
「私達も混ぜてもらいますね」
「勝手にすればいい。礼など言わんぞ」
「ええ、どうぞ」
 二人が素っ気ない言葉を交わしている間、桐生 円(きりゅう・まどか)ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)で龍の周りを飛び交うように銃や剣で攻めていた。
 龍の口の端から血が滴り落ちている。
 六黒のレーザー砲でつけられた傷だ。
 本当は口の中に叩き込むつもりだったが、ブレスと衝突したために威力を殺がれたのだろう。
 六黒の傷が回復する頃には、ロザリンドは円達に加勢に向かっていた。
 彼女が合流するとミネルバが龍を脅すように警告の叫びをあげる。
 そして。
「龍さんとあーそぶー! よろしくー!」
 剣を頭上でくるりと回すと軽身功を使い一気に龍に迫った。
 巨体を身軽に駆け上り、狙うは首。
 円は龍の目に照準を合わせ、ミネルバを援護する。
 主に龍の前面から攻める円達に対し、ロザリンドは背後から攻めた。
 レッサーワイバーンの背に立ち、ミネルバが目標点に達したと同時に槍の切っ先を龍に向け飛び降りる。
 龍は最初の応戦相手に円とミネルバを選んだ。
 カッと口を開けると灼熱のブレスを吐き出す。
 ミネルバは剣を突き立てて強引に自身の進撃を止め、円はブレスの軌道の外に飛び出す。
 しかし、円の軽い体は余波により宙に浮いた。
 落ちる──!
 何か方法はないかと円が焦った時、思わぬ方向からガツンと弾き飛ばされた。
 一瞬のことだったが、鎧として参戦しているはずのアリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)が消えた……ような気がした。
 と、思った直後には彼女の体は闘技場を転がっていた。
「イタタ……。アリウム、今……」
「仕方のないことでした」
 その返事に、錯覚ではないことがわかった。
「痛かったけど助かったよ」
 その後、何度かこれを繰り返すことになり、龍からのダメージとプラスされミネルバやロザリンド以上に傷だらけになるのだが。
 そして龍の反撃対象から外されたロザリンドはというと、龍翔飛突で首の後ろに槍を突き刺そうと試みたのだが、その鱗は意外と固かった。
 頻繁に動かす部分だけに、他の箇所よりはやわらかいのだが、それでも貫くまでには至らない。
 刺さった先端を引き抜くと、振り飛ばされる前に龍から離れレッサーワイバーンに拾ってもらう。
 ブレスをやり過ごしたミネルバの剣も同じような結果だった。
 地上からそれらを見ていた円が低く唸る。
「ま、でも諦めずに何度も攻めれば、ボクらのことを認めてくれる気になるかな? せっかくここまで来たんだもんね」
 独り言のつもりだったそれは、六黒に笑われた。正確には波旬にだが。
「首なんぞを狙っておるから息の根を止めるつもりかと思えば……違ったようだな」
「第三の試練を考えると、ここは殺すとかじゃないと思うんだ」
「甘いことだ」
「それでも、変えないよ」
「殺せば扉は開くが、それを回避した場合はどうなるのであろうな……?」
 不安を煽るようなその言葉を流し、円は戦いに集中することにした。
 何者にも心を許さず己の力のみを信じて戦う姿勢は、孤高であり孤独であった。
 と、そこに新たな声が割り込んでくる。
「ここは力の試練なんだろ? 殺し合いでなくて何なんだ?」
 獰猛な殺気を消そうともせず剣を担いで現れた白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)
 竜造は龍を見上げ、何が気に入らないのか舌打ちする。
「てめぇらと一緒なんざ萎えることこの上ねぇんだが……まぁいい。俺は俺でやらせてもらうぜ」
 六黒と同じく己の強さを追及する竜造に協調性を求めるのは無理な話だ。
 雰囲気からもそれがわかる円は何も言わなかった。
「あそこの二人が邪魔だったら龍ごと斬り捨てるが、悪く思うなよ」
 わざわざ円を苛立たせるようなことを言い残し、竜造は剣を抜くと雄叫びをあげて攻め込んでいく。
 六黒もすぐに行ってしまった。
「そんなこと言って、流れ玉に当たってもボクのせいじゃないからね。そんなところにいるキミが悪いんだよ」
 物騒なことを呟きながら、円は二丁の銃を構えた。
「どけどけどけぇ!」
 怒号のようなその声に振り返ったミネルバの目に入ったのは、まるで自分に斬りかかってくるように見えた竜造の姿。
 ギョッして飛びのくミネルバ。
「ちょっと何なのー」
「てめぇに用はねぇ!」
「ム。ミネルバちゃんだってキミに用なんかないよー!」
 ミネルバは対抗するように竜造を追う。
 竜造は龍鱗化で体を強化し、龍の懐へ飛び込んでいく。
 それを阻もうと、龍は尾を振り上げた。
 龍の動きをよく見ていた竜造は、急ブレーキをかけ攻撃のタイミングをずらす。
 龍の尾を跳び越え、足下に滑り込んだ。
 そして、とてつもない重量を誇る足で蹴り殺される前に、アナイアレーションで切断してやろうとした。
 それは耳障りな金属音と共に弾かれてしまったわけだが、竜造とて一撃でどうこうできる相手とは思っていない。
 彼の剣は弾かれはしたが、それなりにダメージを与えていた。
 続けてその傷口へ剣先を突き込もうとしたが、龍の頑強な足に踏み潰されそうになり素早く離れる。
「まだまだ、こんなもんじゃねぇ」
 舌なめずりをした竜造は剣を握り直し、足の動きを計ると再度飛び込んでいった。
 多少乱されはしたが、円、ミネルバ、ロザリンドはすぐに連携態勢を整えた。
 ロザリンドがレッサーワイバーンを巧みに操り龍の集中力を削ぐように鼻先を飛び回り、円がミネルバの進路を開くように銃弾を撃ち込む。
 すると、ミネルバのものではないクライ・ハヴォックが響き渡った。
 叫びの方向を見ると、やや大型のレッサーワイバーンに乗った男と、人っぽい男が並んで飛行していた。
 レッサーワイバーンに乗った男──ナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)は、勇壮な龍の姿に感嘆の声をあげる。
「でかい龍だ……。頼むぞ、相棒」
 ナンは、自分を背に乗せこれから共に戦うことになる相棒、ドン・ドラグーンを撫でる。
 彼の闘志に応えるようにドン・ドラグーンは勇ましく吼えた。
 ナンは満足そうに微笑むと、山田、とニャンルーを呼ぶ。
「はい、御主人!」
 と、元気の良い返事をした山田に手綱を預け、ナンはドン・ドラグーンの背に立ち蒼輝大剣を抜く。
 それから隣を飛ぶ真田 幸村(さなだ・ゆきむら)へと呼びかけた。
「真田! どっちが龍に大きなダメージを与えられるか、勝負しようか!」
「いいだろう。互いの力……この場で存分に見せ付けあうとしよう」
 鬼灯と名付けた猛禽龍と融合し、龍の角、鳥の翼に尾羽を持つ異形と化した幸村はナンの挑戦を受け、ニヤリとして続ける。
「負けても泣くなよ」
「こっちのセリフだ。そうだな……俺が勝ったら次の試験で上位10位以内に入れるよう、猛勉強してもらおうか。おまえが賢くなれば氷藍も喜ぶだろう」
 痛いところを突かれ、幸村がナンを睨みつけ言い返す。
「だったらナン殿には合コンで女性の隣に座り、パフェでも食してもらおうか」
「おまえ……!」
 こちらも苦手とする部分を抉られ、両者は今にも掴みかかりそうな気迫で睨みあった。
「おまえら何の話をしてるんだ!」
「前を見ろ!」
 下を駆ける柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)シオン・グラード(しおん・ぐらーど)から同時に飛んでくる怒声。ついでにシオンからはゴルダも飛んできた。
「あのバカ弟子っ。──チッ、真田、勝負だ!」
 声をあげたナンの目の前で、龍がブレスを吐く姿勢を見せる。
 ナンと幸村は二手に分かれてブレスをかわした。
 二人は左右から龍を挟むと、ナンは左側から突っ込み乱撃ソニックブレードで斬りつけ、幸村は右側から力いっぱい轟砲器を振り下ろした。
 龍は頭を振って直撃を避けると、二人を噛み砕こうと牙をむく。
 シオンは二人を助けようと氷華翔翼を羽ばたかせて龍に吹雪を浴びせ、氷藍は金剛力で強化した力により、強力な一矢を飛ばした。
 目を狙った矢は惜しくも外れてしまったが、龍の目の下に突き刺さる。
 凶暴な牙から逃れたナンと真田は、再び攻撃態勢を整えた。
「俺達も行くぞ!」
 凛とした声で言うなり、天翔馬、白雪に跨った曹ヒ 子桓が一気に駆け出す。
 呼ばれた華ダ 元化が「不用意に飛び出すな!」と叫ぶが、すでに遅かった。
 曹ヒは上から攻める幸村とナンに合わせて、龍の腹へ一直線に進んでいく。
 その間、一度目晦ましのためにバイタルオーラで光弾を放ち、その後は鳳凰の拳の構えをとった。
 華ダから見れば危なっかしくて仕方のない曹ヒの行動に、彼はいつでも助けに入れるようハラハラしながら見守っていた。
 彼らの攻撃に合わせるように今まで援護射撃に徹していた円は攻めに転じ、神速、軽身功とを使って龍の背に回り込んで駆け上がる。
 ミネルバが並走した。
 円は大魔弾『タルタロス』と『コキュートス』を詰めた。
 ロザリンドも二人の上空から槍を手に滑空してくる。その頭部はじょじょに龍と化してきていた。
 円の二丁拳銃から龍の首を狙って大魔弾が放たれ小爆発を起こす。
 そこにロザリンドが突っ込み槍を突き立てると、それを足がかりに龍顎咬を食らわせた。
 彼女のさらに頭上に飛んだミネルバが、落下の勢いも合わせてスタンクラッシュを打ち込む。
 龍の怒りの叫び声と、幸村と氷藍のクライ・ハヴォックが重なった。
 傷ついた首を振り宙に飛ばした円達へ吐き出された強烈なブレスは、幸村やナン、曹ヒにも襲い掛かる。
 そろいもそろってよけることを選ばなかった三人に、シオンは氷華翔翼の吹雪の力を守りに使った。
 ブレスを突っ切った二人の大剣の切っ先が龍の大きな目玉に迫り──止まる。
 曹ヒの拳は龍の腹に届いていたが、鋼のように固い鱗に阻まれ貫くまでには至らなかった。
 あっ、と華ダが声をあげた後、幸村とナンは力を失い落下していた。
 シオンと華ダでどうにか二人を受け止め、華ダが急いで治療にあたる。
 龍の目はまだ戦闘の意志を消しておらず、まだ二人いるはずと居場所を探っていた。
 いつの間に空へ移動していたのか、六黒の大剣がロザリンドがつけた咬み痕を抉るように突き刺さる。
 そして、首を切断しようとレーザー砲を撃ち込んだ。
 足下に滑り込んでいた竜造も、先に自身でつけた傷口へ剣を突き込みレーザー砲で足をもぎ取ろうとする。
 激しく暴れた龍に二人も振りほどかれ太い尾で叩かれてしまったが、しかし何故か龍がさらに追撃をしてくる気配がない。
 龍もだいぶ血を流しているが、契約者達に比べればまだまだ余力があるのは言わずともわかる。
 見れば、もう一つの闘技場の戦いも静まっていた。
 出口のない炎の壁と思われていた一画が開く。
 そこには次の間へ続く扉があった。
「何故……」
 華ダの手当てを受けた曹ヒが龍に問うと龍は静かに答えた。
『戦いはここまでだ。契約者という者達の戦い方や考え方は、とても興味深いものだった』
 立ち上がろうとしてできなかった竜造が笑う。
「俺は殺す気でいったんだぜ……それでも生かすのか?」
『可能性を潰すことはしない』
 自身が憑依している六黒と似たような感覚に、波旬は薄い笑みを作った。
 扉が開く。
 いつしか闘技場を囲んでいた業火さえも消え去っている。
 闘気も消えた龍を見上げる曹ヒの隣で、華ダが大きく安堵の息を吐いた。
「曹ヒ……キミが突っ込んでいった時はひやひやしたぞ。もう無茶はやめてくれ……」
「無茶などしていない」
「自覚なしかよ」
「自覚も何も、俺は考えて動いている」
「嘘つけ。もし龍が殺されそうになっていたら、なりふりかまわず飛び込んだくせに」
「さぁ……そんなことはないと思うが」
「心配する身にもなれっての」
「心配か……。それは……悪かったな」
 曹ヒは少し照れたのか、華ダから目をそらした。
 その頃ナンと幸村は、勝負の結果を言い争っていた。
 元気な彼らに氷藍とシオンは顔を見合わせ、苦笑した。