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リアクション
■ お帰りの挨拶は脚で ■
地球に帰った永井 託(ながい・たく)が真っ先に向かったのは、幼馴染の墓だった。
大好きだった幼馴染。
忘れるわけにはいかない、いや、忘れるわけがない。
帰省した目的である墓参りが終わると、託はさてどうしようかと考えた。
「実家に帰るかなぁ……」
唯一の肉親である母はほとんど家に帰らないから会えないだろうけれど、他に行く場所も思いつかない。
誰もいなくても良いから、家の様子だけでも見ておこうと、託は家に向かって歩き出した。
途中、広場を通りかかった。
「ここも変わらないねぇ」
そう、託は昔ここで……。
「!?」
回想に入る寸前、託は鋭い殺気を感じた。
即座に身を沈め、殺気をやり過ご……
「がふぅ!」
したつもりだったのだけれど、その避ける動作まで見越されていたのか、託の背中にまともに蹴りが入った。
こんなことをしそうなのは1人しか知らない。
「元気かい、バカ息子」
振り返った視線の先には案の定、母の永井 美空がいた。
「……今思い切り元気がなくなったけれどねぇ、母さん」
誰の所為で元気がなくなったんだと文句の1つも言ってみれば、
「こんなのに当たるくらいあんたが弱いのが悪いんだよ」
当然のように返される。
「母さんが強いんだよ」
久しぶりに会う母は、全く変わっていなかった。
自信に溢れる笑顔、きりっとした立ち姿。人が見れば恰好良いと言うだろう。
けれど託にとって美空は、会うなり挨拶より先に蹴りを食らわせる変人であり、母であるのにも関わらずかなり謎な人でもあった。
その母が契約者だと知ったのは大分後のこと。
今では託自身も契約者となって色々あったのに、今でも母に勝てる気がしない。
(そういえば昔ここで……)
蹴りのショックで吹っ飛んでいたさっきの回想の続きが、託に蘇ってきた。
あれは大事な幼馴染を失った後。
もう二度と失いたくなくて、強くなりたくて。
そう母に言ったら、母はあっさりと言った。
「じゃあ稽古つけてあげる」
そしてこの広場に来て、スパルタな稽古で容赦なく託をボコボコにした。
ふらふらのへろへろのボロボロになったあの日……。
(うん、思い出すのはやめておこうかな)
全く良い回想にならないことに気づいて、託はその思い出を心の奥底にぐいぐいと押し込めた。
そんな託を眺めつつ、美空はどこか呆れた声で言う。
「しかし、向こうに行ってからしばらく経つから、ちょっとはましになったかと思えば……そうでもないのかねぇ。これじゃあ誰も守れないんじゃないかい? まだまだ稽古が必要だったねぇ」
母の毒舌はいつものことだけれど、聞き捨てならない言葉に託はぴくんと反応した。
「どうなのか、試してみるかい?」
言った瞬間、母の目が嬉しそうに細められた。
もしかして乗せられた?
でもまあしょうがない。
託自身、今の強さが母にどこまで通用するのか、試してみたくもある。
かつて幼馴染を失った痛みを抱いて、この公園で母に稽古をつけてもらった。
今はその上に重ねてきたパラミタでの日々をのせて、再び母と向かい合う。
母に話したいことはたくさんある。
パートナーが増えたこと、友人が増えたこと。それに……片思いではあるけれど、好きな人ができたこととかも。
けれどまずは拳で語り合うのが先だ。
託は躊躇なく、母に挑むのだった――。