波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

忘新年会ライフ

リアクション公開中!

忘新年会ライフ

リアクション

「くー、くー……」
「すぅ……すぅ……」
 年越し蕎麦を食べた後、勉強していた理知と翔はいつの間にか机の上で眠っていた。
ジリリリリリーンッ、リリリリーンッ!!
 警備員の小屋に直通の電話のベルが鳴る。
「はい、こちら卑弥呼の酒場、警備員室。智緒だよ!」
 二人を起こさぬように智緒が受話器を取る。
「ああ、エリシア……え? 嘘! 本当!? わ、わかったよ、直ぐ向かうね!!」
 受話器を置いた智緒が理知と翔を叩き起こす。
「理知! 翔!! 起きて起きて!! お仕事だよ!!」
「ふぇぇ……もう食べられないよぉー……」
「何、スタンダードな寝言言ってるのよ!! 起きなさい!!」
 ポカポカと理知の頭を小突く智緒。
 軽い振動が小屋の窓を揺らす。
「翔! 先に出るぞ!!」
 外部スピーカーから唯斗の声が響き、絶影が出撃していく。
「ああ、忍者に先越されたよー! どうしてああ素早いのよ、忍者って!」
「美羽さん、それ普通だと思いますけど……」
 少し遅れて、美羽とベアトリーチェのグラディウスが発進していく。
「翔! そなた何をしておる!?」
 バタンッとドアが開いてアリサが現れる。
「ん……あれ? 今、何時だ? ここは?」
 目をこすりながら翔が起き上がる。
「行くぞ! ジェファルコンで巨獣を撃つ!」
「巨獣……? あ! そうか俺警備員だったんだ」
 翔が顔をパシンッと叩き、気合を入れる横で……。
「起きろーーーッ!! 理知ーーッ!!」
 智緒が理知の肩を掴んで激しく揺らしているのだった。

「ふぅあぁぁぁーー……」
 欠伸をした理知は、イコンのコクピットにいた。他のイコンは前線で、理知のヒポグリフは後方からの支援という最初の作戦通りの配置についていた。
「眠そうだね、理知」
 隣でシステムを立ち上げつつ智緒が話す。
「そうだよ、寝不足はお肌に悪いんだよ?」
「じゃあ、眠気覚ましに一発かまそうよ」
 理知がヒポグリフのレーダーに目をやると、翔のジェファルコンからのオープン通信が入る。
「地上からトロールの部隊、数は……くそ、20はいるな。上空から巨獣……あれはイーグルか? 理知は地上の相手をしてくれ。空のは俺と美羽が担当だ。唯斗、当たるんじゃないぜ?」
 翔の通信に唯斗や美羽達の通信が交差する。
「翔、誰に向かって言っている? ……了解だ」
「唯斗、わらわはお腹が空いたぞ?」
「了解ー! イーグルかぁ……どうしてこんなところに?」
「美羽さん、目標まで距離200です!」
 理知がレーダーを見ながら、光学ズームをかけたモニターに【ダークビジョン】で目をこらす。
「理知、大型ビームキャノンでいいんだよね?」
 智緒に頷いた理知が操縦桿を握る。射撃モードに切り替えられた操縦桿にはトリガーが出現する。
「トロールは強いのか分からないから、まず距離をとって、キャノンで攻撃してみないとね」
「相手と仲間の動きも見ながらね」
「天学生としてはイコンで負けられないよ!」
 理知の瞳にCG化された照準が映る。
「距離は遠いけど……牽制の意味も込めて……!」
 トリガーを引く理知。
 ヒポグリフの大形ビームキャノンに収束した光が一直線に荒野を飛んでいく。

ドオオォォォーーンッ!!!

「ヒャッハー!」
 トロール軍団の先頭を走る竜司が数十メートル横に着弾したビームに思わず飛び跳ねる。
「こっちは警備員だぜ? 仲間を撃つのかよ!?」
「エリシア、電話したんだよね?」
「ええ……確かに北月智緒に。ですが、途中で電話を置かれましたわ……恐らく、敵襲以外の情報は向こうに伝わっていないかと……」
「あはは! 遂になななのカリスマ性に嫉妬したわね! 敵は本能寺にありってことね!」
 不吉な事を言いながら走るななな。
 エリシアは上空を見上げる。
「パラミタジャイアントイーグル……食性は動物食ですけど、人間を襲うなんて滅多にない鳥……何故?」
「畜生! てめぇら、こうなったら何としても向こうにオレ達だって確認して貰うぜ!」
「どうやって?」
「止まったら上から襲われるし、蒼木屋に向かって走るしかないけど、走ったら撃たれるし……」
「……」
 竜司が暫し真顔で考えた後、
歌だ……
「え?」
「ノーン! てめぇとオレとで歌を歌う! トロールは歌わないからな、きっと気付くハズだぜ!!」
竜司の提案にノーンが頷く。
「わかったよ! ……走りながら?」
ドオオォォォーーンッ!!!
二度目のビームキャノンが着弾する。
「ヒャッハー! 時間がねぇ! 走りながら歌うぞ!! オレがリードボーカルをする。てめぇら続けぇぇーー!!」

『オレ達トロール警備員 行軍歌』作詞作曲:吉永竜司(コーラス:ノーン)

オレ達蒼木屋警備員ー
てめえらオレに付いて来いー
蜂蜜酒だって守れるぜー
ヒャッハーしながら守れるぜー
トロールだって言われてもー
イケメンだったら関係ねー
平和と暴動が大好きな
オレが誰だか教えてよ
蒼木屋の警備員!
オレの愛する警備員!
オレがボス!
てめえもボス!
オレらの警備員!
警備員!!


 歌う竜司に続いてノーンもあまり好きな歌ではないがとりあえず合唱していると、
ガタンッ!!
「あ、卵が!?」
 リアカーの車輪が道の段差に引っ掛かり、上に載せていた卵が転がっていく。
「放っておけ!!」
「駄目だよー」
「ノーン!?」
 竜司の制止を振り切ったノーンが卵を追いかけて走りだし、エリシアがこれに続く。

「ん? バラけた?」
 状況を見ていた理知が呟く。
「二手に別れるつもりじゃない?」
「どちらかが囮になって誘導する気かな」
「その隙に蜂蜜酒を狙う気かも? ま、もしもの時はセルシウスごと……、じゃなくて持ってるお酒を相手に向かって投げて、そっちに意識が向いた時に縄で御用にすれば……」
 智緒が少しだけ本気の混じった冗談を言って理知の顔を見やる。
「阻止するよ、智緒! そんな事されたら、翔くんに笑われちゃうもん」
 再び理知が目を凝らすと、トロールを引き連れ先頭を行く竜司の姿が見える。
「……歌ってる? あ、先頭のトロールが手を振ってる」
「やっぱり陽動作戦、智緒達の注意を惹きつける気よ!」
「智緒! 照準の修正データ、右にプラス3で!」
 トロールに馬鹿にされるのが癪に障ったのか、理知が鋭く叫ぶ。
ピピッ!!
 照準が竜司の顔にロックされ……
「発射ッ!!」

 ノーンとエリシアは卵を荒野で何とかキャッチしていた。
「あれ……ヒビが入ってるよ? エリシアちゃん!? 割れちゃったのかな?」
 泣きそうな声を出すノーン。
「いえ、ノーン。これは、恐らく孵化だと思いますわ……」
「へ?」
 ノーンとエリシアの後方で何か光り、闇夜が一瞬真昼の姿を取り戻す。
ドオオォォォーーンッ!!!
「ヒャッハー!? 何故だぁぁーーー!?」
 巻き上げられた地面の土と一緒に、トロールや竜司がかなりの高さに打ち上げられている。
「竜司……あなたの死は無駄にはしないわよ!!」
「なななちゃん……いつの間にこっちに……」
ノーンがグッと涙を堪えるなななを見てポツンと呟く。