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年の初めの『……』(カギカッコ)

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年の初めの『……』(カギカッコ)
年の初めの『……』(カギカッコ) 年の初めの『……』(カギカッコ)

リアクション


●環菜とエリザベートと、あれこれ

 リアが去ると、入れ替わるようにしてエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が環菜のところへやってきた。
「ハッピー・ニュー・イヤーですぅ」
Happy New Year 今年もよろしくね」
 同じく英語で、しかも微笑みを浮かべて環菜は返した。いくらか前の環菜なら、ここで無表情になり「おめでとう」と冷然と返したり、相手が判らないように「С Новым годом」(ロシア語)と言ってみたりと、ナチュラルに喧嘩を売る格好になっていたかもしれない。それを言うならかつてのエリザベートのほうだって、なにかしらトゲのある言葉で挨拶していた可能性があった。
 短い時間で立て続けに起こった環菜の死と帰還、これが二人の間の尖ったものを奪ったのだろう。
 かわりに生まれたのは、ただの友情という以上の信頼関係だった。されどまだ、互いをライバルとして意識している二人であることに違いはない。それが望ましい、良きライバル関係へと移っただけである。
「明日香もおめでとう。二人とも来てくれてて嬉しいわ」
 環菜は神代 明日香(かみしろ・あすか)も迎えた。かつては、環菜とエリザベートが遭遇するたびその一触即発の雰囲気に激しく緊張させられた明日香であったが、この頃はその心配がないのでリラックスしていた。
「お揃いの着物なのね? 可愛いこと」
「ありがとうございます。環菜さんのドレスもよくお似合いですよ」
 エリザベートと明日香は和装、すなわち振り袖姿なのだ。色は違うが模様は同じ。姉妹のような協調感をかもしだしている。
 本日は和装の参加者も少なくないが、それでも目立つ着こなしだった。といっても明日香は着物を熟知しているがエリザベートは不慣れ、なのでエリザベートの装束は着付けから小道具の選択まで、すべて明日香の総合プロデュースなのであった。うなじが見えるようアップに結わえたエリザベートの水色の髪も、もちろん明日香が組んでくれたものだ。
「おう。私も参加させてもらうぞ?」
 そこに、普段通りの服装をしたアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が加わる。もしゃもしゃとパエリアを食べつつ、
「今年もよろしくの」
 と、実に彼女らしい言葉をアーデルハイトは口にした。
 環菜は少し、感慨深げに黙った。
 己とは異なる道なれど、やはりこの短い期間に様々なことがあったアーデルハイトを目にして、感じるところがあったのだろう。
「……色々あったけど、こうしてまた日常をともにできることを素直に喜びたいわ」
 すっと環菜が手を差しだした。
「なんじゃ改まって? ふむ、まあ、招待の礼も言っておくとしよう」
 スプーンから手を放し、アーデルハイトは環菜の手を握った。
「新年の握手です〜、私もギュッとするですぅ〜」
 エリザベートが身を乗り出したのだが、途端、つんのめって転びそうになる。
「エリザベートちゃん、気をつけて」
 さっと明日香がフォローした。そのへんは阿吽の呼吸の彼女なのだ。
 エリザベートと環菜、二人の握手の周囲には、いつの間にやら人の輪ができていた。
「よければそのままで。写真を一枚お願いします」
 と言う声も聞こえてくる。取材に来ていた記者らしい。
「どうしよう?」
 ひょいと首を向けて環菜は陽太に問うた。
「いいんじゃないでしょうか」
「じゃあそうしましょうかぁ〜?」
 一方でエリザベートは明日香に訊く。明日香が頷くのを見て、環菜、陽太、エリザベートと明日香、それに「え、私も?」と面倒がりながらアーデルハイトも同じフレームに収まった。
 握手する環菜、エリザベートを中心とした一枚の写真。この写真はおそらく、本日夕のニュースサイトを飾ることになるだろう。
 撮影が終わったところで、正装に身を包んだ風祭 隼人(かざまつり・はやと)がやってきた。
「挨拶が遅くなってすまなかった。明けましておめでとう。今年も宜しく」
 一通り挨拶を終えたのち、何気なく、本当に何気なく隼人は切り出した。
「……ところでルミーナさんが見当たらないんだが……どこかで見かけなかったか?」
 環菜が主催ということなので、当然ルミーナも来ているものだと彼は考えていた。そして、
(「ルミーナさんが来ているなら、もちろん新年の挨拶をして、ついでに新年早々イチャつけたら……って、来てるよな?」)
 実現できるかはともかく、そんなことも考えているのであった。
「そのことだけど、今日は来ないの。彼女には冬休みを与えているわ。私の護衛につきっきりだとルミーナも年末年始にゆっくりできないだろうし……」
 今の私には、頼もしい護衛がいるからね、と、環菜は陽太の胸に手を当ててはにかむように笑った。
「ああそうかそれは良かった……って、良くない良くない! いや、陽太のことを言ってるんじゃなくてルミーナさんが休みだったなんてあああー」
 文字通り肩をガックリ落として、隼人はすごすごと下がっていく。
「……………………」
 しかし落ち込むのは数秒に済ませた。ルミーナも自分のことが忙しいはずだ。せめて今日は、彼女の留守番電話にメッセージを残すにとどめておこう。

「明けましておめでとう。風祭隼人だ。
 ルミーナさん。今日は御神楽夫妻のパーティに参加したんだ。
 ところがルミーナさんは来てなかった。残念、ではあるけれど、その分、ルミーナさんの分まで楽しんで帰るよ。
 じゃあまた、返事待ってます」


 以上、メッセージ終わり。
 ルミーナに会えなかったとはいえ、今日は懐かしい客、親しい客、話しておきたかった客でいっぱいだ。旧交を温めるだけでも来た甲斐がある。それに、
「よーし、ヤケ食いという名のグルメ三昧でもするか! 世界の料理よ待ってろ!」
 と彼は腹をくくった。
 どれからいこう? まずは鯛か? 伊勢エビか? それともフォアグラか極上黒毛和牛のステーキか? いっそ全部、一気にか!?