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年の初めの『……』(カギカッコ)

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年の初めの『……』(カギカッコ)
年の初めの『……』(カギカッコ) 年の初めの『……』(カギカッコ)

リアクション


●楽しく健全な(←ここ大事!)新年会

 ぽんぴーん、とチャイムが鳴った。
「はい、どちら様……」
 と言いかけた紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が、ひっくりかえって床にのびるほど、ダイナマイト元気な声がインタフォン越しに飛び込んで来た。
「唯斗くーん。遊びましょ−!」
 来たのだ。武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が。
 一升瓶を何本もカートに乗せ、ビールの樽をごろごろ転がし、引っ越しにでも使うのかというほどの台車一杯に、わんさと食べ物を積んでやってきたのだ。
 チャイムを押してから玄関までくるのに何十秒もかかる。それくらい巨大な屋敷なのである。紫月家の屋敷は。瑞穂藩お目付役の名は伊達ではない。
「ご近所様に酒と米を差し入れして、これから新年会するからと挨拶代わりに配ってきた」
 靴を脱ぎながら牙竜は言った。なるほどそれで、台車にいくつも米袋がつまれているのか。(余った米ということだ)
「ご覧の通りの屋敷だ。少々騒いだところで外に音が洩れることはそうそうないから近所迷惑にはならんぞ」
 そんな気を遣わなくとも、と、出迎えた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は言うのだが、
「いや、瑞穂藩お目付役の屋敷に、マホロバ幕府・陸軍奉行並が来るわけだろ。『何かの相談か?』と思われても困るからな」
 言いながら一行は、長い長い廊下を歩いて宴会の間に向かうのだった。
「おせち、持参しました」
 龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が、かいがいしい様子で包みを解いた。今年のお節料理は、明るい色のものを中心に揃えたという。
「よろしく頼む! 今日は呑むぞー!」
 武神 雅(たけがみ・みやび)が剛胆なことを言っていた。この人の場合、「呑むぞ」と宣言しなくてもどうせ呑む。底無しに呑む。
「床、抜けませんよね? 私結構、目方がありますので……」
 大きな図体を屈めるようにして、鋼鉄の戦士重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が続く。
「なに、心配するな。この屋敷は、純和風に作ってあるが現代の技術で補強してある。シャーマン戦車が入ってきても床は抜けんよ」
 厨房から顔を出し、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が言った。
「ふふふ、いらっしゃいませ。皆様、大変良い空気吸ってますね」
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が挨拶した。
「すぐ料理をお持ちします。宴会室へどうぞ、どうぞ」
 その宴会室というのは、五十人、いや、百人近い団体客でも座ることができそうなほど広大な畳敷きの部屋だった。黄金の屏風には風神だの雷神だのが見事なタッチで描かれている。
 料理が運ばれてきた。
 酒瓶も並んだ。
 ビール樽の栓が、プシュッ、という音とともに抜かれる。
 広大なこの部屋の中央付近に一同は座して、期待でわくわくしながら杯を手にする。
「よっしゃ、2022年元旦、今宵は無礼講でいこうぜ! 唯斗、紫月家当主として乾杯の音頭取れよ!」
「あけましておめでとー! よし、無礼講だな! 思う存分楽しもう!」
 唯斗が声を上げ、皆、ガシガシと杯を割れんばかりにぶつけ合い、ぐっと飲み干した。
 大人は最高級の大吟醸、未成年は、見た目が酒っぽいクエン酸系のジュースである。
「かー、やっぱ酒だな。酒! 毎日呑んでるわけにはいかねえが、今日くらいアルコールが入らないとな!」
 ペースが早い。牙竜はガンガン呑み、また、仲間にも注ぐ。
「牙竜、毎日呑むのは当たり前であろうが?」
 雅は平然と言って、持ってきた瓶を開けた。
「見よ。この日のために持ってきた秘蔵の酒……その名も『秘蔵品』! え、そのままだと!?」
 本当に『秘蔵品』と書いたラベルの酒である。辛口、純米。吟醸ではないがそれがまた力強いエネルギーを発散しているという。
「その玉子焼き、どうですか? 自信作なんです」
「うん。美味い。灯よ、なかなか良い腕しておるな。どうだ? わらわと明倫館の食堂で働かんか? やはり新しい風は必要でな」
「え……どうしようかな……ところで、この切り身の切り口キレイですよね。エクスさんが?」
「おお、それはわらわが光条兵器で切ったのだ」
 ……と、灯とエクスが料理話に興じる一方、プラチナムも女性とは思えない思い切りの良さでぐっと呷って、
「おやおやマスター? 牙竜様? 女性陣に飲ませておいて殿方が飲まないなんて……ええ、解っていますこれからペースを上げるのですね。さあさこちらを」
 などと歯医者の診療台の水のように、杯の酒が減ると注ぐ、ちょっとでも減ると定量注ぐ、という酌をする。したがって、常に牙竜、唯斗の前のコップは満杯であった。
 まめまめしく働いているのは睡蓮である。
「兄さーん! おつまみ、できましたよー」
 と、フード類が切れる前に新しいのを次々運び入れてきた。皿を運ぶのに手とサイコキネシスを使っているので、一度にくる量も結構なものだ。
 ほどよく回ってきたところで牙竜が言った。
「唯斗、カラオケないのか、カラオケ?」
「カラオケ? 機材はあるんだが、古いのしかないぞ」
「古いってどれくらいだ?」
「旧日本軍の軍歌とか……」
「どんだけ古いんだ! まあいい、そんなこともあろうかと……」
 じゃーん、とか言って、牙竜は、座っているリュウライザーの首に組み付いた。
「ここに、『局地的音声集積装備』をインストールされた頼れるヤツがいる!」
「はあ、雅様の命により、メモリープロジェクターフル装備しましたが……」
 なにやら悪い予感に胸を痛めながらリュウライザーは言った。
 予感は、的中した。
「ではこれより魔改造の儀を行う!」
 牙竜が言うと、すっくと雅も立ち、二人がかりでリュウライザーの体をいじくり回したのだ。
「えっ! な、何をするんですか……やめてくださーい……ぁー……」
 リュウライザーは変形を終えていた。
 ドラム缶の上に懐かしのブラウン管テレビが置かれ、さらにその上に首だけ乗ったという姿に。
「いやこれ変形じゃなくて、私の首をとってテレビに接続しただけですから! こんなの、ワゴンセールの扱いよりヒドイ!」
 涙の抗議をするリュウライザーの耳の辺りから、ワイヤレスマイクの受信機がびろーんと出ているのがまた物悲しかった。
「大丈夫。ワゴンセールのガラクタ品よりみんなに愛されると思うから。じゃあさっそく、俺からな。エントリーナンバー一番、武神牙竜、『ジェットメガファイア離陸のテーマ』!」
 マイクを握って牙竜が叫ぶと、ぱっ、とテレビ画面に曲タイトルが現れた。
 そして宴会室の巨大スピーカーから、重低音の効いたイントロが流れ出す。
「おお特撮ソング……っていうかいきなりマニアックだな! 挿入歌かよ! しかもそれ第14話と打ち切りになった第16話でワンフレーズ流れただけじゃないか!」
「それをわかる唯斗も相当マニアックだっつーの! でもこの歌、燃えるんだよな……ほらいくぞー!」
 イントロが終わり、ブラウン管に歌詞と、この歌が使われた痛快特撮番組の映像が流れ始めた。
「メガファイア! メガファイア! ジェットメガファイアー!」
 画面は正直たいしたことがないが音響は凄い。牙竜の力みがちな歌声が怒濤のサラウンドで宴会場を包んだ。
「曲目リストな」
 雅がハンドヘルドコンピュータを置いた。ここに曲リストが入っているという。
「おおっ! あのアニメの曲も! このゲームの曲もあるっ! というか、なんて偏ったリストなんだ! 曲数無茶苦茶多いが、異様なものが揃いまくっているじゃないか!」
 唯斗が興奮気味に声を上げている。
 カラオケマシンがリュウライザーゆえリモコンは不要だ。リストに載っている曲をリュウライザーに言えばそれでいい。ボリューム調節やエコー、音程やテンポもリュウライザーに「上げて」「下げて」と言えばいいだけなので大変に楽だ。
「次俺、俺俺! 二番、紫月唯斗! 曲は同名のアニメから『もぎたて限界ピーチ』!」
「誰が覚えてるんだそんな二流魔法少女の主題歌! ていうか男が歌うな!」
「うるせー! シャウトのパートが多いから男でも歌えるんだよ!」
 イントロで「もぎたてー! ミラクル−!」などと甲高い声で叫び変身のポーズまで披露する唯斗である。尋常ではない。完全にアルコールが頭に回っているようであった。
「え……私も歌うんですか……」
 次に半ば強引にマイクを渡され、睡蓮はちらちらと、悲惨な目にあっているリュウライザーを同情的な目で見た。
「ライザーさんも大変なんですね……。頑張りましょう! 私ももっと頑張ります!」
「うう、ありがとうございます……」
 リュウライザーはほろほろと涙を流した。この悲惨な境遇を判ってくれる人がいる。
「で、では……三番、紫月睡蓮。アニメ『かみさまがおしえてくれたもの』の『梢の歌声』を……」
「あれ……睡蓮様も歌うんですねそうですね……ご安心をサポートは万全です……」
 リュウライザーはほろほろと涙を流した。せっかくの装備なので、もう使い切る覚悟はできた。
「って『かみくれ』(略称)って原作は18禁アダルトゲームじゃないか! しかも鬼畜の! 子どもはそんなアニメ観ちゃ行けません!」
「うるせーな、深夜やってたアニメ版はエッチじゃないし、それどころかスゲーいい話になってんだよ! しかもこの梢ちゃんって娘がなぁ……不憫でなあ……だからいいんだよ! いいんだ!」
 牙竜と唯斗がつかみあいで口論しているのをよそに、睡蓮が美しい歌声を披露するのだった。
「よんばーん、龍ヶ崎灯ぃ」
 いつの間にか灯がマイクを握っている。ワイングラスを持ってフラフラしながら立っているところを見ると、ずいぶん呑んだようだ。
「……曲はぁ、ジョーン松ヶ崎の『武装解除』」
「そんな曲あったっけ?」
「リストにはあるなぁ……昔の人?」
 唯斗も牙竜も顔を見合わせるが、無視して淡々と、灯は抑揚のない歌を唄っていた。
 それなのにいきなり、
「武装解除します。暑い」
 といってマイクを置き、曲そっちのけで服を脱ぎだしたのである。すとんと袴を足元に落とし、無造作に上着に手をかける。
「そういう意図での選曲だったんですねー」
 やんややんやとプラチナムは、ラム酒をラッパ呑みしながら手を叩いていた。
「えーい落ち着け!」
 エクスが灯に飛びついた。脱衣を止めるのかと思いきや、
「……もっと、脱ぐときはじらしてほしいのだ。な?」
 と、何やら淫らな目で囁き、絡みつくようにして灯に指導している。
「それにしても灯、セクシーな腕だ……どうだ? わらわと明倫館の食堂で働かんか? やはり新しい風は必要でな……」
「食堂で働く話と前半が全然関係ないです……あっ、腕を噛まないでっ」
 もつれあうエクスと灯、だんだんおかしくなってきた。
 つづいて、雅が立つ。
「五番、武神雅、『横ノ内ヒロシ探検隊の歌』! たーんけん、そーうぐぅ、エッチほーん♪」
 替え歌でめちゃくちゃ歌いながら、雅はずんずんと宴会室から出て唯斗の私室を目指した。
「何をするー! ……と言いたいが、そういうことを予期して部屋には鍵がかけてあるぞ」
 唯斗の高笑いが聞こえる。そんな彼を押しのけ、
「大丈夫。私、さらに予期して、その合い鍵作っておきましたから!」
 プラチナムが鍵を手に走っていった。
「ノー!」
「突撃唯斗の部屋! 見せろベッドの下! あ、布団か……だったら見せろ畳の下!」
 人のプライバシーをまったく尊重しないことを叫びながら、雅は唯斗の部屋を引っかき回す。
「隊長、いかがわしい書籍が出て参りましたよ?」
 プラチナムが差しだしたいやらしい本は、ちょっとした量があった。
「けしからんな。調べよう……」
 女二人、正座して本を調べている。
「ナイチチ七割オパーイ三割といった所ですか」
「この趣味……愚弟に通じる物がある。我々、でっぱいとしては誇りを傷つけられたな……これはお仕置きが必要だな、プラチナム!」
 なお、カラオケのマイクは入りっぱなしなので、雅とプラチナムの会話は高音質スピーカーから増幅されっぱなしである。
「ノオォォォ!」
 涙を流し、両耳を押さえて唯斗は畳を転がっていた。普段のキャラ、台無し。
 そんな中、予備のマイクを入れて牙竜がライザーに言う。
「六番、ふたたび武神牙竜、曲は『秘密の』……あれ、『秘密のフ』……あっ、タイトルなんだったっけ?」
 リモコン式ではないので正確にタイトルを覚えておく必要がある。
「『秘密のフォルダ』ですか?」
 リュウライザーが言った。
「ああ、それかも」
 酔っているため正確な判断ができない牙竜、これが災いした。
「秘密のフォルダが出てきました。曲データではなくて画像データですね? おやおや?」
 リュウライザーの下のテレビに、武神牙竜が大事に大事にしまっていた画像データが……あまり大きな声では言いたくないが女性のエッチな画像データが、スライドショーの形式で順番に出てきた。
「きゃっ!」
 睡蓮が真っ赤になって顔を隠した。
「なになになに?」
 雅とプラチナムがどたどたと走って戻ってくる。
「ライザー、それは俺の秘蔵ファイルだ! 違う! ていうか何でオマエが持ってるんだ……今すぐ消去って!」
 しかし雅は腕組して言った。
「ほほう……愚弟よまたこんなものを……リュウライザー、消去する必要はない。続けろ」
「みやねぇ後生だから画像止めてー!」
 リュウライザーは迷ったが、この場の力関係を考えて続行した。
「さて……牙竜、唯斗様」
 上はブラジャー一枚、しかもその肩紐がずれた状態で灯が立ち上がっていた。
「二人とも破廉恥部分を公開され、さぞや酔いが覚めたことでしょう。飲み直しです」
 ぐっ、と牙竜の襟元をつかんで自分に引き寄せ、ぞっとするような笑顔で灯は告げた。
「美少女二人がお相手をしますわ……まず、一升瓶を空にしてもらいますよ」
「一升瓶……って、おい、無茶を……」
「飲まないなら」ぴ、と自ら、自身のブラの肩紐に指をかけて灯は言った。「脱ぎます」
「どういう理屈だ……ギャー!」
「呑めやー!」
 牙竜は灯に強制一気されてアルコールの海に沈んでいく。
「ふははは! 今宵は無礼講ぞ。ほれ、飲め。まさか呑めぬとは言わぬよなぁ?」
「泣くぞ! ってかマジでやめろソレは洒落にならないからああああぁぁぁぁっ!!」
 同様に唯斗も、エクスに強制的に呑まされていた。一升瓶を。
 よく見ると瓶のラベルに、『芋焼酎』と書いてあるような気がしないでもない。
 そんな男子二人の泣き声をよそに、
「多分七番、プラチナム・アイゼンシルトで『破滅の歌』。♪はめつー はめつー」
 と、プラチナムが暢気に歌っていた。
 なお、意外と音痴であったこともここに書き残しておく。