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第1章 陰の作戦

 パラミタとは別の浮遊大陸、ニルヴァーナへの探索が進められている。
 かつて十二星華の住居であった浮遊要塞アルカンシェルは、パラミタから月への物資を運ぶ役割を担っていた。
 アルカンシェルは先の宇宙での戦いにより、甚大な被害を受けており、あらゆる制御を手動で行わざるを得ない状態だった。
 また、バリア発生装置などの装置の修理もまだ終えてはいない。修理を終えたとしても、莫大なエネルギーを秘めたブライドオブシリーズを動力源として使うことは出来ない為、アルカンシェルに備わった機能を100%活かすことはもう不可能だった。
 そして、主砲と制御室はほぼ消滅状態であり、復旧は難しい……ではなく、こちらも現代のシャンバラの技術では不可能であった。
 そのため、後回しにしていたアルカンシェルが格納されていた場所の探索が行われることになった。
 格納庫に、修理に必要な部品や資料が、残っている可能性が高いからだ。
 物資の積み込みと本格的な修理の為に、数日、アルカンシェルはパラミタに留まることになった。
 疲労の激しい乗組員たちには余暇が与えられ、各々、自宅へと戻っていった。
 但し、特別な立場に就いている者や、目的のある者は付随する業務の為に、アルカンシェルに残っている。

「今回は物資の積み込みと本格的な修理の為に、数日パラミタに留まる予定だ」
 乗組員のうち、素性が確かで品行方正な各校の契約者を集めて、アルカンシェルの初めての宇宙飛行に同行した、ヴァイシャリーの貴族、ミケーレ・ヴァイシャリーは、政府と軍から得た状況の説明をした。
「その間に、俺は第七龍騎士団の駐屯施設にいる、ルシンダ・マクニースに会いに行こうと思う。……ここから先の話は、口外禁止だ。思い思いの余暇を楽しむためにも、聞かない方がいいこともあるしね。守れそうもない者や、休暇をとるつもりの者は退出してほしい」
 ミケーレがそう言うと、数人の契約者が退出した。
 完全にドアが閉まってから数秒後に、話し出したのはミケーレの隣にいた青年――エリュシオン帝国の第七龍騎士団団長のレスト・フレグアムだった。
「先日、エリュシオンにズィギル・ブラトリズを名乗る者から、龍騎士団を通して、エリュシオンに亡命申請をしたいという申し出があった」
 ズィギルと名乗る者は、亡命申請が受け入れられた際には、情報提供の約束を。拒否された場合は、シャンバラに亡命し、エリュシオンの国益を損なう情報をシャンバラに提供すると言っているそうだ。
「実は、シャンバラ政府……というか、俺にも亡命の打診があった」
 ミケーレが言うには、ズィギルは安全保障として、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)との契約を条件に出してきたらしい。
 神楽崎優子は軍からアルカンシェル格納庫の探索を命じられ、既にヒラニプラを発っており、この場にはおらず……その話を知らされてはいない。
「彼の性格からして、本当に亡命を希望しているとは考えにくい。計略に嵌るつもりはないんで、互いに受けるつもりはないわけだが」
「事実を知っておきたい者がいるのなら、ルシンダの元に案内しよう。ただ、情報の流出は避けなければならない。面会の際には、相応の措置をとらせてもらうことになる」
「あくまで、シャンバラ政府や軍の公式な訪問じゃなく……そうだね、商船として行こうか」
 ミケーレとレストは契約者達にそう説明をした。

 ミーティングが終了した後。
「ちと任せたいことがある」
 優子のパートナーでもある、タシガンの貴族、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)は、ファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)早川 呼雪(はやかわ・こゆき)ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)黒崎 天音(くろさき・あまね)志位 大地(しい・だいち)の5人を呼び止めた。
「ズィギル・ブラトリズについて、調べがついた」
 アルカンシェルが起動し、空京に迫った後。とある調査機関により実行犯であるズィギルの調査が進められていた。
 ゼスタは調査方法については語らず、調査結果について5人に知らせていく。
「奴は『人』ではない。人の記憶と人格が記録された機械だ」
 ズィギルは5000年前に、アレナの目の前で確かに死亡した。
 しかし、その前に、彼は機晶姫技術を応用し、機晶石に自分の脳のバックアップをとって、残していたのだ。
 それは、人の心とはなりえない不完全な記憶の記録にしか過ぎない。
「アルカンシェルに乗り込んでいたあの男は、脳にズィギルの記憶のコピーを埋め込まれ、ズィギルと化した……元は別の人物だ」
 調査により、ズィギルの本体といえる機晶石の脳と体は、空京の民間の機晶姫研究施設で、稼動していることが判明した。
「その、ズィギルの本体を暗殺する」
 声を低めてゼスタはそう言う。
「俺自身はマークされている可能性もあるんで、表の仕事――神楽崎の仕事を手伝いに向かう」
 言って、ゼスタは呼び止めたメンバーたちに鋭い目を向ける。
「こっち方面は、お前達に任せたい」
 彼の言葉に、メンバーたちの目も鋭い光を帯びていく。
「この仕事はあくまで暗殺だ。研究所は鏖殺寺院とつながりがなく、攻め込むことは出来ない。査察なんかの手段では勘付かれて逃げられる可能性がある。陽動もダメだ。世間に知られることなく、確実に仕留めろ」
「詳しく教えてくれる? 資料はどれくらい揃っているのか、今すぐに決行するのか。じゃなきゃ作戦が立てられない」
 顔色一つ変えずに、そう尋ねたのは天音だった。
「それじゃ、打ち上げの店、ネットで調べて決めるか! スイーツ食べ放題の店がいいな」
 周囲に気取られないよう、ゼスタは笑顔でそう言いながら、近くの部屋にメンバーと共に入る。
「……資料はHPに公開されている研究所の写真と、地図程度だ。現時点は通常の研究所と同程度の警備体制と思われる」
 ズィギルの居場所を辿るための、探知機だと、ゼスタは小型レーダーのようなものを取り出した。
「これは奴がコピーに送っている電波を辿る機械だ」
 機器は2台あった。
「決行は早い方がいい。龍騎士団やミケーレに取引を持ちかけてきたコピーズィギルは、既にシャンバラで何かを企てているはずだ。その罠に誰かが嵌る前に――取り返しのつかないことが起こる前に、討つ」
 神楽崎優子は任務で大荒野に向かう予定であり、ゼスタも若葉分校に寄って分校生と共に合流することになっている。
 ゼスタが彼女と共に、表の作戦に動いている間に、暗殺を遂行してほしいと、彼は言う。
「あまりにも急な話だね。せめて……」
 天音は、欲しいな資料として、
 ・施設内見取り図
 ・警備室の位置
 ・警備員の交代時間
 ・警備員の巡回ルート
 ・居残り研究員が発生しやすい部屋
 などを希望したが、ゼスタは首を横に振る。
「それを探るリスクより、調査と同時にターゲットを狙った方がいい」
「相手に知られてしまったら、そこでアウトだけれど、知られなければ何度でもチャンスはある。下手に探りを入れるより、潜入調査及び、可能であれば実行とした方がいいということか」
 大地の言葉にもゼスタは首を横に振る。
「可能じゃない状況でも、お前達の力で可能にして実行だ」
「無理を言うね」
「何無茶なことを……」
 天音と大地が苦笑した。
「解るよな」
 ゼスタが呼雪に目を向けると、呼雪は何も言わずに首を縦に振った。
(アレナさんに謝らなければならない事が、また出来てしまいますね……)
 ユニコルノは、視線を床に向ける。そして、そっと懐に入れてある手鏡を服の上から押さえた。
「どうしても成功させたい個人的な理由があるように見えるな」
「当たり前だ、神楽崎の耳にさっきの話が入ったら、ズィギルと契約するとか言い出しかねん! すげぇ面倒なことになるだろ。ぜってぇぇぇ嫌だ」
「ホントに嫌そうだね。でも、それだけかな?」
 天音の緩い笑みを浮かべた問いかけに、ゼスタはごく軽く眉を寄せるて目を逸らす。
「確かに、言い出しかねないですし……それは、阻止しなければなりませんね」
 大地は硬い表情の優子を思い浮かべながら、そう言った。
「で、ズィギルの本体を倒した後はどうするの? 回収は政府から依頼されてる?」
 天音は、頭の中で計画を立てていきながら尋ねる。
「回収の必要はない。出来れば、接近もしすぎない方が望ましい。欠片一つでも持ち帰ったりはせず、情報も引き出さないように」
 殺害を終えた後、どんな工作をしても、寺院側にはズィギルが討たれたことは知られてしまう。
 その際に、身体の一部が失われていたり、情報を引き出された痕跡があったのなら、取り戻しに動く、もしくは実行犯のあぶり出しを卑劣な手を使い、行ってくる可能性がある。相手は、仲間を口封じしてきた者達なのだから。
 だから、逆に暗殺以外一切何もしていないと寺院に伝わるような方法が望ましいとゼスタは言う。
「あとこれは、政府の議会で決定された依頼ではない。女王は何も知らないし、軍部も知りえない情報ということになる」
 だが、露見した場合は、国民の反発は免れず、体制に対する不満が爆発し、政府と女王は信頼を失うことになるだろう。と、ゼスタは続ける。
 民間の研究所に潜入――一般人を傷つける可能性がある作戦。そして暗殺という手段に、強い反発を覚える者は少なくないはずだ。
「了解。それじゃ、作戦を詰めていこうか」
 天音は皆の意見や、特性、所持品を聞き、実行側と、サポート側の作戦案を書き出していく。
 それから念のため、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)から聞きだしていた情報『ズィギルが普通の脳の他に、もう一つコンピューターの脳も持っていた』という話を皆にしておく。
「そのコンピューターの脳というのが、機晶石の脳か、機晶石の脳のデータ元かもな」
 ゼスタはそう言い、場所や地図の説明と、天音がまとめた作戦案を見て、こう決めていく。
「潜入は二か所。真逆な地点から潜入し、所内を探り、発見出来なかった場合は、中央付近で合流だ」
 場所が特定できた場合は、HCで手短に連絡を取り合い、合流し対処に当たる。
 ただし、単身の方が確実と思われる場合は、その限りではない。
「つまり、状況に合わせた、臨機応変な行動が求められるってわけだね。潜入は2人1組?」
 天音の問いに、ゼスタは首を横に振る。
「潜入は単身の方が発見されにくい。志位、早川とユニコルノのペアの2組とする。黒崎は作戦サポート後は、俺の元に来い」
「人数が多い方が、短時間で探れるかもしれないけれど?」
「お前の力も借りたいが、お前は今回の潜入には向いていない。むしろ、お前に話したのは、お前に追い詰められないためだ。……よくも俺の事、探ってくれたな」
 にやり、とゼスタは笑う。
 ゼスタを怪しんでいたことを多少根に持っているようだ。
「志位と早川達には、この仕事を正しい形で成し遂げなければならない理由がある」
 ズィギルの本体が稼働していることで、起こり得ること。
 作戦が露見した際に、誰を貶めることになるのか。
 自分一人では死をもってしても、背負いきることは出来ない。大切なものを守れない、ということ。
 3人は、事の重大性を理解し、最低限の適切な行動に留めることが出来ると、ゼスタは判断した。
「黒崎は話しておかないと、早川達の些細な変化を感じ取って、探りを入れて情報を得ようとしかねない。放っておくと敵に回る可能性がある、怖い奴さ」
「信用ないんだね。ま、当然かな」
 くすりと天音は笑みを浮かべた。
「その彼のまとめだと、俺は全指揮としてサポート班に加わった方がいいようだけれど、別途人員を募ってもいい? 露見させないための保険として、ね」
 ファビオがゼスタに問う。
「構わないが、俺やこっちのグループのことは話すなよ」
「勿論。それじゃまた後で。集まったデータは実行前に、送らせてもらう」
 ファビオはミーティングルームに戻っていく。
 先のミーティングでは、ズィギルに対しての対策は話し合われていない。
 ミーティングルームに残って対策を練っている者から、協力者を得る為に。