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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)
Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回) Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)

リアクション


●遺跡〜地上

(あれがタケシか)
 見晴らしのいい枝に腰かけ、閃崎 静麻(せんざき・しずま)は目を凝らした。
 白衣風コートの下に蒼空学園の制服を着ている。腰にはミリタリーウエストバッグ、足元はジャングルブーツ。密林の遺跡調査にふさわしい格好だ。あのコートだけはいただけないが。
 そして頭にはヘッドセット型の機械を装着していた。ときおり赤い光が走ったり、バイザーが下りる。その都度、タケシは何かを確認するように歩く速度を落としてバイザー内に見入るような動作をした。
「そして……ドゥルジ」
 掲示板に貼られていた写真を思い出し、噛み締めるようにその名前をつぶやく。とたん、胸のなかに赤い両眼と長い銀髪をうなじでひとくくりした少年の姿がはっきりと浮かんだ。
 姿は見えない。だが、リースからの連絡によると、タケシを護るように数名いたという。隆元によると、姿は確認できなかったがほかにも十を超える気配を周囲から感じたと。
(まさか、また会うことになるとはな)
 正確には、それはあのドゥルジではない。彼は消滅した。あの海辺で。自ら欲していた石のエネルギーの直撃を受けて蒸発した……はずだ。彼はその場にはいなかったが、少なくともそう聞いている。
 それで決着はついたと思っていた。彼は何者だったのか、どうして石を集めていたのか、その一切はなぞのままだったが、彼の消滅ですべては終わったと。
 だがそれは錯覚にすぎなかった。何も終わってはいなかったのだ。
「……あの少尉さん、このこと知ったら小躍りして喜ぶだろうなぁ」
 連想のように胸に浮かんだのは、教導団のキアラ・ウォーレス少尉の姿だった。ドゥルジの石の構造にすっかり魅了され、研究対象として欲しがっていた。あんなものを軍事利用されるのは御免だから持ち帰ったりはしないが、どんなふうだったか、土産話ぐらいはしてやってもいいかもしれない。
(きっと「どうして呼んでくれなかったの!」とプンプン怒るだろうな…)
 だがしかたない。募集は教導団にもいっていただろうから、どう動くか気になって連絡を取ろうとしたら「ウォーレス少尉は現在任務についており、電話をお取り次ぎすることはできません」と拒否されたのだから。
「静麻」
 くつくつ笑っていると、下からレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)の声がかかった。
「おっと」
「どうかしましたか? 彼の姿は見えました?」
 伸ばしていた足をひっこめ、ぶらりと下へ垂らしてそのまま前転するように重心移動をして彼女の傍らへ下りる。
「ああ。見えた。情報どおり東へ直進している」
「では、決行ですね」
「そうだな」
 ドゥルジに似た、ドゥルジモドキが十数人。(あるいはもっと?)
 間違いなくひと筋縄ではいかないだろう。無傷ですむはずがなく、おそらくかなりの被害が出る。だが、こちらにも退けない理由がある。
 彼らがドゥルジの延長線上にいる者ならば、戦いようもあるかもしれない。――すべてが「かもしれない」の、想像の範ちゅうを出ない、かなり分の悪い賭けだが。
 それにつきあわせることになるレイナに、胸のなかで詫びて。
 静麻は二丁の馬賊の銃を抜いた。
「行くぞ」




 何の前触れもなく飛来したそれは、タケシに届くはるか手前で爆発した。
 粉砕した弾丸が粉塵のように広がり、一瞬ではあったがバリアの形を可視化させる。
「おろかな。それで姿を隠したつもりか」
 タケシのグレイの義眼はドルグワントと同じ性能を持つ。彼の目は木々の後ろに隠れた人型の熱源を大分前から捉えていた。
 彼がそちらへ向き直ると同時に木々が葉擦れの音をたて、2体のドルグワントが跳ぶ。
「こっちはこれを待っていたんだよ。いくら姿を隠していようが、頭を攻撃すりゃ手足が出張る」
 静麻は木々の後ろから飛び出し、高速で向かってくる銀髪の少年のうち、正面の1人に向かって真っ向から銃を連射した。展開したバリアがこれを破砕してもとにかく撃ち続ける。
 バリアは砕けなかったがわずかに速度を減退させた。そちらの1体に彼の攻撃が集中しているとみたもう1体が真空波を放とうとする。その動きを見切って、レイナが仕掛けた。
 ライド・オブ・ヴァルキリーとゴッドスピードの併用で高速化した彼女は遠距離から一気に距離を詰め、すれ違いざま斬撃を繰り出す。彼女のレプリカデュエ・スパデは今しも放とうとしていた右腕を捉えはしたが、斬り落とすまでは至らなかった。――硬い。
 しかし気を残すことなくすぐさま木を蹴って敵の間合いから離脱し、再び木々へとまぎれ込む。動き続け、同じ場所に留まらない。一撃離脱の戦術だ。
 それは静麻も同じだった。
 彼を援護するアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)の銃弾が側面からヒットし、ドルグワントを弾き飛ばす。生まれた隙に、静麻は横に走り、距離をとるやすぐさま銃撃を再開した。バリアを張り続けることで消耗させ、エネルギー切れを狙っていた。
 一方で、新たな敵の存在を嗅ぎ取った別のドルグワントが銃弾の飛んできた方角を見定めて向かおうとする。
 跳躍しようとしたその前をふさぐように、しげみのなかから男が飛び出した。
「おっとっと」
 ちょっと勢いが強すぎたか、というようにガルシア・マカリスタ(がるしあ・まかりすた)はたたらを踏みつつ止まる。
「おまえの相手はこっちだ」
 機晶スナイパーライフルで近距離から銃撃した。しかし撃ち抜いたのは背後の木で、ドルグワントは消えていた。
「ガルシア!」
 マークスの警告の声がして、ドン! という重い音が頭上で起きる。直撃を受けたドルグワントは落下し、木の根元にぶつかった。
「ガルシア、走れ!」
 ドルグワントの目は確実にガルシアを捉えていた。起き上がろうとしたところを再びマークスが銃撃して、一拍の間を作る。生まれたわずかな時間に、ガルシアは出てきたしげみを跳び越え、脱兎のごとく走った。追撃を警戒して直進は避け、木を盾にできるようジグザグに走る。木々の間から何人かのドルグワントが彼に並走しているのを見たマークスが、けん制のように撃った。
 仕掛けた罠まであと少し。マークスが援護射撃をするなか、ガルシアはひたすら前方を見て走る。
 突然、上から降ってきた何かが彼の背後を取った。
 一瞬でぞわりと総毛立つ。
「しまっ…!」
 振り返ろうとした彼は敵の姿を見ることもできないまま殴り飛ばされた。――殴られたのだと思う。がつんとあごに爆発するような衝撃を受けたと思った次の瞬間には木に激突していた。
 強打した肩が、ごきりと音をたてた。
「がッ…!?」
 痛みに身を折った彼の腹部に蹴りが入る。身長173センチ、60キロの男すら一撃で吹き飛ばす強烈な蹴り。ガルシアの手のなかで、とっさに盾としたスナイパーライフルが割れた。
「ガルシアーッ!!」
 マークスは撃てなかった。角度が悪い。撃てばガルシアを巻き込んでしまうかもしれない。シャープシューターを使えばよかったのだが、やはり経験不足か、それとも体調不良のせいか、混乱した頭では思いつけなかった。
 ガルシアを救ったのはミハイル・プロッキオ(みはいる・ぷろっきお)だ。冷静にドルグワントの死角へ回り込んで放たれた機晶スナイパーライフルの銃弾が、ガルシアを掴もうとしていた腕の肘を砕く。だが以後の連射は、ことごとくバリアに防がれてしまった。
 新手の出現とみたドルグワントは一瞬で姿を消す。その風のような動きを3人は目で追うことすらできなかった。
「大丈夫か?」
「ああ……肩がはずれただけだ」
 駆けつけた2人の前、青い顔でうずくまったまま、ガルシアは腕を木のこぶに乗せた。これからすることを考えるだけで吐き気が強まった。角度を調節し、一気に押し込む。あまりの激痛に思わず悪態が口をついた。冷や汗が額を伝い、目に入った。
 これではずれた肩の痛みはおさまったが、今度は損傷した靭帯の痛みが彼を襲う。今やガルシアの顔色は青白いのをとおりこして紙のように真っ白だった。
「一度入り口まで戻るか」
 そのとき。
 マークスがフューチャー・アーティファクトを腰だめにかまえ、連射した。あのドルグワントが再び彼らに襲撃をかけたのだ。
「くそっ! くそっ!」
 ビームが貫くのはことごとく残像だった。足止めにもならない。
 跳躍したドルグワントの高速の回し蹴りがマークスを襲う。強風に枝がしなるような音。これを防いだのは、間に割り入った彼方のバスタードソードだった。
「ちくしょお、重い…!」
 ずずずと横にすべる。剣の腹を盾としたが、おそらく光条兵器でなければ破砕していただろう。
 そこに、間髪入れず小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が跳んだ。
「てやあああーっ!!」
 切れ味鋭い跳び蹴りが宙のドルグワントを捉える。しかし弾け飛んだ先で、ドルグワントは宙返りをして下り立った。なんらダメージを受けている様子はない。
 その姿を見て。
(ああ……ほんとにドゥルジだ)
 美羽はかつて学園で見た彼の姿を重ね合わせた。
 あのとき、美羽は直接はドゥルジと戦っていない。内部分裂を防ぐのに必死で、それどころではなかったから。だけど友人たちからどれほど強敵だったかは聞いている。だから万全の装備で固めてきた。レゾナント・アームズは素手でもイコンと渡り合える、攻守に優れた鎧だ。
 熱狂、歴戦の武術、歴戦の必殺術、歴戦の飛翔術とスキルも次々発動させていく。
「いくよ、彼方!」
「オッケー!」
「うりゃあーーーっ!!」
 美羽の声に反応し、レゾナント・アームズが発動を始めた。
 大上段から振り切られた対神刀を避けた先、背後に回り込んだ彼方がバスタードソードで薙ぐ。
 光条兵器と張られたバリアの間で、ギィィィィィィインと振動音が起きた。生まれた空振が周囲の枝葉をさざめかせる。
 ドルグワントは全身を覆うようにバリアを張っていた。ドゥルジもそうだった。そしてバリアを張っている間は攻撃ができない。
(これが一番薄い状態のはず! ここを突き崩す! なんとしても!)
 1対1で近接戦闘は不利だ。高速攻撃に対処できない。そうと知る美羽の考えた作戦だった。2人がかりで攻撃し、相手に反撃する間を与えないこと。まさに攻撃こそ最大の防御!
「てーーーいっ!」
 ぴったりと息の合った2人の連携攻撃がドルグワントを挟撃する。
 彼らの戦いを眺めていたミハイルたちの上に、そのとき影がかかった。つられてそちらを向くと、金髪碧眼の黒ゴスロリ美少女が無表情で立っている。
「けが、したんですか…」
 声は男だった。
 一瞬そのギャップに「えっ?」となるが、よくよく見ればゴスロリのひだひだレースに埋もれるようにして、ヴァルキリーの少年がもたれかかっていた。
「……クライネ……下ろして…」
 美少女型ゴーレム作成の権威、ラウル・オリヴィエ博士改造ゴーレムのローゼンクライネはコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の指示に従い、彼に回していた腕を解く。コハクはどさりとその場に尻をついた。
「けが……見せてください…」
「いや、にーちゃん。あんたの方がずっと具合悪そうだぞ」
 にじり寄ってくるコハクのあまりの顔色の悪さに、ついガルシアの方こそ心配してしまう。コハクは笑みを浮かべた。
「大丈夫、です…」
「コハクくん!」
 今度は両手で天使の救急箱を下げた眼鏡の少女が走り寄ってきた。ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)だ。
「彼は私が診ますから、コハクくんは休んでください」
「でも…」
「いいから。こういうときはひとの言うことを素直にきくものです」
 ほら、とにっこり笑って軽く押し戻される。
 ベアは自分よりもひとを立てようとする優しい心の持ち主で、もの言いもやわらかだが、絶対に自分が正しいというときには決してひかない。
「さあ、肩を見せてください」
 さっさと救急箱を開く彼女を見て、コハクは息を吐くとぐったりと背後の木にもたれかかった。そしてぼんやりとした頭で、彼方と一緒に戦っている美羽を見る。
 本当なら、あそこにいて美羽とともに戦っているのは自分のはずだったのに…。
 こんな大事なときに体調を崩した自分が悪いとはいえ、彼方がうらめしかった。ちくちくといやな嫉妬が胸を刺す。これ以上見ているのもつらくて、目を閉じた。
「はい、テーピング完了です。動きが制限されますので格闘は無理ですが、銃は撃てると思います」
「ああ。すまない。ところで、あっちのにーちゃんは治療してやらないのか?」
 立てたひざの間に力なく顔をうずめているコハクをあごで指す。ベアトリーチェもそちらを見て、心配そうに眉を寄せたが、首を振るしかなかった。
「治らないんです。薬を飲ませても、回復系魔法を使っても…」
 むしろ、時間が経つにつれて悪化しているような気がして、ベアトリーチェは不安だった。コハクのなかで、一体何が起きているのだろう?
 そして、自分のなかでも。
 美羽の心配がコハクに向いているのを幸いに隠しとおしてこれているが、実はベアトリーチェも体調を崩していた。今の状態ではとても満足にスキルを発動させられる自信がなくて、美羽の戦闘サポートに回れない。目測を誤って、美羽を傷つけることになるかもしれないから…。
 だが、そうとも言っていられない事態が起きた。突然2方向から別のドルグワントが現れたのだ。
 時間をかけすぎた。
「あっ…!」
 真空波を受け、バリアを切り崩すことに集中していた美羽の手から対神刀がはじけ飛ぶ。美羽の前、彼方の背を狙ったエネルギー弾が発射された。
「あぶない、彼方!! ――うっ!」
 美羽の気がそちらに流れたのを見て、すかさずドルグワントの蹴りが入る。後方へ転がった美羽めがけ、2体のドルグワントが同時にエネルギー弾を放った。
「――はっ」
 美羽が顔を上げたとき、それはもう彼女の視界をほぼ埋めていた。――かわせない。
「美羽さんっ!!」
「美羽!!」
 悲鳴のようにベアトリーチェとコハクが名を呼ぶ。同時にライフル音が響き、アルクラントの狙撃が1発を散らせた。だが2発目までは無理だ。
 これを防いだのは、ほかならぬコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)だった。
 はじめ、彼はまっすぐ遺跡を目指すつもりだった。だが学友の危機は見逃せない。疾風迅雷で軌道へ飛び込み、わが身を盾としてこれを防いだ。エネルギー弾は魔鎧を貫きはしなかったが、ハンマーで殴られたような衝撃が腹部に起きる。
「きさまら! 不意打ちの上婦女子に2人がかりとは、男として恥を知れ!!」
「そうよそうよ!! 戦ってる最中に後ろからなんて、卑怯者のすることなんだから!!」
 憤慨し、一緒になって叫んだのは秋月 葵(あきづき・あおい)だった。背後に彼方をかばうように立っている。
「あなたたち、許さないんだから!」
 ピッと指にはさんだ稲妻の札を前方へ突き出す。
「……リネン、そちらは任せたぞ。私は少し遅れる」
 いつの間に抜かれていたのか。ふつふつと高まる彼の心に呼応するかのように、手のなかの勇心剣が徐々にその光を強める。
 全身鋼鉄製の巨躯を見て、ドルグワントは強敵と判断したようだった。1体が真空波を放つなか、2体が同時に別方向から仕掛ける。
「いくよ、黒子ちゃん!」
「いつでも!」
「「雷帝招来!!」」
 無数の稲妻が、サンダーブラストが、地上目指して空を裂き走る。
 空が落下したのではないかと思わせる光と音が空間を満たし、ドルグワントの放つ真空波のことごとくを打ち砕いて散らした。
 そのなかを、雷神のようにコアが駆け抜ける。これぞまさに疾風迅雷。
「くらえーーっ!!」
 葵がさらに裁きの鉄槌とも言うべき雷撃をドルグワントにたたき込む。ドルグワントの動きがあきらかに鈍った、その一瞬の隙をついて、コアの剣が振り切られた。
勇心剣! 流星一文字斬りー!!
 目の覚めるような一刀の下、1体は胴を真っ二つに割られ、1体は袈裟懸けに斬り捨てられる。だが1体には避けられてしまった。
「ちいっ! 浅かったか!」
 背後にとびずさったドルグワントを目で追う。
 肘を砕かれた片腕ではあきらかに不利。ドルグワントは退却を決めたか、そのままきびすを返して跳ぼうとしたのだが。
「おっと」
 ミハイルが機晶スナイパーライフルの銃口をこめかみに押しつけた。
「てめぇは俺の獲物だ。逃がしゃしねぇよ」
 赤い目が酷薄な光をはじくと同時に。
 銃声が響いた。