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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)
Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回) Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)

リアクション

 昼なお暗く、密集して生い茂った樹木は空をおおい、緑の天蓋を成している。
 差し込むは木漏れ日。
 葉擦れの音は潮騒に似ていた。
 ちらちらと、まるで迷彩服のようにさまざまな形で点在する網目模様の光と影のなかを、神山 葉(かみやま・よう)は駆け抜ける。
 しげみ、木の幹、苔生した岩。それらをうまく利用して、灼骨のカーマインと魔銃モービッド・エンジェルの二丁拳銃で狙い撃った。
 敵の姿は見えない。命中した感触もない。
(だけど、いる!)
 気配は薄かった。まるでこの緑のなかに溶け込んでしまっているかのように。
 渡る風はざざざとひきりなしに木々をざわめかせる。
「……そこだ!!」
 1箇所、不自然な揺れ方をしている枝を見つけて連射する。まるで鏡に跳ね返されたように、同一の軌道でエネルギー弾が飛来した。
 跳込み前転でしげみを離れ、転がりながら漆黒の魔弾を撃ち込む。正確に射止めるには厳しい体勢だったが、シャープシューターが彼の狙いどおりの位置へ魔弾を導いた。
 影が揺れて、落下してくる。撃ち抜いたか?
(――違う)
 落下じゃない、下りてきたのだ。
 ビルに換算すればゆうに3階は超える高さから苦もなく地上へ下り立った銀髪の少年の姿を一瞥し、葉は走った。
 少年が追ってきているのは超感覚で分かった。――速い。風のような速さだ。10メートルは開いていたはずなのに、ここは平地じゃなく森のなかだというのに、ぐんぐん距離を詰められている。
「猟犬みたいなやつだな」
 これはかなりやばいかも、そう思ったとき。
「葉」
 魔鎧であり妹でもある神山 楓(かみやま・かえで)が言葉を発した。
「例の位置です」
「ああ。オレにも見えた」
 楓が魔鎧形態を解き、隠れ身を用いて通りすぎたばかりの木陰へ潜む。葉は崖の下へたどり着くと反転した。
 直後、少年が同じ場へ姿を現す。
 追い詰められた、そういうふうを装って銃をかまえた。ありったけ銃弾をぶち込むことでバリアを前面に張らせ、その隙に楓がブラインドナイブスで攻撃する――そういう計画だった。
 しかし。
「! 駄目だ、楓! 気付かれてる!!」
 楓が木陰から出た直後少年はそちらへ向き直り、正確に彼女にエネルギー弾を発射した。
「きゃああっ!!」
「楓、戻れ!!」
 そう言ったが、楓には聞こえなかったようだった。あるいは、硬直してしまったのか。
 思わず伸ばした手の向こう、しげみから飛び出した何かが楓を弾道から突き飛した。
 それは、白い髪をなびかせた黒衣の女。
 彼女は己を貫かんと飛来するエネルギー弾を前に、こうつぶやいた。
「エルンテ・フェスト」
 そのつぶやきに呼応したかのように、彼女の手のなかの大鎌がさらに巨大化する。振り切られた青光を放つ鎌刃が、エネルギー弾を瞬時に粉砕した。
 驚く葉の前、女――クリビア・ソウル(くりびあ・そうる)は地面に煙幕ファンデーションをたたきつける。伸ばした自分の手の先も見えない白煙にとまどっていると、次の瞬間女は葉のすぐ横に現れた。
「気をつけなさい。あれは熱探知をするようです。隠れ身などは役に立ちません」
 彼の耳元近く、ひそめた声でささやく。そして再び白煙へと消えた。
「あ、待って!」
 白煙の向こう、女らしき影と少年らしき者が争う音が聞こえる。突然光術の強い光が周囲に満ちあふれ、葉の目をくらませた。
 とっさに両腕でカバーする。腕を下げるころにはもう白煙は胸の下付近まで下りていて、女の姿も少年の姿も消えていた。




「アキュート、クリビアなのです〜」
 アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)お手製の葉っぱのベッド――それはどう見ても鳥の巣だった――からペト・ペト(ぺと・ぺと)がひょこっと身を起こした。
「俺にも見えてる。おまえは寝ていろ」
 むぎゅ、とスイッチでも押すように頭のてっぺんを押してベッドに戻す。
 しかしペトはめげなかった。
「も、もう大丈夫なのです〜」
 うぎゅぎゅぎゅぎゅ、と頭に力を入れて指を押し返す。
「ちょっと体がだるくて重く感じるだけなのです。動いてれば、そのうち治るのですよ〜」
「ああ、運動不足か」
 おまえ、最近ちっとも自分で動かないからな。太ったんだろう。←ペトの受け取ったでむぱ。
「……むっきー!! そんなことないのです!! ペトはいつだってグッドベターベストなスタイルなのですっ!! そして今日だってペトが大活躍なので――むきゅうっ」
 大分近付いてきている。アキュートはクリビアたちから視線をはずさず、ペトをコートのポケットに掴んで入れた。
 べつにこの鳥の巣ベッドに寝かせておいてもいいだろうに……彼女をポケットに入れる、その動作はもう反射になっているのかもしれない。
 アキュートは枝の上に伸ばしていた足を引き寄せ、下へぶらつかせた。そしてタイミングを見計らい、飛び降りる。ほとんど葉擦れの音をたてることもなく、彼は思ったとおりの位置――クリビアが通りすぎたあとに着地した。
 クリビアはアキュートと入れ替わりに横のしげみへ飛び込む。そして少年の気を引かないよう極力音をたてないでこの場を離れた。
 にょきっとペトが顔を出す。
「ちょっとふらつくぐらいで歌えなくなるようなペトじゃないのです。ペトもお手伝いするで――ハウッ」
「いいから」
 おまえはもぐってろ。
 ポケット口に両肘をかけていたペトを、少々乱暴に押し込んだ。
 そんな彼をねらってエネルギー弾が撃ち込まれる。アキュートはそれをバックステップで避けると、クリビアが飛び込んだとは反対のしげみへ踏み込んだ。
「こっちだ、ついて来い」
 言葉が通じているかどうかは分からなかった。少年はひと言も発せず、表情も読み取れない。
 ちゃんとついて来ているか確認しようと振り返ったとき、アキュートに見えたのは少年のこぶしだった。
「くそッ!」
 十分距離は開いていたはずだ! そう思いながらも両腕でブロックする。だが勢いまでは殺しきれず、後ろにすべった。左耳にひゅっと風を切る音。反射で上げた腕に少年の上段回し蹴りが入る。すぐさま反対から後足による回し蹴り。――速く、重い。
 アキュートは左右に振られ、蹴り飛ばされた。
 木の幹に激突して止まる。
「……上等だ」
 振り下ろした手には、ティグリスの鱗ユーフラテスの鱗がそれぞれ握られていた。
 少年の高速攻撃にはついていけないことは分かっていたから、彼は攻撃に徹した。龍鱗化した肌が少年の連打や蹴りから防護してくれる。衝撃までは殺しきれなかったが、肉が千切れ飛んだり骨を折られることはない。
 しかしアキュートの放つ攻撃は、大半が受け止められ、残りのわずかな攻撃も避けられた。一発もまともに入らない。結果的にアキュートは徐々に押しやられ、防御するのみになる。
「……うらあっ…!!」
 ふらふらになってよろめき、追い込まれた彼が放つ起死回生の一撃。
 それを少年はやすやすと跳躍して避け――そして宙で何かに貼りついた。落下することなく、そのままぶらぶらと前後に揺れる。
 粘着性のある糸で作られた円形の網。それは、巨大なクモの巣だった。
 弾力性に富み、からまった腕を引っ張っても千切れない。
「ひっかかったな」
 してやったりという声で、アキュートは少年を見上げた。
 先までのふらつきはどこへいったのか。しっかりした足取りで少年の真下へ歩を進める。
 自分の手足を拘束している糸を見ていた少年は、やがて、自分が発しているわけではない振動に気付く。
 ……ビン……ビン……ビビン……

 警戒して息をひそめたふうの少年に、その心を読んで言った。
「そりゃあそれだけのクモの巣だ。主も相応のデカさをしてるさ」
 少年の頭上に大蜘蛛が這い寄っていた。そのことに気付いた少年の動きが激しさを増す。右腕を拘束していた糸が切れた。そして左腕の糸も――
「おっと! させねぇよ」
 すかさずアキュートはもう1匹の大蜘蛛を放つ。
 2匹の大蜘蛛に前後で挟まれ、吐き出された糸によって繭にされていく少年を一瞥したきり、アキュートはその場を去った。