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あの頃の君の物語

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あの頃の君の物語
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パラミタから落ちてきたもの〜緋桜 遙遠〜

 2009年6月にパラミタが出現して以降、パラミタからの『落下物』が注目されるようになった。
 それは兵器のようなものであったり、おもちゃのようなものであったり、様々だったが、新大陸・パラミタのものとして大いに注目された。
 日本でも一部が海上保安庁によって回収されたが、国防上の理由から、回収物の正体は非公開とされた。
 しかし、隠されれば知りたくなるのが人情というものである。
 また、多数の好事家がパラミタのものと知れば高値で買うため、非合法にパラミタのものを手に入れようとする者たちも多数いた。
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が所属していたのは、そんな組織の一つだった。
 

「…………」
 目の前にいる緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)がじっと遙遠を見つめてくる。
 何が楽しいのか笑顔を浮かべている。
 年が近いということで、お守りをさせられているのだが……。
「ねえねえ、今日はどこかに行くの?」
 霞憐に問いに遙遠は首を振る。
「いいえ、行きません」
「行かないの?」
「少し前までは落下物回収に忙しかったですが、最近は政府側の動きが活発ですからね。うちのような日陰組織は出る幕がありませんよ」
 遙遠の言葉通り、組織は当初に比べて、活動が縮小化され、遙遠もだいぶ暇になっていた。
「そうなんだ。それじゃ今日は何をするの?」
「前に回収した落下物の整理ですね。後は……あなたの相手です」
「僕の?」
 霞憐の顔が明るくなる。
「それじゃ何かして遊ぶ?」
「遊ぶと言われましても……」
 幼い頃から中東の紛争地域にいた遙遠は、子供のする遊びというものを知らない。
 そのため、遊びの提案など求められても、何も答えることが出来なかった。
 それくらいなら、戦場で戦ってこいと言われる方が数倍、楽なくらいだ。
「あ、遊んでちゃいけないんだね。さっき落下物の整理って言ってたし」
「ああ、そうですね」
 今日の遙遠の仕事が自分の相手であると思った霞憐は明るい顔をしたが、他にも遙遠には仕事があるんだと気付くと暗い顔になった。
 霞憐の表情はくるくると変わったが、遙遠の表情はそれとは逆にまったく変わらない。
 少し控えめな感じで霞憐は遙遠に聞いた。
「あの、遙遠は僕の相手は楽しくない?」
 その問いに遙遠はあまり感情のない表情のまま答えた。
「いつものことです。年が近いのだから、相手をしろと。あなたも他の人が良ければ……」
「ううん、遙遠と話したい。落下物の整理、手伝うよ」
 ニコニコと霞憐は答える。
 そんな2人を見て、暇な組織の大人が声をかけた。
「おおい、遙遠。女の子にはもっと優しくしろよ〜」
「そうそう、せっかく年頃の男女が2人でいるんだから」
「…………」
 大人のからかいを遙遠は無表情に流した。
 気にしても無駄だし、何か言い返せば、暇な大人の話のネタになるだけだ。
 面倒だからさっさと倉庫の方に行こうと遙遠は立ち上がり、霞憐もそれに付いていった。


「遙遠はさ、これがやりたいってこととかあるの?」
 落下物の整理を手伝いながら、霞憐が聞いてくる。
「別に……。ここにいれば寝床も食事もあるし、特に不満はありません」
 戦場で生きてきた遙遠からすれば、生きているだけマシ、であり、所属している組織も非合法とはいえ、ちゃんと食事も寝床も用意してくれるので、不満はなかった。
「そっかぁ、僕はこの世界のことを色々知ってさ、僕に何が出来るか確認していきたいな」
「何が出来るかですか?」
「そうそう、あ、ここの人たちに恩返しもしたいよ。助けてもらったわけだしね」
 霞憐は遙遠たちの組織が回収した落下物の中に入っていた剣の花嫁だった。
 発掘時に霞憐は覚醒し、遙遠に反応を示したが、遙遠は契約をしなかった。
 契約をしなかった以上、霞憐は自分の主を探したいところでもあったが、保護されている身であるし、自分勝手に動くわけにはいかない。
 それに遙遠に話したように助けてもらった恩もあるので、何らかの形で返したいと思っていた。
「……恩返しとか別に考えないでもいいと思いますよ。たまたま拾っただけですし」
「でも、そのおかげで遙遠とも会えたよ」
 とてもうれしそうに霞憐が言うので、遙遠はなんと答えていいのか分からなかった。
「……僕と会えて……それでいったい何があるんですか」
「あるよ。だって、遙遠といると居心地がいいもの」
 赤と青の瞳でじっと遙遠を見ながら、霞憐は笑顔を浮かべる。
「目覚めて一ヶ月ちょっとだけど、この組織にもだいぶ馴染んできた気がするしさ。遙遠と話すのも楽しいよ。こうやって一緒にいて話すだけで居心地がいいもの。今日も話せたらなって思ってたんだよ」
「僕と話しても、おもしろいことなんてありませんよ」
 さらっとした黒髪を揺らしながら、遙遠は再び、落下物の整理を始めた。
 霞憐もそれのお手伝いをする。


 その後、遙遠の所属していた組織は成果を上げることができず徐々に衰退。
 最終的には空族行為に近い事を始める過激派と、事業撤退を掲げる穏便派に二分して衝突後、両者共倒れで組織が壊滅する。
 居場所が無くなった遙遠はその後、半身とも言えるヴァルキリーと契約し、彼女と共に日本の私立高校に通い、卒業後、パラミタに行くことになる。
 霞憐と再会するのは、そのしばらく後のお話し。