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第一章 再会 6

シャンバラ電機


 お菓子の館をでた正面に、『シャンバラ電機・出張サービス』と書かれた看板があるのをシャムスたちは見つけた。
 こんなところでシャンバラ電機? 怪訝に思ったシャムスたちは人垣にあふれる客をかきわけて、店に近づいていった。すると、そこにいたのは見知った顔の四人組だった。
「あー、シャムス!」
 まっさきに大声をあげたのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。
 どうやらここはルカたちが経営・運営している店のようだ。ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)の三人も、シャムスたちの姿を見つけると声をかけてきた。
「いったい、何してるんだ?」
「へへー、見ておどろきなさい! シャンバラ電機がついにアムトーシスに進出したのよ!」
 ルカはこれみよがしに手をひろげてさけんだ。
 きょとんとするシャムスに、事情を知ってるアムドゥスキアスが代わりに説明した。もともとはシャンバラ電機がアムトーシスに支店をつくりたいという要求をあげてきたのが発端らしい。ただ、アムトーシスは美を象徴する町造りを目指している。電機店は正直いってあまり景観もよろしくないため、さすがにその要求そのものは取りさげになったのだそうだ。代わりに、こうして期間限定の出張サービスをおこなうことになった。シャンバラ電機のPRをするぐらいならと、アムドゥスキアスもこころよく許してくれたのだった。
 どうやら思ったよりも大盛況のようだ。現地の人からもアルバイトを雇わないと、回していけないぐらいになってる。ルカとダリルが、シャムスたちに商品のラインナップを紹介してくれた。
「電機店とはいっても、さすがにアムトーシスで電機製品ばっかり売るのは無謀ってことでね。民芸品や魔法道具のアイテムもそろえてるの。これなら、魔族にだってなじみはあるでしょ?」
「なるほどな。で、これは?」
 シャムスは並べてあったボールの一つを手にとった。すると、急にボールが閃光を放ち、空に向かって炎が噴きだした。まるで竜の炎だ。慌ててシャムスはボールから手を離す。ぼうぜんとするシャムスたちに、ダリルが説明してくれた。
「これはニルヴァーサル・ボールってアイテムだ。魔法や術を一つだけなら封じこめておける。そして任意のタイミングで使うことができるんだ。もちろん、魔法が使えない人でもな。ほんらいはキーワードを設定して、それを唱えることで発動するんだが……まだその設定が終わってなかった。いや、悪い悪い」
 まったく悪びれていない態度でダリルが笑った。
「そういうことは早めにいってほしいな」
 シャムスが困った顔をする。
 それからダリルたちは他にもさまざまなアイテムの説明をしてくれた。小型精神結界発生装置、非常用持出袋、魔珠、ホームロボット、E.G.G.、飛びだす筆など。すると説明の最中に、見知らぬ男が割って入った。筋肉質な身体をした、なかなか顔も整った若者だった。ダリルになれ慣れしく話しかけている。どうやら商品のPRショーのことで相談があったらしい。男はそれからシャムスたちに気づくと、にやっと笑った。どこかで会ったことがあったか? 首をかしげるシャムスたちに、男はいった。
「俺だよ、俺」
 男はにやにや笑いながら、足元を指さした。どうやら尾てい骨から生えているらしい尻尾が見える。一瞬、魔族かと思ったが、それにしては尻尾には鱗がびっしりとある。シャムスがまっさきに気づいた。
「おまえ、カルキノスか!」
「なんだ、いまごろ気づいたのよ。そうそう。擬人化液で人間の姿になってるのさ。尻尾だって、やろうと思えば隠せるぜ」
「擬人化液も商品のひとつだ。竜の姿をしてると、子どもに泣かれるんだよな」
 ダリルがカルキノスの肩をたたいた。
「ああ。まったく失礼なもんだぜ」
 カルキノスは肩をすくめた。
 PRショーのステージに戻らないといけないというカルキノスとわかれて、シャムスたちはダリルとルカに連れられてもう一つのPRショーのもとに向かった。そこには夏侯淵の姿があった。一通りの演目を終えると、夏侯淵はシャムスたちのもとにやって来る。どうやら飛びだす筆のPRをしていたようだった。
 せっかくの機会だ。夏侯淵から筆をうけとって、シャムスたちは絵を描いてみることにした。ちょうど、他のスタッフに仕事を任せたカルキノスも合流する。ルカは二足歩行の猫、夏侯淵は蝶、カルキは牛丼、ダリルは器用にも小型飛空艇を描いた。すると、絵がむくむくと膨れあがると、ぽんっと飛びでて立体化した。これが飛びでる筆の効力らしい。シャムスたちはおどろいた。まさかそんな力があるとは思っていなかったのだ。
 だが、すでに絵は完成してしまった。シャムスとエンヘドゥの描いたものがむくむくと立体化していった。エンヘドゥが描いたのはナベリウス三人娘。シャムスはいくつかの武器や防具を描いていた。
「げっ!」
 夏侯淵はぎょっとなった。
「またどえらいもの描きやがったな!」
 立体化したナベリウスたちは、ナベリウスそのものの性格と気質を持ってる。きらーんと目を光らせたナベリウス三人娘が、シャムスの描いた武器を手にとって暴れまわった。店の商品が次々と破壊されたり、ぶっ飛ばされる。客がわーわー騒ぎだした。
「おいおい、どうするんだよ!」
 夏侯淵がルカに相談する。
「と、とにかく早く止めないと!」
「五分経てばもとに戻るけど、それまで待ってられないぞ!」
 どうにかこうにか試行錯誤する。
 ふいにそのとき、あたりが真っ暗になった。自分たちの手すら見えないほどの闇だ。いったいなにが起こったのだろうと、騒動がさらに広がろうとするが、その前に、ぼっと青い光の炎が周りに浮かびあがった。炎は壊れた商品たちにくっつく。すると、時間が巻き戻されていくように商品が修復されていった。
「これって……」
 みんながアムドゥスキアスを見た。
「魔法と併用できないかなって思ったけど、やってみたらうまくいくもんだね」
 アムドゥスキアスは笑った。その手には漆黒の闇に青い炎が描かれているスケッチブックがあった。
 飛びだす筆に魔力を注いで、効果範囲を広げたらしい。物体の修復魔法はアムドゥスキアスの得意とするものだ。「さすがに壊れた建物などの大きなものになると相当の労力がいるけど、商品ぐらいならなんとかなるよ」とアムドゥスキアスはいった。
 闇が消えて、もとの宵闇ていどの明かりが戻ってくる。五分経って、すべての絵たちもも元の紙の姿に戻っていた。