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リアクション
●デート日和 その3……?
――この日をどれだけ待ったことか……!
連日の任務をやっと片付けてもらった休日、キルラス・ケイ(きるらす・けい)はアルベルト・スタンガ(あるべると・すたんが)に誘われて、超がつくほど久々にポートシャングリラを訪れていた。
「ああ、やっと来たよこの日!」
ポートシャングリラにバスが滑り込んだとき、思わずキルラスはそんな声を上げてしまったものだ。
それはアルベルトとて同じ気持ちだった。
――この日をどれだけ待ったことか……!
一日千秋の思いと言っても決して言い過ぎではない。やっとだ。やっとキルラスとデートに行ける。クリスマスで想いが通じたものの、二人の予定はさっぱり噛み合わなかった。だから、本格的なデートというのはこれがはじめてかもしれない。
「楽しみだよなぁ」
「おう」
まずは手をつないで、ムードが高まってきたら肩を抱いて、そして――と恋人と過ごすラブラブな一日への想いをあふれさせるアルなのだが、キルラスの次の言葉は彼の妄想に冷水を浴びせるに十分なものだった。
「ほんっとーに楽しみだ……武器屋に行くのが!」
「武器屋?」
ロマンティックなデートにはまず無縁の単語ではないか。
「うん、銃のカスタムすんの! 最近まともに武器の手入れできなかったからなぁ」
と言うキルラスは、もう銃を握ったつもりなのか、ハンドガンを構えるポーズを取ったりしている。確かに彼の手には、銃を入れたケースがあった。
「なあおいもうちょっとだな……」
「カスタムしたら試射もバンバンやろっと! ナイフも見たいし、特殊武器もあったら触ってみたいなー」
「ちょ……おい……デートが……」
どうもキル、これをデートとは思っていないようである。銃いじり武器いじりを楽しむお出かけだと思っているらしい。銃っていうならアルだってそうなのに! アルだってそうなのに!(2回言った)
ああああ……。
キルはバスから降りるや武器屋に駈け込む。アルベルトはトボトボとついていく。
今日こそフレイとの関係進展を! ――その決意はいつもあるのだが、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)にはわかっているのだ、本当は。そう考えてうまく行けば、苦労なんてしないということが。
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)……男にとって女は永遠に謎だというが、彼女の場合は謎がどうこうというよりもっとシンプルな話なのである。
鈍感すぎるのだ、フレイは!
ベルクからの意味ありげな誘いや遠回しのアプローチはいつも失敗に終わってきた。
じゃあ、と意を決して正面から迫ってみても、フレイは天然の鈍感力で回避してしまう。
いわば鈍感の高い壁が、二人の間にたちふさがっているといっていい。
それでも、それでもだ。
八岐大蛇事件は一段落した。あの大きな事件を一緒に乗り越えたという実績がある。
その後も忙しかったが、常に二人であたって、親密度もさらにアップしたとベルクは思う。
しかも目的地はポートシャングリラ。カップルだらけの恋人の街だ。
これだけ条件を揃えてムードを高めれば、あるいは――という目算がベルクにはあった。デートコースはシミュレートした。クライマックスにふさわしい小高い丘のレストランも抑えてある。店から出た後、夜景を見に行くポイントもばっちりだ。
これだけ条件が揃えば壁だって崩壊するのではないか。
あのフレイが目を潤ませて、胸に飛び込んで来てくれるのではないか。
――この日をどれだけ待ったことか……!
だからこれが今日、ベルクの熱い気持ちなのであった。
ところがフレイの鈍感の壁は、エベレスト級であることがすぐにわかった。
「マスター、鉤爪・光牙の具合がこのところ良くないんです。武器屋さんで見てもらいますね」
ポートシャングリラに到着するなりフレイが放ったのがこの一言だ。
嗚呼、武器屋……ロマンスのかけらもなさそうなその名前!
「ちょ……いいセレクトショップがあっちに……ああ……」
フレイがいきなり武器屋に飛び込んだので、仕方なくベルクも続いた。
まあいい、最初が武器屋でも徐々に盛り上げて――という彼の目論みは、けれどしかしすぐに終了した。
「? マスター、彼方にいらっしゃる殿方達はもしかして……」
店で誰かを見かけたらしい。フレイは小走りで駆け寄って、
「やっぱり! キルラスさん、アルベルトさんお久しぶりです。本日はお二方もお買い物ですか?」
「おーう、フレっちじゃーん! 奇遇だねえ」
キルラスは明るく手を挙げたが、
「おひさー」
アルベルトは声も表情も暗い。
しかし鈍感力、そんなことを悟るはずもなく、さっそくフレイとキルは立ち話するのだ。ワンコ忍者とにゃんこスナイパー、妙に相性がいいこの二人である。あの武器いいねこの武器はどうなの、ああそれなら……といった塩梅で武器談義に花を咲かせる。
「よう」
どんより曇り顔で、ベルクはアルベルトに挨拶した。
「…………」
ベルクもアルも、言葉を交わしたわけではなかった。
だが互いの表情だけで、互いの状況を理解した。
「苦労してんな……お互い」
「ああ、キルはあの通りだから」
「うちのフレイも同類さ」
はーっ、と同時に溜息をついた。
「今日はデートだったんだ。少なくとも俺はそのつもりだった」
「こっちも同様だ」
苦笑い。またも同時に。
「……でもなァ」アルベルトが言った。「楽しそうなキルを見るのは好きなんだぜ」
「フレイもな、あんな目をキラキラさせて……まったく、たまらねぇな」
はたから見れば、ノロケあっているかのようである。
そのときフレンディスが言った。
「マスター、キルラスさんたちも遊びに来ているそうなんです。今日一日、ご一緒したいと思うんですがいいですかー?」
キルも言う。
「そうしようー」
そして頬をほころばせて、
「ところでこの銃……やだ……なんて素敵なフォルム」
なんて、もう完全に決定事項の様子だ。
「……! キルラスさん、いけませぬ! アルベルトさん以外の銃を見る行為は浮気に入ってしまいます……!」
「ええっ、違う違う、違うからっ! 俺にはアルだけだからっ! ……ていうかそれ、意味わかってて言ってるの!?」
「あんまりわかってないです」
「うひゃあ」
……もはやこの流れ、ロマンティックルートには戻りそうもない。コメディだ。今日もまた。
だがアルは悪い気はしなかった。『俺にはアルだけだからっ!』というキルの言葉、心のメモ帳に残しておくとしよう。
やれやれ、と頭をかいてベルクは言った。
「しょうがねえ……アルベルト、なんつーかデートの邪魔する形になっちまって悪ぃな……」
「いや、もう武器屋に来た時点で半分諦めていた。それでも、楽しんでるアイツの姿見れるだけでもヨシとしようかァ……」
「まったくだ」
このとき、同じ苦労をともにする同士として、奇妙な友情がアルとベルクの間に生まれたという。
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