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リアクション
●デート日和っ
たまの休みだし、いいお天気だし……。
「こんな日はコハクと遊びに行きたいな」
朝起きて最初に、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がつぶやいたのはこの一言。
時計を見るとまだ朝六時にもなっていなかったけど、一度こうと決めたらもう美羽はノンストップ、早朝にもかかわらずコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に電話をかけてみた。
「遊園地に行こうよ! 今日!」
コハクの声に眠そうなところは微塵もなかった。もしかしたら電話で起こされたのではなく、とっくに起きて朝の野菜ジュースでも飲んでいたところかもしれない。
「遊園地!?」
「え、変?」
「いや、変じゃないけど……それってつまり、デートってことだよね」
国家機密をこっそり明かすような口調になるコハクである。ところが美羽ときたらそれこそ、音楽記号のフォルテ(強く)が書かれているとでもいうかのように、
「そうだよっ」
と元気に返事したのである。
といった感じで始まった今回のデートは、ポートシャングリラ内の遊園地に行くことになったわけだ。
美羽はきっちり可愛い春もののファッションに身を包み、待ち合わせ場所にやってきたコハクの手をぎゅっと握った。
「どうしたの? なんだか表情がこわばってるけど……? もしかして遊園地嫌いだった?」
「そんなことはないよ」
嘘ではなかった。遊園地が嫌いかどうかという質問に対してなら。
ただし、表情がこわばっていないか、という質問に対してなら回答はイエス! 超がつくほどイエス! まだまだデートの経験が少ないコハクは嬉しさとそれ以上の緊張でガチガチになっているのである。正直、巨大なモンスターと戦っているときより緊張しているだろう。
そんなコハクのガチガチっぷりなどいざ知らず、ともにジェットコースターに観覧車など、定番乗り物を楽しく回った美羽だが、途上で……
「んー?」
なにか不審な人物を見かけて足を止めた。
「かわいい小学生を連れ回している青年を発見……もしかして、ロリコンという名の特殊性癖の変態!?」
「兄妹かもしれないじゃないか」こういうところは冷静なコハクだ。
「いいえ、手を恋人繋ぎにしてデレデレしてるのよ、青年のほうが! これは通報ものね」
さっそく美羽は携帯電話を取り出していた。
でも、
「あれ、切さんとパティだよ」
やっぱり冷静なコハクが指摘した。
彼の言うとおりだった。ブロンドの少女、つまりパティ・ブラウアヒメル(クランジ パイ(くらんじ・ぱい))の手を引いて、もうかなりだらしない表情をしているのは七刀 切(しちとう・きり)なのだった。
遠くから見てもわかるくらいだから実際、パティと手をつないで歩く切は頬が緩みっぱなしである。しかし読者よ、彼が一途にパティを追い続けた長い歴史を思い出して許してあげてほしい。リアジュウシネとか言わないであげてほしい。
「パティ、いきなり遊園地に誘ったけど嫌じゃなかったか?」
「嫌なら最初っからそう言うわよ、おバカ。まあ、そもそも遊園地って行ったことがないからどういう場所か興味あったし。それに……」
「それに?」
「あんたが……」
ところがパティの声は小さくなって、『ごにょごにょ』的な音にしか聞こえなくなってしまった。
「えー、ごまかさないでくれよ。なに?」
「ユーリと一緒にどこかへ行くのは……楽しいし」
「ごめん、よく聞こえないんだけど」
「『幸か不幸かヒマになったから、あんたが行きたいって言う場所ならたいがいは付き合ってあげる』って言っただけよ! 耳、なんか詰まってんの!?」
「へへー、そうなのかあ〜、嬉しいな〜。でもパティがさっき言ってた言葉とは違うような……」
ぴくっ、とパティの片眉が跳ねた。
「聞こえてたくせにとぼけてたなー!」
……などとまあ、ものすごく充実したイチャ会話をしている二人であったので、さすがのコハクもしばし、声をかけるのをためらったのだった。でもようやく隙を見て、
「……切さん、ですよね? それにパティ、お久しぶり……」
「え?」
コハクの姿を認めるや、力強くパティは切を突き飛ばした。
「うわ美羽まで! おはよう。今日はちょっと、ユー……じゃなくて切を連れて散歩にね」
「へえー、散歩? 遊園地で手をつないで?」
美羽はわざとらしく言ってみたりする。
「それって『デート』って言わない〜?」
「デートじゃない! 一緒に出かけてるだけ!」
まごうことなきデートじゃないの、と美羽は思ったが、あまり追求してもパティも意固地になるだけだろうし、デレ状態の彼女はしっかり目撃できたわけだし……とそこまでにすることにした。
かわってコハクが言った。
「あの……よかったら、一緒にランチでもどうですか?」
「いいね、行こう行こう!」
これには美羽も大賛成だ。
「いいけど、その前にあと一つだけ乗り物試させて」
「どれに乗りたいんだ?」
「あれ」
彼女が指さしたものを見て、切はオーノーとでも言いたげなボディランゲージを繰り出した。
「……あれだけはダメだ」
「どうして?」
「あれの構造を知ってるか。ひたすら水平に回るんだぞ。しかも、手元のハンドルで本体も水平に回転させられる……なんでわざわざ全体で回転してるのにまた個別で回転するの? あそこまで高速回転させる意味あるの? なんなの?」
「そういう無意味を楽しむのが遊園地ってもんじゃないの?」
「う……」
かくて瞬間論破された切は、恐怖の乗り物『コーヒーカップ』でぐーるぐるされるはめになったのだった。ギャー。……彼にはなぜか、この乗り物にトラウマがあるらしい。
カップから降りた切は、目元に濡れタオルを乗せてぐったりしている。
オープンテラスで美羽が注文したのは、シナモンシュガーがかかったチロス。フレンチロールと紅茶のパティにそっと顔を寄せて訊く。
「で、切とはどうなの?」
「別に……普通よ」
「でも恋人同士なんでしょう?」
「……まあ一般的には、そういう見方もできるかな」
「もうキスした?」
「周りに人がいなかったらときどき……って、何言わせるのっ」
いやあ、楽しいなあ。
自分のデートもだけど、パティたちがどうなるかも、なんだか気になる美羽なのである。
それを横目で見つつ、なんだか不安になるコハクだった。
――女の子って、いつもこういう会話をしているんだろうか。
自分のこともこうやって話題になっているのだろうか……だとしたら……ああ! なんて言われているのやら。
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