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第12章 逆ナン

 キャンディスがサクラと出会った少し前……。
「んん〜、そろそろお腹すいたかな〜」
 空京でお店めぐりをしていたミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)は、繁華街できょろきょろあたりを見回した。
「でも一人で食べるのも面白くないな〜……っと?」
 店というより、歩いている人々を見ていたミネッティは見たことのある人物に目を留めた。
「あれは確か……」
 駅の方へと向かっているその人物に、小走りで近づいて。
「あの〜。もしかして、山葉聡さん?」
 覗き込むように、首を傾げて尋ねた。
「え? そうだけど」
 その人物――天御柱学院の山葉 聡(やまは・さとし)は、足を止めてミネッティを見る。
「……わっ、偶然! こんな所で会えるなんて! あっ、あたし、空大のミネッティって言います!」
「ミネッティちゃん……ええっと」
 聡は目を泳がせる。
 彼はかなりのナンパ好き男で、よく空京に繰り出してはナンパをしていたのだが。
 現在わけあって、ナンパは自制中なのだ。
 女の子の姿は見ないように。
 見ても、絵画だ人形だと思うようにして、一心不乱に立ち食い蕎麦屋に向かっていたのに。
 こんな風に、声をかけられてしまうと、心が揺らいでしまう。
「今って何してるんですか?」
「学院で使うものを買いに来てたんだ。用事も済んだし、そろそろ戻ろうかなーと思ってたところ。あ、でもそろそろ昼飯の時間だよな」
「あたしもちょうど今からどこかでお昼食べたいなーって思ってたんですけれど、これから一緒いどうですか?」
 ミネッティは沢山の装飾品で身を飾り、ブランドものの鞄を持ち。可愛いカーディガンにミニスカートという姿。
 彼女の格好は、少し金のある男性を誘っているような格好だった。
(……ナンパじゃねぇよな。昼飯一緒に食うだけだし。俺から誘ってないし)
 自分の心の中の言葉に頷いて肯定すると、聡は笑みを浮かべる。
「そうだな、サクラが迎えに来るまでまだちょっと時間あるしな」
「はい! お店は……お任せしてもいいですか? 折角ですし、女性と行くのならどういうお店に連れて行くのかなーって」
 上目使いでミネッティは聡を見る。
(この手の女の子は……)
 聡はナンパしていた頃の経験から、高級感のある雰囲気の良い店を選……ぼうとしたが、首をぶんぶん振って。
「あそこのカフェに行こうぜ。デザート付きのセットがあるんだ」
 女の子達に人気のカフェを指差した。
 そして、久しぶりの女の子との楽しい時間を邪魔されたくなくて、聡は携帯電話の電源を切った。

「普段ってどんな事したりして過ごしてるんですか? 趣味とかある?」
 ランチセットのハンバーグを食べながら、ミネッティが聡に尋ねる。
「趣味……は、雑誌を読んだり」
 趣味はナンパだったが。今は流行に遅れないように雑誌を見るに留めている。
「意外とインドア派?」
「いや、俺は行動派だと思うぜ。ダチと色んなところ出かけたりもしてるしな」
 聡はヒレカツを口に入れて「美味い」と頷く。
 衣がサクサクしており、出来たてで美味しかった。
「そっか。あたしはー、折角空大なんだから、色々遊べたらなーって思てるんだけど……」
「はは、空京には遊ぶところ沢山あるしな」
「うん、でも一緒に行く人がね……そうそう、この間合コンがあるっていうから行ってみたんだけど、なんか変な人ばかりだなーって感じで、ちょっと残念だったんだよねぇ〜。
 やっぱりああいういのはよくないのかなぁ……」
「合コン……っ」
 聡はぐっと握りこぶしを固めて、耐える。
 ナンパ解禁になったら、空大の娘とか、百合園の娘とかと是非やりたい。ずっごくやりたい。今すぐやりたい!
「め、メンバーによると思うぜ。次からは相手の写真や所属なんかをちゃんと聞いてから参加したら?」
「そうだねー。聡さんはお勧めの人いる?」
「いるいる! お……」
 俺とかどう? と言いそうになり、聡はごほんと咳払い。
「けど、学業で忙しいから、皆なかなか空京には来れないんだよなー」
「そっかー、ざんねーん。あ、デザート来た!」
 ミネッティは、届いたデザートを見て目を輝かせる。
 小さなグラスの中に、3色のゼリーとフルーツが入っていた。
 可愛らしくて、とても美味しそうだ。

 会話と食事を楽しんだ後、カフェの前で。
「今日ってこの後は何か予定はあるんですか? あたし今日は何もないからどこかブラブラしようかなって思ってたんだけど、一緒にどうかなって」
 ミネッティが聡を誘う。
「凄く残念だけど、今日はもう学院に戻らなきゃならないんだ」
「そっかー。残念……あ、メアドと番号って聞いてもいい? 折角こうして会えたんだし、暇な時とか遊ぼうよ! あたしも連絡するからさ!」
(自分から聞いてないし、誘ってないから、ナンパじゃねぇよな。つーか、逆ナンだよなこれ)
「そ、それじゃ交換するか」
「うん!」
 聡は携帯電話の電源を入れると、ミネッティと赤外線通信で、メールアドレスと番号の交換を行った。
「それじゃ、またね」
「またな〜!」
 そして、ほくほく顔で海京へと戻っていった。