波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【4周年SP】初夏の一日

リアクション公開中!

【4周年SP】初夏の一日

リアクション


10.パジャマパーティ♪

 ツァンダにある、神崎 輝(かんざき・ひかる)とパートナー達の家から、時々若者達の笑う声が響いてくる。
 今晩、輝達は用事で出かけており、家には一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)七瀬 紅葉(ななせ・くれは)の2人だけ残っていた。
 寂しく思った2人は、友人に連絡して遊びに来てもらったのだ。
「か、可愛いです」
 少し照れながらそう言ったのは、本名 渉(ほんな・わたる)
 部屋にいるメンバーのうち、唯一の大人の男性だった。
「ホント、可愛いです!」
 輝く笑みを浮かべたのは、輝のパートナーの紅葉。
 外見12歳の機晶姫だ。男性型だけれど、見かけも声も女の子。
 紅葉はピンクのお花模様の、白いパジャマを着ている。
「皆さん、似合っていますね」
 渉のパートナーの雪風 悠乃(ゆきかぜ・ゆの)がふふっと微笑む。
 悠乃は、女性型で外見も女の子な機晶姫。青色とオレンジの水玉模様のパジャマを纏っていた。
「渉君は……カッコイイです」
 輝のもう一人のパートナーの瑞樹が、渉に笑みを向けた。
 渉はシルクの藍色の半そでパジャマを着ていた。
 いつもより、大人びて見える。
「あ、ありがとうございます」
 渉は少し照れながら微笑む。
 瑞樹は小さな花柄の、コットン地のパジャマを纏っていて。
 無防備な彼女の姿に、渉はどきどきしてしまう。
 彼女は、渉にとって大切な人。
 渉は、瑞樹の大好きな人。
 2人は恋人同士だから――少し、長めにお互いの姿を見てしまっていた。
「オニューのパジャマで最初にやることといったら……トランプ、です!」
 悠乃が、持ってきたトランプを取り出した。
「うん、やりましょう。あ、何か飲み物淹れてきますね」
 瑞樹は渉に微笑んだ後、キッチンへと向かっていった。
 4人は今日、新しいパジャマを見せ合って遊ぶ、パジャマパーティーをしている。
 お風呂に入ってから寝るまでの間、パジャマ姿でゲームをしたり、沢山お話をして過ごして……。

 そして、深夜を迎えた。
 明日もそれぞれ普通の一日があるから。
 眠くなってきた頃、それぞれベッドへと入ることにした。
 それぞれ、と言っても。
 寝室にあるのは、ダブルベッドが2つ。
 だから必然的に。
 恋人同士の、渉と瑞樹が一緒のベッドを使う事に。
 もう一つのベッドには、紅葉と悠乃がもぐりこんだ。
 それからまた、おしゃべりが始まる。
 2人1組で、ひそひそ話だ。
「瑞樹さんと渉さん……すごく仲良さそうでちょっと羨ましいかも」
 紅葉と悠乃は布団をかぶっているが、ちょっと隙間をあけて、渉と瑞樹のベッドをのぞき見している。
「あ、紅葉さんもですか……私も、ええっと羨ましいような、寂しいような、そんな気持ちになっていました」
「うん、なんか……とられちゃうような感じがするんですよね。さっきまで皆で楽しくしてたのに……。でもその分、今日は悠乃さんともっと仲良くなれたら、嬉しいかなとも思ってるんです♪」
 紅葉がそう言うと、悠乃はちょっと驚いたような顔をして、それから嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。私も、紅葉さんと沢山お話したいです。紅葉さんはどんなものが好きですか? 次はお菓子を一緒に食べたいですね」
「うん、僕は林檎が凄く好きなんです!」
「それで、瑞樹さんさっき、アップルティーを皆さんに淹れてくれたんですね」
「うん、アップルティーも美味しいけれど、商店街にある喫茶店の林檎ケーキがすっごく美味しいんですよ。林檎のしゃきしゃき感も味もしっかり残っていて〜」
 紅葉は楽しそうに悠乃に好物の林檎の話をして。
 悠乃は興味深く、楽しく紅葉の話を聞き、今度一緒に行きましょうと約束をした。

(ね、眠れないかも……!)
 瑞樹は気持ちが高ぶってしまい、眠気が吹っ飛んでいた。
 すぐ隣に大好きな渉がいる……腕が触れている。
(紅葉君と悠乃ちゃんもいるから、大それたことは……出来ませんね)
 紅葉と悠乃の小さな話し声が聞こえる。
 布団の中の、2人だけの空間で楽しく過ごしているようだ。
(何話してるんでしょうか……。2人のことも気になります、けれど)
 瑞樹もちょっと布団の中に潜って。
 そして渉の腕にぎゅっと抱き着いた。
「!!!!」
 渉の身体がびくりと震えた。
(落ち着け、落ち着け……!)
 渉は瑞樹に悟られないように、呼吸を整えようとする。
 彼女の可愛らしいパジャマ姿にどきどきして。
 同じベッドに横たわり、更にドキドキして。
 それでも普段通りを心掛け、まっすぐ横になっていた渉だけれど。
「さ、寒い?」
 動揺が声と体に出てしまった。
「寒くないです。でも、こうしていたいんです……」
 瑞樹は渉の肩に頬を当てた。
「う、うん……俺も」
 言って渉は開いている方の手で、瑞樹の身体にそっと触れた。
(瑞樹さんの感覚……うわあ……)
 心臓が飛び出しそうなほど、鼓動が高鳴る。
 だけれどそれと同時に、不思議な安心感もあって。
 彼女のことがとても愛おしく――。
(今夜は眠れそうにないな)
 気づかれないようにゆっくりと深呼吸をしながら思う。
 気持ちの高ぶりが瑞樹にも伝わって、彼女の眠りを妨げないよう。
 渉はほかの事を考えようと試みる。
(そういえばあの2人はもう寝たのかな……。さっきまで声が聞こえていたけれど)
 内容までは、分からなかった。
 悠乃のことを実の妹のように考えている為、様子が気になって目を向けるけれど。
 二人とも布団にもぐっており、姿も見えなかった。
(動きは見えないし……眠ってるようですね)
 ほっと息をつくけれど。
 心臓は高鳴ったまま、身体は硬直気味で。
(僕も、寝れるようなこと考えないと……でも)
 瑞樹が渉を抱きしめ直した。渉はまたどきっとしてしまう。
(む、むり……)
 別の事を考えようとしても、瑞樹のことで頭がいっぱいで。
 余計にドキドキしてしまうのだった。

 朝、紅葉と悠乃は先に目を覚まして。
 パンと林檎ジャムの朝食の準備を済ませると。
「朝ですよー」
「おはようございます……っ」
 一緒に飛びついて、幸せそうに寝ている渉と瑞樹を起こしたのだった。