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第14章 同じ歩調のスタート

 1月3日。
 まだまだ混み合っていたが、元旦よりは随分と落ち着いた頃。
 ペガサスに乗った女性が2人、空京神社近くに降り立った。
「今年は日本の暦だと午年なのよね。私たち……というかエネフたちの年ってことかしら」
 ペガサスから降りたリネン・エルフト(りねん・えるふと)が、フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)と、彼女のペガサス「エネフ」に目を向けた。
「なんならエネフたちもお参りしていく……って、騒ぎになっちゃうかな?」
「そうね。まだ人も多いみたいだし、今日は私達だけでいきましょう」
「うん、ちょっと待っててね。参拝に来た人たちと喧嘩しないでね」
 リネンはペガサスたちに、そう言い聞かせると、フリューネと一緒に空京神社へと向かった。
「ええっと……去年は色々……色々……ゴメン」
 歩きながらのリネンの言葉に、フリューネは不思議そうな目を向けてきた。
「告白ばかり思いだしちゃって、他が出てこない……」
「ん? 私告白、したっけ?」
「ち、違……っ、フリューネへの告白、よ」
 ちょっと赤くなりながら、リネンは言った。
(フリューネからも、してもらえたら嬉しい、し。告白というか、それ以上の……とか)
 ふうと息をついて呼吸を整えて、リネンは笑みをフリューネに向けて言う。
「今年の目標は決めてるのよ。『決着の年にする』って」
「決着? といってもいろいろありそうよね」
「うん。世界の危機もそうだし、タシガン空峡の治安問題、ニルヴァーナそれに……フリューネとの恋愛」
 フリューネは今年30歳になる。そろそろ家や周囲からプレッシャーをかけられたりしそうだなとリネンは思う。
(ヴァルキリーだから、寿命は人間の2倍以上あるとはいえ、フリューネ外見大人だし……)
「あれ? 私達既に付き合ってるわよね?」
「そうだけど、その先があるでしょ……もう、フリューネさっきから、からかってる?」
「ちょっとだけ、ね。リネンの表情がころころ変わって、楽しくて」
 くすっとフリューネは笑った。
 リネンはこんな風に色々な感情を表す娘ではなかった。
 本当に自分は随分と変わったなと、思いながら、拝殿の前にたどり着き。
 賽銭を入れて、鈴を鳴らして、祈願していく――。

 決着をつけて、終わりではなく。
 次のスタートラインに立つために、積もった問題を解決する年にしたいと……しようと、リネンは決意していた。
 フリューネは何を願ったのだろうかと、ちらりと彼女を見るが、彼女は何も言わなかった。
「絵馬書こうか」
「うん」
 さらさらっと、フリューネはマジックで文字を書いた。
 でかでかと書かれていたのは『飛躍』のみだった。
 祈願も、安定とか、平和とかではなく――進歩や向上に関することなのだろうと、リネンは察した。
(そんなフリューネと一緒に、私は……)
 リネンもマジックで思いを描き、フリューネの絵馬の隣にかけた。
「それじゃ、屋台でおでんでも買っていこうか」
「汁沢山入れてもらおうね。うう、寒い」
 絵馬を書くため、手袋をとっていた。
 凍ってしまいそうな顔をリネンが自分の両手で覆った途端。冷たい風が吹いて、リネンのマフラーの結び目を解いた。
「ちゃんと温まってから、帰りましょう」
 フリューネがリネンのマフラーに手を伸ばして、巻きなおしてくれた。
「ありがとう」
「さて……どうする?」
「ん?」
「いや、手ぐらい繋いだ方がらしいかな、って。なんだか私達、恋人らしいことあまりしてないわよね」
「ふふ、そうね」
 笑って、リネンは片方だけ手袋をせず、フリューネの方へと伸ばした。
 フリューネはその手を握りしめると、自分のコートのポケットに入れて。
 明るく笑い合った後。
 2人は同じ歩調で、歩いていく。