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第11章 それぞれにとって

「あけましておめでとうございます」
 華やかな振袖姿のリン・リーファ(りん・りーふぁ)は、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)に今年初めての挨拶をした。
「おめでとう、リンチャン。それ振袖だよな、どうしたんだ?」
「みゆうが日本のお正月はこーゆー格好するって言ってたから、貸衣装屋さんで借りてみたの。
着る前に胸とかお腹にタオルとかぐるぐる巻かれてちょっと苦しいかも? でも華やかでいいねー」
 そう言いながら、リンはくるりと回る。
「うん、食べちゃいたいほど可愛いぜ」
 にこにこ、ゼスタはリンを見ている。
 その様子にリンはほっとする。年末に不安を煽るようなことを言ってしまったから。
 引き摺ってはいないようだった。
「よしじゃあ空京神社に初詣に――っと、その前に」
 ぐいっとリンはゼスタの腕を引っ張った。
「ぜすたんも晴れ着着ようねー」
「え? 男は日本でもあんまり着ないんじゃ」
「お正月っぽい格好してほしいの!」
 強くリンが言うと、ゼスタは抵抗せずにリンに連れられて貸衣装屋へと向ったのだった。

「おー……まあまあだね」
 黒紋付羽織袴に着替えて出てきたゼスタを見て、リンはうんうんと頷いた。
「まあまあってなんだよ、着せておいて」
「こいうのがちょっと邪魔かな」
 笑う彼に手を伸ばして、リンは彼がつけているアクセサリーを外していく。
「うん、すっきりして、それっぽくなったよ。それじゃ、今度こそ初詣に行こー」
 腕を引いてリンは空京神社の参殿へと歩き出す。
 まずは列に並んで、お参りをして。
 それからおみくじを引くことにした。
「結果が良かった方が何か奢るとかどう?」
「乗った!」
 リンの提案にゼスタが乗り、2人は別の巫女からそれぞれおみくじを引いた。
「おお、小吉!」
「俺は、半吉だな」
「……どっちがいいの?」
「さあ?」
 内容を見せ合うが、どちらも良いとも悪いともいえることが書かれている。
「そこの可愛い巫女さん、この結果どっちがいいんだ?」
 ゼスタが後方で作業をしていた巫女――アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)に声をかけた。
「はい。ええっと、小吉の方が良い、です」
「勝った! それじゃ、今日はあたしが奢るよー」
 言った後、リンはアレナの方に体を向けて。
「あけましておめでとうございます」
 と頭を下げた。
「あけまして、おめでとうございます」
 アレナもいつもより丁寧に頭を下げる。
「総長さんも、あっちの方にいるよね。……そうだ、みんな普段しない格好してるんだから記念写真撮ろー。撮影サービスとかないの?」
「写真は他の方の迷惑にならなければ、勝手に録ることは大丈夫です。サービスは今日はないです」
「そっか、じゃあ携帯電話のカメラで撮ろうー。総長さん呼んできてくれるかな?」
「はい」
 リンがお願いをすると、アレナは嬉しそうに優子を呼びに行った。

「俺が撮るから、3人で並んで」
 優子が到着してから。
 ゼスタがリンや自分の携帯で、3人を撮っていった。
「それもいいけど……」
 リンは何枚か写真を撮ってもらった後。
「パートナー同士3人でも撮ろうね!」
「いや、3人はちょっと気まずいというか……。リンちゃんも一緒で、もしくは、どっちかとツーショットがいい」
 何故かそんな風に抵抗するゼスタを、リンは無理やり優子達の方へ押す。
「並びはどうする?」
 優子が問いかけるが、アレナもゼスタも答えない。
 普段なら、端や後ろを好むアレナが、優子の隣から離れようとしない。
「んー……こうか」
 少し悩んだ後、ゼスタは2人の背後に立った。
 そして突然、2人の肩を抱いて2人をくっつけた。
(おっ、シャッターチャンス!)
 リンは急いでピントを合わせて、写真を撮った。
「煩わしい、離れろ」
 ベシッと優子が手の甲でゼスタの顔面を叩く。
「イテッ」
 ゼスタが顔を押さえてしゃがみこんだ。
「あっ、混んできたみたいですから、戻りますね……!」
 そして、アレナは仕事に戻ってしまった。
「もー、せっかくの機会だったのに。
 ……って、ぜすたん、なにやってんの! ふふふ、あははははっ」
 リンは1枚だけ撮れた3人の写真を見て、吹き出した。
 優子に回した手で、ゼスタは彼女の胸を触っていた。
 満面の笑みを浮かべて、もう片方の手でVサイン。
 アレナは優子とくっついて、とても嬉しそうで。
 優子は呆れ顔で、ゼスタの足を踏みつけていた。

 それから、リンはゼスタと境内のカフェに寄って、ケーキと紅茶をご馳走した。
 窓から巫女装束で働く、アレナと優子、参拝をしている人々を眺めて、最後にゼスタを見て。
「それぞれにとっていい一年になるといいねー」
 リンがそう微笑むと、ゼスタも微笑を浮かべて「ああ」と、答えた。
 短い返事だったけれど、心の籠ったトーンだった。