校長室
【2024VDWD】甘い幸福
リアクション公開中!
27.観覧車の恋人たち ――二度目のバレンタインには、遊園地に行こう。 そうウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)を誘ったのは、パートナーであり恋人でもあるファラ・リベルタス(ふぁら・りべるたす)の方だった。 ――デートプランは任せておけ。 外見ではそう変わらない年齢の二人だが、実年齢からいっても、性格からいっても、パートナーとしてはウィルの参謀的存在でもあるファラだ。 ウィルは本当にデートプランをお任せしてしまうことにして、自分は少しきれい目のコートにマフラーを巻いて、遊園地までやって来たのだが……。 「どうじゃ、ウィル?」 挑発的な赤い瞳。 遊園地の入り口で待っていた彼女は、肩とお腹を出した短い上着にミニスカート。露骨に肌を出した服装で待っていた。 ウィルは驚いて赤面するが、思春期の彼の眼はファラの白い肌に釘づけになっていた。 「い……良いと、思いますよ」 ファラはウィルの反応に満足したように軽く頷くと、園内に入った。 「さあ、まずはあちらから回るとしようぞ」 任せておけの宣言通り、事前に下調べをしてコースを決めてきたファラは、園内マップを手に、ウィルを案内するようにアトラクションに向かって行った。 コーヒーカップ、ゴーカート、ジェットコースター。 今日の二人はただの普通の恋人たちに戻って、小さなスリルを楽しんだ。 ぐるぐるとハンドルを勢い良く回したり、わざと悲鳴をあげてみたり……隣に恋人がいることを幸せに思う。 「あっ、あれは何ですか?」 「3Dのアトラクションじゃ。宇宙への旅が疑似体験できるらしいのだが……行ってみるかのう?」 「ええ、一緒に乗ってみたいですが……でも今日はファラさんがエスコートしてくれるんですよね」 「大丈夫じゃ、まだまだ時間に余裕がある」 二人は仲良く園内を回り、これが良かった、あれも面白そう……と、他愛のない会話をしながら、お互い一緒に過ごせることを喜び合った。 (そろそろかのう……?) 食事と幾つかのアトラクションを経て、ファラは時計をさりげなく確認する。 そうして、ウィルの手を握りしめる。 (……あ) ウィルはドキドキしながらも、軽く握り返した。 「さぁ、最後はあそこじゃぞ」 ウィルが何処に、と問うまでもなかった。ファラのつま先の向かう先には、大きな観覧車があった。てっぺんからなら園内が一望できるだろう。 お互い僅かに頬を染めたまま、手を繋いだまま待ち時間を過ごし、いよいよ観覧車のゴンドラに乗り込んだ。 ドアが閉れば、窓があるけれど、そこは密室になる。 ほどなく動き始めて軽い浮遊感を感じた。地上を見る間に離れ、係員や待機列に並ぶ人たちの視線を離れ、逆に地面を見下ろす格好になった。 ウィルが緊張しつつも小さくなっていく遊園地を眺めていると、ファラが丸い包みを差し出してくる。 「チョコレートじゃ」 それで、ウィルも荷物の中から小さな四角い包みを出して、渡した。 「僕からもチョコレートです」 「……礼を言うぞ」 ファラは受け取ったと思うや否や、ウィルに抱き付いた。ウィルもまた、彼女の腰に手を回して抱き締める。 ファラは両手を彼の首に回し、 「愛してるぞ……ウィル」 深く唇を重ねた。 「僕も……愛しています……ファラさん」 ウィルも彼女の気持ちに応える。深く深く唇を重ね、舌を激しく絡ませ合う熱烈なキス。 どれくらいそうしていただろうか、互いの息が荒くなった頃、紅潮した頬のまま二人が唇を離す。 「とても楽しかったぞウィル……いつか、また来ような……?」 ウィルはファラの言葉に頷き、 「覚えてますか? 最初に会った時のこと。事故で死にかけていた僕を、ファラさんが助けてくれた」 今でも忘れ得ぬ体験。 「契約を申し込んだのは、助けられた恩義もありますが、それ以上に……」 ウィルは頬を一層紅潮させながら、 「貴方に……一目惚れしたんですよ。その美しさに惚れ込んだ」 それはファラの方も同じだった。ウィルもまた美形といっていい顔立ちをしていたから。 「それから色々な出来事があって……そのたびに、貴方の色々な面を知ることができた。数千年の……孤独と重さを背負ってきたことも分かって、何て凄いのだろうと、何て愛おしいんだと、思いました。 貴方は美しい方です。その在り方も、心の内も……今まで一緒に過ごしてきた時間で、それを知ることができた」 そしてウィルは一拍置き、 「だから……惚れ直しましたよ、ファラさん。これからもずっと……一緒にいましょうね」 「勿論じゃ、ウィル」 ゴンドラの中にいる時間はたった数分なのに、二人にとって、その数分はとても長くも感じられた……。