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バカが並んでやってきた

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バカが並んでやってきた
バカが並んでやってきた バカが並んでやってきた

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第4章


「くっ……!!」


 一方、いち早く夏将軍との戦いに接していたリネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)は、苦境に陥っていた。

「ほらほら、そんな攻撃じゃ埒が開かないよっ!!」
 街中でウィンターの分身を追いかけていた夏将軍に遭遇し、そのまま戦いを挑んだものの、リネンは思わぬ苦戦を強いられている。
「……身体が重い……これが結界の効果……」
 アイランダーズ・ブーツの効果により空中からの攻撃を繰り返すものの、闇の結界の影響下にあるリネンは、本来の実力が全く出せずにいた。
 バーストダッシュで一気に距離を詰め、攻撃を放ってからの一撃離脱。
 しかし、それだけでは夏将軍にダメージを与えている様子がない。
「ちっ……結界が解けるまでの時間稼ぎってワケかい……しけてるねぇ……」
 リネンの攻撃を手にしたフランベルジュで捌いた夏将軍は、いかにもつまらなそうに呟いた。

「ふん……なんとでも言うがいいわ。私はまだ本調子ではないのよ……一気に押し込むこともできずに大口を叩くなんて、笑わせるわね」
 ふん、と鼻息をひとつ鳴らした夏将軍は、リネンの挑発にあえて乗る姿勢を見せた。

「ああ、そうかい!! だったら、こいつでも喰らいなぁ!!」
 腰溜めに構えると、フランベルジュが赤熱化しているのが遠目にも分る。おそらくこの距離からでも通る攻撃を仕掛けてくるだろう、炎を飛ばす攻撃か、剣撃に炎の属性を乗せて飛ばすのか。
「今――!!」
 その隙を見逃さず、リネンは再びバーストダッシュで突進した。
 夏将軍の攻撃がどちらでも構わない、攻撃までの一瞬の隙をついてのカウンター攻撃、それがリネンの狙いだった。
 もちろん、結界の影響下にある自分の攻撃力で致命傷を与えられるかは分らない。しかし、このまま手をこまねいているワケにもいかなかった。
「時間をかければ、街の人にも被害が出るかもしれない……ならば今ここで食い止める!! 夏、熱さに対抗するには……!!」
 突進しながら、リネンは融合機晶石【フリージングブルー】を使用した。自身に強力な氷結属性を付加する機晶石は、スキルのほとんどを封じられたこの現状では、わずかに効果の期待できる攻撃だった。

「でりゃあああぁぁぁっ!!」
「たあああぁぁぁっ!!」

 夏将軍とリネン、互いの気合が込められた攻撃が交差する。

「……やるねぇ、お嬢ちゃん」

 夏将軍の装備していた面積の少ない鎧の、肩のパーツが氷と共に砕け散った。能力の大半を封じられたこの状況では、リネンの繰り出した攻撃は、実力以上のものであったと言ってもいいだろう。
 だが。

「……ぐっ……!!」

 夏将軍と背中合わせに着地したリネンは、苦しげにうめいた。
 交差の刹那、リネンの攻撃を肩アーマーで受け流しながらも、夏将軍は自らの炎を乗せた斬撃をリネンの身体に叩き込んでいたのだ。

「ま、この結界の中じゃ良くやった方さぁ」
 夏将軍がパチンと指を鳴らすと、リネンの傷口から一気に炎が噴き出した。

「きゃあああぁぁぁっ!!!」

 炎に巻かれて遠のく意識を必死に繋ぎ止めるリネン。
 まだだ。ここで落ちるわけにはいかない。
 この街を、人々を守るためには。

 その一念だけで、リネンは耐えていた。

「はぁ……はぁっ!!」

 辛うじて持ちこたえた身体を、剣を杖代わりにして支えた。
「大したもんだ……まだ立っていられるとはね」
 感心したように呟く夏将軍。だが、このままでは後がないことはリネン自身が良く分っていた。
「……フェイミィ……早く……」
 この結界の中ではコントラクターとパートナーとの絆まで妨害されてしまうのだろうか、本来であれば離れていても良く分るはずのパートナーの居場所さえ掴めない。
 次なる攻撃を加えようと接近する夏将軍を、リネンは剣を構えて待ち受けるのだった。


                    ☆


「……それじゃ、すみませんが後を頼みます」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はパートナーのエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に告げて、自宅を後にする。
「……いつものことですわね。安心して行ってらっしゃいな」
 エリシアは微笑んで陽太を見送った。事件を察知した陽太は戦いの場に赴く前に、自宅と妻子のガードをエリシアに頼んだのだ。
 何しろ自宅には愛する妻と、生後半年程度の赤子がいる。まさかそんな二人を放っておいて戦いに行けるはずもない。しかし、この街が危険に晒されているというのに、自分達だけ隠れているわけにもいかない。
 陽太はこんな時、いつも信頼の置けるパートナーであるエリシアに自宅と家族のことを任せるのだった。

「はい、お願いします。……お待たせしましたね、行きましょう」
 陽太は玄関のドアを閉めると、待ち構えていたパートナー、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)に声を掛けた。
「うんっ、早く行こうお兄ちゃん!! ウィンターちゃんを助けてあげないと……!!」
 ノーンは同じ氷結の精霊として、ウィンターの親友である。ウィンターの身に何が起こったかは分身から聞きはしたが、陽太が家族を誰よりも大切に思っていることも知っているため、あまり急かさずに待っていてくれたのだ。
「ええ、急ぎましょう……準備はいいですか?」
 もう一人のパートナー、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)にも声を掛ける。
「はい、準備万端です……カメリア様やウィンター様を、早く助けてあげましょう!!」
 走りながら、ノーンは舞花に訊ねた。
「あれ……舞花ちゃん、ウィンターちゃんたちと面識あったっけ?」
 舞花は、その問いに軽く答えた。
「あ、いえ……この時代では、まだですね」
 舞花は未来人だ。その言葉の意味するところはすぐに分った。
「……未来で……? でも、未来で舞花ちゃんが二人を知っているなら、今回の事件でも二人は無事なんじゃ……?」
 ノーンの疑問は尤もだが、舞花は首を横に振ってその考えを否定した。
「いえ……私の未来とこの時代の未来とが真っ直ぐ同じとは限りません。
 私の知る限りの二人とこの時代の二人とは、少し様子が違う気もしますし……何しろ、長い年月の先ですから」
 とにかく用心しないと、と舞花は付け加えた。
「う、うん……分った。そのうち、未来のウィンターちゃんのことも聞かせてね!!」
 気持ちを切り替えたノーンに、舞花は微笑む。
「ええ、騒動が落ち着いたら、必ず」

「よーっし、今助けに行くから――待っててね、ウィンターちゃん!!」
 気合を入れるノーンの横で、ウィンターの分身が呟く。
「お願いするでスノー! なるべく早く頼むでスノー!!」


「……助ける相手の分身がすぐ傍にいるのって、なんだかヘンな気持ちだね……」
「細かいことは気にしないでスノー!!!」


                    ☆


「……」
 ツァンダの街角、ビルの陰。路地裏の壁に寄りかかって倒れている男がいた。
 ブレイズ・ブラス(ぶれいず・ぶらす)である。

「う……」
 冬将軍に真っ先に戦いを挑んだはいいが、一撃で返り討ちにあった彼は、まさにボロ雑巾のように路地裏に転がっていたのである。
 受けた斬撃による傷のほか、冬将軍の氷のせいで身体中が凍傷になりかかっている。
 その意識は朦朧としていて、いつ気絶してもおかしくない状態であった。

「……」
 そのブレイズの胸元から下がったアミュレットを、乱暴に取り上げる男がいた。
 彼の実の祖父にして未来からやってきたラヴェイジャー、未来からの使者 フューチャーエックス(みらいからのししゃ・ふゅーちゃーえっくす)である。
「ビビィよ、こいつはお前にはまだ早かったようだ。扱いきれない力は危険なだけ……だからこいつは、儂があるべき姿に戻してやる。
 身体の方はまぁ……頑丈なのがお前の取り得だ、放っておいても死ぬこたぁねぇだろ。じゃあな」

「ビビィ……俺……力……せ……い、ぎを……」

 朦朧とした意識の中、ブレイズはフューチャーXに何かを語ろうとした。しかしその言葉は口から発せられることなく、虚しく消えていく。

「……とりあえずそこで寝ていろ……。っと、誰か来たようだな」
 バイクの音が聞こえる。フューチャーXはその場から飛び上がると、ビルの屋上へと姿を消した。

「……ブレイズ……」
 ビルの陰にバイク『マシン シルバージョン』を停め、男はブレイズを見下ろした。
「……」
 ブレイズの意識はすでにない。だが、命に別状がないことを悟ったその男は、懐からマフラーを取り出した。

「都合よく助けてくれるヒーローなんてどこにもいない……だからさ……」
 呟くと、男はブレイズの右手にその紅いマフラーを巻きつける。

「貴公の正義は……どこにある……」

 男は去った。後にはブレイズ一人が残された。
 闇の結界の中、小雨が降り始めていた。

 それは、まるであの夜のように。