波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【更科雫500枚突破記念シナリオ】更科太郎先生危機一髪! 愛用の○○○○○を探せ!

リアクション公開中!

【更科雫500枚突破記念シナリオ】更科太郎先生危機一髪! 愛用の○○○○○を探せ!

リアクション

 そのころ、たまたま更科太郎先生の家の近くを通りかかり、開きっぱなしの玄関から入って事情を聞いた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、盗まれた更科太郎愛用のタブレットを取り戻すため、街を探索していた。

 聞き込みをしているほかの者たちと違うのは、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)のスキル、トレジャーセンスを用いていることだ。
 街の人への聞き込みにはすでにあたってくれている人がいるから、自分たちは違う方法であたってみることにしたのだった。

 トレジャーセンスは金品財宝の場所を第六感的に知ることができるスキルだ。はたしてタブレットが金銀財宝にあたるかどうかは疑問の余地がないでもなかったが。

「宝物だよ! だって、それがなくなったから更科先生はああやって倒れちゃったんだよ!」
「いや、倒れたのはジョニーが殴ったからだよ、美羽」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が脇から訂正する。
「あ、そうだった?」
「半狂乱になったんですわ、美羽さん」
 ベアトリーチェとコハク、2人から言われて、ちょっぴりほおを赤らめつつ、美羽は続ける。
「と、とにかく!
 今、床についてるのはたしかなんだから! そんな大切な物が宝物でないはずないもんっ!」

「そうですね……。
 更科先生、タブレットがなくなっていることに気づいたときは、すごくショックだったでしょう。
 おかわいそうに……」
 優しいベアトリーチェは、更科太郎の胸中を思い、そっと胸元に手をあてる。
 表情を曇らせ、まるで我がことの胸を痛めているベアトリーチェの姿に、途中でばったり出くわして、それ以降3人と合流した千返 かつみ(ちがえ・かつみ)は、憤慨しきって言った。

「まったく、タブレットだって? そんなの盗んでどうするってんだよ。それこそ電器屋なり、画材屋なりの店へ行きゃ、いくらでも買えるじゃんか! 目玉が飛び出るほど高いって物でもないし! 先生に迷惑かけて、窃盗してまで手に入れようとする物じゃないよな!」

「おや、かつみ、知らなかったのかい?」
 かつみの発言を聞いて、となりを歩いていたエドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)が驚きの表情を浮かべる。

「何をだ?」
 本当に知らないという表情で訊き返してきたかつみに、エドゥアルトは説明をした。
 いわく、更科太郎がインタビューなどで折に触れては、「今の自分があるのはこれのおかげ」「これがあるからこそ魅力的なピヨが描けるのだ」「ピヨたちに命を吹き込むことができるのはこのタブレットでしかできない」といったようなことを口にしていることだ。

「結構有名なエピソードだよ。知ってる人は大勢いると思う」
「そ、そうなのか!?」
「実際、先生の描いたピヨは命を吹き込まれ、あんなにもいきいきと動き回っているからね。あながちはずれているとも思えないし、犯人も、きっとそうだと思い込んだんだろう」

 その言葉を聞いて、かつみの体が見るからにわなわなと震えだした。

「じゃあ今ごろ犯人は、盗んだ先生のタブレットでピヨを描いて、そのピヨに命を吹き込んでるかもしれないっていうのか!?
 なんてうらやま……じゃない、ひどいことを!!
 俺だってピヨはいないけど、それでも自分の描いたピヨの絵で我慢してるって言うのに!!」

 カッと怒りに火がついた。

「ゆるっせーーーーーーん!! 犯人のヤロウ!! 絶対この手で犯人を捕まえてやる!
 そしてもしタブレットを取り返して、そのピヨたちも助け出したら、お礼にもふもふさせてくれるかも――な、なんてことは考えてなんかないんだからなっ!」

 ほんとだからな!! と、急にこの場にいるエドゥアルトたちの存在を思い出して、顔を真っ赤にして言い張っているかつみの姿に、エドゥアルトは内心とまどう。
(えっと、かつみってこんなだっけ……?)

 だけど、まあ、やる気を燃やすのはこの際間違ってはいないし。
「その意気だ。がんばろう、かつみ」
 思い直して激励を口にする。
 かつみは大きくうなずいた。

「先生、待っててくれ! きっとタブレットを取り戻して、先生の手に戻してやるから!」
 そして犯人には、先生に土下座謝罪をさせてみせる!



 セレンフィリティが見たという、ピヨもどきを生み出している疑惑の謎の男は、セレアナがもふもふ風呂につかっているときもまだセレンフィリティの見つけた場所にいて、ノートパソコンとつなげたタブレットを用いてピヨを描くのに躍起になっていた。
 しかし完成して、命を持って立ち上がってくるのはいずれもピヨもどき。ただの1匹も、あの愛らしくてかわいい、くりくりお目々のピヨにはなってくれない。

「くそう……どうしてだ!? どうして描けないんだ!!」

 男は歯を噛み締めた口元でうめく。
 ペンを握りしめた手は、はたから見てもあきらかなほど力が入り、そのせいでぶるぶる震えている。

「そんなはず、ない。簡単じゃないか……すごく簡単……オレだって、何度も描いてきたんだ……」


「簡単なもんか!!」


 突如、怒った男の声が響き渡る。

「あの愛らしい目鼻立ち、頭頂部で縛られた毛、小さな両手、あの卵型をした絶妙のフォルム! あれが簡単に真似できてたまるもんか! 俺だって、そのくらい知ってるんだよちくしょう……」
 今まで何度も描いてきたからな!!

 やっぱりこいつやってやがったと、男の足元にいっぱい転がっているピヨ(正確にはピヨもどき)を見て、かつみはギリギリと歯をきしらせる。

「おまえに足りないものを俺が教えてやる! それは! 情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!
 そしてなによりもォォォオオオオッ!! ピヨに対する愛が足りない!!

「な、ナンダッテーーー!?」

 突然知らされた新事実に、驚き、息を飲む男に、さらにかつみは指を突きつけたたみかける。
「それがあったらこんなみっともない真似なんかしなかった!! おまえは自分で自分の愛が足りないことを証明したんだよ!!」

「そんな……」
 愕然となり、男は後ろへ一歩二歩とよろめく。

 さんざん失敗したあとで、自分でももしやとの疑いが忍び入っていたところへ、追撃をかけるようにかつみからの指摘を受けて、男は心が折れかけているようだ。

 あと少しだ。
 そう感じたかつみは、ポケットをごそごそさせて1枚の紙を取り出した。 
「なあ。悪いことは言わない。
 俺の渾身のピヨ絵をやるから、盗んだ物を先生に返してやれ……」
 それはかつみがピヨの持てない自分を慰めるために描いた、自作絵だった。
 いわゆる、アメとムチ作戦だ。


 これできっと、改心した男はおとなしくタブレットを返してくれるハズ。


 先まで以上にぶるぶる震えている男の姿に、ああ泣いているんだ、そう思ったのもつかの間。

「…………ふ、ざっけんなテメー!!

「……ええっ!? なんか逆に怒り出した!?」
 なんでーー???


※                  ※                  ※



「むっ!? あれが犯人ですね!!」
 別の道からここにたどり着き、ちょうどその現場を見た貴仁は、さっそく駆けつけようとする。
 しかしそのとき、何か固い物がガツンと頭を直撃して、その一瞬で貴仁の意識はブラックアウトした。
「よくやりました、皆さん」
 夜月が、ゲーム機を持ったピヨたちをねぎらったことを、貴仁は知ることはない。


※                  ※                  ※



 すぐ近くで起きている貴仁の悲劇(?)も知らず、かつみはただひたすらに、わけが分からないよ、とあせりまくっていた。
 その間も、激怒した男は腕を突き出し、かつみへとずんずん迫っていく。

 その光景に、美羽がくさむらからバーストダッシュで飛び出した。

「あ、美羽! まだかつみさんから合図は出てないよ!」
「これ以上待ってらんないっ! どう見ても話し合いは決裂してるよ、あれっ!」

 かつみの横をすり抜けて、男に急接近。間合いに入ったところで垂直に飛び上がる。

「くらえっ!! 正義の鉄槌!! ミニスカ鉄壁飛連脚!!


 美羽の足技をまともに受ければ、コントラクターだって起き上がれない。
 男は蹴り飛ばされた場所で仰向けになり、目をグルグル回していた。

「正義は勝ーーーーつっ!!」

 美羽は勝利のVサインを決めた。


※                  ※                  ※



 こうして犯人の男は確保され、コハクが警察に連れて行くことになった。
「ベア、タブレットは先生にお返ししてね」
 気絶しても握り締めて放さなかったタブレットを取り上げて、近くにいたベアトリーチェに渡す。
「はい。大切にお預かりします」
「うん。頼むよ」
 そして足元に転がっているピヨもどきたちを見て、こいつらはどうしようか? と考える。
 正直、名案が浮かばなくて途方に暮れそうになったが、この事件にかかわっているのは自分だけじゃない、あとでみんなで考えればいいだけだ、と思い直した。

「じゃあ、行ってくるから。あとで更科家で会おうね」
 コハクはまだ気絶したままの男を肩に担ぎ上げ、歩き出す。

 かつみはコハクたちと反対の道へ歩き出したベアトリーチェと美羽を見た。
 ピヨもどきたちは自分たちに命を吹き込んだタブレットに従っているのか、2人の後ろをちょこちょこと後追いしてついて行っている。
「更科先生の所へ行くみたいだな。俺たちも行こうか」
「ええ。――あ、ちょっと待って、かつみ。何か落としてるよ」

 エドゥアルトは少し後ろへ戻って、そこにひらりと落ちた紙を拾い上げる。
 ちょうど表が上を向いていて、そこに描かれているものを見てしまった。

「あ、拾ってくれたのか。悪いな」
「……相変わらず独特な絵だね
「んっ? 何か言ったか?」
「あ、いや。
 ほ、ほら。大事なピヨの絵なら、大切にしまっておかないとね」
 ちょっと引きつった、無理をした笑顔でエドゥアルトはその紙をたたみ、かつみに戻した。

 あの絵を見て、なぜ犯人が急にあんなにも態度を豹変させたか、分かった気がする。

「かつみ……。その絵は、もうだれにも見せない方がいいんじゃないかな?」
「とうしてだ?」
 ――えーと。
「そう思ったからだよ」

 エドゥアルトはごまかすように、にっこりと笑う。
 それは有無を言わせない笑みだった。


 








『【更科雫500枚突破記念シナリオ】「更科太郎先生危機一髪! 愛用の○○○○○を探せ!」 了』

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。
 当シナリオにご参加いただきました皆さん、ありがとうございました。

 リアクションの公開が遅くなって申し訳ありません。
 なんとか年内に公開できているといいのですが……。


 今回いただきましたアクションについてですが、注意の見落としがかなりの方から見受けられました。
 ダブル・トリプルアクション、確定ロールアクション等も複数あり、今回は若干厳しめの判定結果となっています。
 採用できる部分をできるだけ採用できるようにと頑張りましたが、マニュアル準拠の点からも鑑みまして、リアクションの通りとなっています。
 ご了承ください。



 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 このシナリオにて、寺岡の蒼空のフロンティアにおけるマスター業務は終了となります。

 最後のシナリオにご参加いただき、ここまでおつきあいくださいまして、本当にありがとうございました。