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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

リアクション公開中!

終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●人生の一区切りとして!

 真冬。
 祈りが『滅びを望むもの』の絶望を解いたあの日から数えて、最初の冬だ。
 昨夜から冷え込みが激しく、今朝には雪が降った。
 雪は昼前にはやんだものの、溶ける様子はまるでない。
 陽差しはおぼろ、陽が沈んだばかりだというのに、しんしんと骨に染みるほどの冷気があった。
 だが物理的にはともかく、気持ちの上で神条 和麻(しんじょう・かずま)は寒さを感じてはいなかった。
 それは彼が一人ではないから。恋人のルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)と一緒だからだ。
 今日は一日、ふたりで街のデートを楽しんだ。食事して映画を観て買い物をして……という定番コースだ。
 いわば他愛もない内容なのだが不思議なもので、ルシアといるとまるで退屈しない。大ヒット漫画が原作という映画は相当なハズレで、陳腐すぎる展開に鼻白むことしばしばだったが、それですら、終わったあとに話のタネになるのだからもっけの幸いだ。
 買い物にあたっては、女の子が服を選ぶときの基準や視点、他の服との合わせかたなど、和麻からすれば想像も付かなかったような事実をいくつも知ることができた。
「それでそれで、あの子が言うことによれば−」
 ポップスのようにポンポンと話すルシアの言葉だって、聴いているだけで楽しいのだ。
 これでいいのだろうか――と、和麻も思うことはある。
 危機的状況は去ったとはいえ、パラミタの未来にかかる不安材料はいくらでもあった。いまは平和でも、いつまた新たな危機が訪れるかわかったものではない。
 だが、和麻は無闇に心配するのをもうやめていた。
 これがパラミタだし、これからがどうなるかは、この世界を生きる人々次第なのだ。和麻一人が悩んだりあがいたりして、どうなるというものでもないだろう。
 以後も彼は依頼を受けては世界を飛び回り、人々を助けている。たまの休みくらい、ルシアのことだけ考えていてもいいはずだ。
 暗くなったのでデートはここまでとし、和麻は今、ルシアを自宅に送っているところだ。
 デート自体は充実していたし、ルシアとの関係も良好だと思う。
 だがどこか、中途半端ではないかと彼は思っている。
 ――ちゃんとしたキスをしていない。
 交際してから、一度も。
 結婚する前提で付き合っているわけだし、人生の一区切りとして恋人らしい事をしないと――そんな焦燥感がある。
 お互い中学生ではない。
 無論節度は守りたいが、それでも、キスくらいは……いいのではないか。
 だがどうやって?
 それが問題だ。
 いきなり「キスしていいか?」と言うべきなのか。
 それともやっぱり、それなりのムードを作っていくべきなのか。
 無言で見つめ合って、ふっとキスに入るというかのような……。
 だがそれは、どんな雰囲気なのだろう。
 屋外でできるのだろうか。屋内のほうが向いているのだろうか。
 正直に告白すると和麻は、キスの仕方がそもそもわからない。
「着いたよ」
 そんな逡巡をしていたところ、もうふたりは目的地にたどり着いていた。
 もうあと数分しないうちに手を振って、さよならだ。
 このときなにを思ったのか、和麻が口にしたのはこのことだった。
「ルシアが成人したらルシアの家族に挨拶回りに行かないとな。親がわりの人はもちろん、姉妹であるハイナにも」
「え? あ……そうだね」
 真面目な交際だと考えている、将来のことも考えている――というアピールだったのだが、なんだか迂遠な言い方だったかもしれない。
 ここで和麻は気がついた。
 ――よく考えると遺伝子的とはいえ、ルシアは大統領のウィルソン家の人間なのか……!
 つまり身分がすごく違うということだ。
 いや――和麻は考え直した。
 それで怖じ気づいてどうする。
 しっかりしなくては。一緒にいるって約束をこれから先ずっと守っていくためにも……!
 これでもう頭が一杯になってしまってキスどころではなくなり、
「だ、だからルシア……じゃあ、また」
 和麻はそう言って背を向けようとした。そのとき、
「待って」
 とルシアに声をかけられた。振り向いた和麻の唇に、
 ――!
 ルシアがそっと、唇を重ねた。
「えへへ……これ、私のファーストキス!」
 それだけ言うと、じゃ、とルシアはドアを開けて飛び込んでしまった。
 振り向きもしない。恥ずかしかったから……だろうか。
 どちらにせよ和麻は唇に手を当てたまま、ただ呆然と、魂が飛んだようになってその場に立ちつくしていた。
 次のキスは、自分からしよう。