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リアクション
□□□□□
ヒラニプラに向かう電車の時刻までまだ少し時間があったことから、一行は駅近くの小さな公園で時間を潰すことにした。
「団に入ってるの? 危ないよ、まだ子供なのにっ」
「大丈夫です。レイちゃんはボクが守ります!」
ヴァーナーとレイルはすっかり仲良くなって、笑い合っていた。
レイルとパイス、それから執事と思われる守護天使の壮年の男。さらに一般人を装った護衛と思われる男達がレイル達に付き添っている。
その周りで、百合園の乙女達は、警戒しながらもお喋りを楽しんでいた。
「そんなに遠くには行っていないと思いますが……」
葉月は公園の出口であたりを見回し、パートナーのミーナの姿を探していた。
「……あっ、ミーナ!」
茶色のウェーブがかかった髪の少女に、葉月は手を思い切り振った。
「おー! 葉月、いいところに! あっちで美味しそうなケーキ売ってたよ! ミスドのドーナツも食べたいっ。買いに行こっ!」
ミーナが笑顔で近付いていてくる――。その後からけたたましい音が響き出す。
パラ実の暴走族だ。数は十数人。
人数はそう多くはないが、白百合団、及び協力者達は瞬時に防衛態勢を取り、そっと武器に手を伸ばした。要人の迎えだとは知られない方がいい、物々しいのは逆効果だと団長から指示が出ており、今回白百合団のメンバーは武装していない。
「あんたらがその子の保護者?」
髪を真っ赤に染め、意味もなく鎖をじゃらじゃら巻きつけた男がにやけ顔で問いかけてくる。
「ん? 葉月の金はワタシのものだから、あんた達に奢る金はないよ?」
ミーナは至極真面目に族の男に言った。
「それじゃ、てめぇ自身を貰うぜ? いい買い手がいるんだ」
「待て!」
手を伸ばす暴走族の前に、葉月、岩造とフェイトも飛び出した。
「シャンバラ教導団の者です。無用な争いは避けたいのですが」
「彼女が何かしましたでしょうか?」
「俺等にケーキを奢れって言ってきたんだぜ、この嬢ちゃん」
「葉月が隣にいると思って、話しかけただけだよ、奢ってくれなくていいよ?」
ミーナの言葉に、暴走族達が笑い声を上げエンジン音を上げる。
「綾、さん?」
その時……白百合団に所属する1人の少女が、女性の名前を呼んだ。
見れば、先頭のバイクの後に、少女の姿がある。ヘルメットは被っていないが、俯いて顔を隠している。
「い、行きましょう……。生徒会執行部のメンバーが沢山います、から」
少女が小さく言うと、族達はバイク音を高鳴らせて「次に会った時まで貸しておいてやるぜ」「利息高ぇからなー!」馬鹿にしたような笑い声で思い思い言葉を投げて、去っていった。
「おねぇちゃん……」
レイルは不安気な顔で、ヴァーナーの腕をぎゅっと掴んでいた。
「大丈夫です。もう怖い人達はいませんから」
レイルの頭を撫でながら、ヴァーナーは消えていった暴走族……その後に乗っていた知り合いに良く似た少女が消えた先から目を離せずにいた。
「ちょっとそこのお兄さん」
暴走族が去って動揺の消えないその場に、そっと近付いた女性がいた。
ヴァイシャリー家の護衛と思われる男が、肩を叩かれて振り向く。
「わたくしをあなた専用のメイドにしてくださいませんか? つきっきりでサポートしますわ。……させて、くださいませ」
上目遣いで見上げて、女性――ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)が、男に言い寄っていく。
「ひと目で気に入ってしまいましたの。その逞しい身体……いえ、あなたの全てが。突然このようなことを言われて、さぞ驚かれたと思いますけれど、実は以前からあなたのこと知っておりましたの。時々学校の前にもいらしていますよね」
いじらしく、頬を赤く染めてジュリエットは男に身を寄せた。
「サポートは、構わないが……。仕事があるんで、あまり近付かれても」
男は軽く動揺していた。脈は十分ありそうだった。
「成功、ではありますけれど……」
少し離れた位置から、その様子をビデオカメラで撮影していたジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は、複雑は表情を浮かべた。
こういった『体を張った』情報収集にはどうも賛成は出来ない。しかし、シャンバラ人として旧王家の血筋には興味と期待がある。
今回は方便として容認し、こうして協力をしているのだが。
男と手を繋ぎだしたジュリエットの姿に、ジュスティーヌは思わず溜息を漏らす。
「お相手……鼻の下、伸ばしてますわね。確かに筋肉質ではありますけれど、身体は毛深くて頭は薄くて、顔もとても……いえ、そんなことで差別してはいけませんけれど」
姉はヴァイシャリー家に関わる者に取り入って、アルバイトとして家にもぐりこむことを考えているらしい。
このまま成功を祈るべきか、失敗を祈るべきかジュスティーヌは複雑な気分だった。
――その頃。
ヴァイシャリーで、独自に早河綾を探していた者がいた。
百合園女学院の生徒である笠岡 凛(かさおか・りん)とパートナーのメアリ・ストックトン(さら・すとっくとん)だ。
綾が怪盗の追っかけをしていたとなると、白百合団のメンバーと一緒に行かない方が情報が得られそうに思えたこと。それから、自宅にはいない可能性もあると凛は考えていた。
案の定、彼女は家にはいなかった。
生徒会執行部に所属しているわけでも、友人でもない凛は彼女の携帯番号を手に入れることは出来なかったが、街での聞き込み調査の結果、気になる情報を幾つか得ていた。
怪盗舞士を熱心に追っていた百合園女学院の生徒が、パラ実生と思われる男と一緒にいる姿を目撃したという情報。
その男は、ヴァイシャリー以外の街で、暴走行為や乱闘騒ぎを日常的に起こしていたヤクザの幹部に似ているという話。
「拠点の情報も得ましたけれども、流石にわたくし達だけでは、お伺いできませんですわよね」
「うん。とりあえず――!」
喫茶店にて凛の前に腰かけていたメアリは皿をびしっと突き出した。
「ストロベリーケーキと、ザッハトルテと、モンブランお願い!」
言いながら、シュークリームを頬張っていく。
「お嬢様、食べ過ぎてお腹壊さないでくださいませね」
微笑ましげに言いながら、凛は皿を持ってケーキを取りに向かう。
今日はスイーツバイキングが行なわれており、店は大盛況だった。
頼まれたケーキを取って席に戻り、美味しそうにスイーツを食べるメアリに微笑みを向けた後、凛は携帯電話を取り出した。
学友の桐生 円(きりゅう・まどか)に電話をして、今までの調査結果を小声で伝えていく。
「お嬢様がいま取り込み中でございますので、すぐには伺えませんけれど、後ほどまた情報交換の程よろしくお願いいたします」
会話を終えて携帯電話をしまい、紅茶を飲み始めてすぐ、
「レモンティーが飲みたいっ。ついでに、プリンもお願いね!」
メアリからの催促の声が飛ぶのだった。
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