リアクション
第5章 戦争、お好きでらっしゃいますかあ〜
志賀が戻ってきた。攻撃を受け、大分大変な事になったと聞いてバイクですっ飛んできたのだ。
テントの中には和泉と志賀、そして戦部がいる。志賀は今までの偵察結果などの資料を確認している。
ぱた。と資料を読み終えた志賀が顔を上げた。頭にはまだ包帯が巻かれている。
「事情はだいたい解りました。まあ、半分は敵の作戦に引っかかった。残り半分はその後の対応、と言うことでしょう。……戦部候補生」
「はい」
「貴方の分析案は確認しました。見事です。敵の補給線が切断されていることをきちんと把握し、それ故敵が師団主力に攻撃を掛けてくると言う判断も正確です。たいがいの人は可能性でごまかそうとしますからね」
「可能性……ですか」
「敵の行動はAかもしれない。Bかもしれない。あるいは戦力を分派して回り込んでくるかもしれない。『かもしれない、かもしれない、こういう可能性もあり得る』そうやってあれもこれもと挙げたあげく、すべてに対応しようとする。今回の場合、それってまずいんですよね。戦力をわざわざ分散させる人はいません。しかし、あれにもこれにも対応しようとして結局戦力を分散させて敵にやられると言うわけです。貴方は分析して明確に『決断』できました。これはなかなか鋭い」
「敵の作戦はどうだったの?」
和泉は全体を把握したいようだ。
「敵はこちら側にモン族を引きずりだして叩くつもりと思わせて、砦から出ないようモン族を拘束し、全力を持って師団主力を攻撃し、補給線を回復するつもりだったのでしょう。敵にとって一番怖いのは師団主力を攻撃している間にモン族に後ろを襲われて挟撃されることです。ですから、モン族が砦から出て来にくくする必要があります。だから間道を妨害しないんです」
「間道を妨害しないことで?」
「間道を妨害しなければタバル砦と連絡が取れます。すると、必ず、『これは罠だ、敵はモン族を引きずり出すつもりだ。モン族は砦から出るな』と言いに行く者がでるでしょうね。つまり、我々にモン族を止めさせるつもりなわけです。まあ、囮の作戦に引っかかる訳です」
「そういうことだったのね」
「資料を見ると、空飛んで偵察した者がいたようですね」
前回、箒に乗って空から偵察した者がいる。
「空から偵察したお陰で敵に第3師団が近づいていることを教えちゃいましたからね。お陰で敵は策を講じる時間を手に入れた訳です」
言うまでもなく、空を飛べば敵からも丸見えだ。上でうろうろしていれば敵戦力が近づいていることは一目瞭然。第3師団が来てますよ〜とわざわざ教えているようなものだ。
「『補給』と言う物をきちんと考え把握していれば、敵が師団主力を攻撃することは断言できます。それだけではありません。敵の別部隊が後ろから来ることも見抜いています。戦部候補生の状況分析はパーフェクトです」
「は、は!」
戦部はさすがに緊張した。
「ただ、残念だったのは陣地を作って防御を計ったことです」
「まずいですか?」
「そうですね。陣地を作ったこと自体はまずいわけではないですが。正面から食い止めようと言うのはちと問題ですね。戦部候補生、『帰師は止むるべからず(必死で退却しようとしている敵の前に立ちふさがってはならない)』です。倍の戦力が死にものぐるいで襲いかかってくるように仕向けてしまいます。むしろ、敵を通してやって側面、もしくは後ろから攻撃してやればこちらの損害を押さえて敵に打撃を与えられたでしょう」
「しかし、それでは敵に逃げられてしまいます」
戦部がそう言うと。志賀は視線を外さずに戦部を見た後、口を開いた。
「それでいいんですよ。今回、我々がここに来たのは『モン族を救援』するためです。『敵をやっつける』為ではありません。有り体に言って『追い払えばいい』のであって、倒す必要はありません」
「そうなのでしょうか?」
「まあ、贅沢を言えば、モン族に後ろから攻撃してもらってやっつけられればそれに越したことはありません。しかし、貴方も現状のモン族は戦力として当てにできないとの考えですよね?」
「はい。銃器のないモン族を無理に投入するのはどうかと」
「それはそれで健全な考えです。だとすると、倍近い戦力に正面から挑むのは問題があるでしょう」
「それは確かに」
やや、声が沈んだ戦部に志賀の方は声を大きくして言った。
「貴方をここに呼んだのはなぜだとおもいますか?」
「?」
「先ほども言った様に貴方の分析は完璧です。だから、ぶっちゃけ、あともうちょっと、惜しいな〜と言うわけです。是非貴方には今回の事をよく考えて飛躍してもらいたい訳です。今、貴方がいっとう抜きんでていると考えます」
「は、はい!」
「貴方なら解るでしょう。我々は戦争をしているのであって人殺しをしているのではありません。戦争とは『武力を用いて行われる政治の延長』だと言うことです。武力を用いるので結果的に死体が量産されてしまいますが、敵兵を倒すことはあくまで手段であって目的ではありません。これに気づかないと敵を見たらやっつけようとして罠にかかります。残念ながらこういう事が解っている者が少ないのが現状です。今後、精進してください」
戦部にはこの直後、昇進の辞令が下りる事となった。
「大変だったわね。大丈夫?」
戦部が出て行った後、さすがに和泉は心配そうに志賀を見た。
「大丈夫です。少々ネジが外れたかもしれませんが」
あっさりと言う志賀に和泉は表情に困ったような顔をした。
「ところで、交渉の方だけど、ラク族のヤンナという代表はどうなのかしら?」
「そうですね。今の所何とか顔を合わせる回数を増やそうかとしている所です」
「ヤンナ代表は美人なんですって?良かったわねぇ〜」
にっこり笑って言う和泉に志賀は冷や汗を垂らした。
「まあ、それはそれとして、実際の所どうなの?」
「ええ、結構手強いですが、馬鹿ではないと思います。慎重に産業などの支援策を講じれば文化面の妥協は十分あり得ると考えます。とにかく、ワイフェン族とラク族の同盟、と言う事態は何が何でも避けなければなりません。ある程度軌道に乗ればとんとん拍子に進むとはおもいますが」
「それならいいんだけど」
「それより、もうだいぶ秋も深まってきました。正直、これからますます厳しくなります」
「そうなの?」
「おそらく、秋が深まるとまもなくワイフェン族の戦力は格段に強化されます。こちらも戦力の整備を急がねばなりません」
「ワイフェン軍の戦力が増えるということ?」
「増えます。多分間違いなく」
「厳しくなるわね」
「モン族は協力してくれます。戦いつつ態勢を整えて行くしかありません」
「志賀君は、すぐまたラク族の方へ行くのかしら?」
「まあ、しばらくは行ったり来たりでしょう。今回の資料を見ましたが、補給線を断っていることに気づく者が少なすぎで今後が心配です」
「あまり留守にされると困るわ……」
「まあさすがに、私は一人しかいませんので」
「中心から二つに切ったら二人に分裂してくれないかしら?」
「ヒトデじゃないんですからっ……て、刀の鯉口切って言わんでください!」
「冗談よ」
和泉は刀の柄を納めた。
「師団長、何か、悪い影響受けてませんか?」
「誰の影響だと思っているの?」
第3師団はモン族と合流、再び再編となった。第2歩兵連隊は再びラピト族の所へ戻り、第3歩兵連隊と交代する。またモン族からほぼ一個連隊の戦力を抽出。これを第4歩兵連隊として整備する。そのほか多数のモン族兵士が三郷分校へ向かい訓練を受けることとなった。しばらくすれば格段に兵力が増えるであろう。
とりあえず、来月は基本的に戦力の再編と整備に費やされる事となった。ただし、強襲偵察大隊と第1騎兵大隊は先行してワイフェン軍に対する『威力偵察』を行うこととなった。ようするにちょっかい出してピンポンダッシュで逃げてくると言うことだ。これにより、敵の戦力、戦意などを推し量り、次の攻勢につなげたいと言うことだ。
また、技術部より、AMR(アンチ・マテリアル・ライフル)の試作品が数挺完成したとの連絡が来た。これにより、装甲猟兵中隊(パンツァーイェーガーコンパニィ)を具体的に編成する方向で進んでいる。そのため、その運用試験を行うこととなった。要するに射手を選抜すると言うことだ。
条件は男性であること。体格が良いことである。また実際の運用では歩兵と共に運用されるので実際にはチームと言うことになる。AMR射手と歩兵数名の射撃チームである。
戦いは一段落した。しかしそれはさらなる激戦の間の一休みでしかない。
雨にも負けず風邪にも?負けずと言うわけでインフルエンザにはかかっていない説教師、秋山です。ゆるくて地獄で食道楽なシナリオ「着ぐるみ大戦争」激闘中です。
まず通達
クリスフォーリル・リ・ゼルベウォント
クレーメック・ジーベック
マーゼン・クロッシュナー
ゴットリープ・フリンガー
ケーニッヒ・ファウスト
テクノ・マギナ
以上六名、重傷に付き、本国送還です。以後「着ぐるみ大戦争」に参加できません。
今回は激戦なんかで大分損害が出ました。実際かなり死者が出ているはずです。逆に言えば、本国送還の人たち、本当なら死んでるって事です。なお、戦場にいないから安全だなどと思わないでくださいね。
今回の総評としてはまず航空部隊。ワイヴァーンが出て来た途端、大勢来ましたね。しかし、というか口でワイヴァーンと仲良くしようと言ってその実、粗末にしている人多いね。マスターはアクションの中身で判断します。口で言うのではなくそれを感じさせるアクションが大事と言うことです。
早瀬さん、朝野さん、来月試験です。受かればいよいよその次から実戦投入です。よく文章を読んで考えてください。実際、よく考えれば、なめとんのかと言うくらい簡単です。なぜ、そんな簡単な事をやらせるのか、と言うことです。それが本当の試験の意味です。
交渉団は大分、いろいろシャンバラに関する問題を考えるようになってきてます。お陰で長いです。後は駆け引きを考えながら将来像を模索することになります。
さて、シュレーダー戦闘団。なんというか、みんな封鎖に廻って、突入班がほとんどいないのはWHY?正直、突入班が集中攻撃でやられる可能性があった。(多方向同時突入になるだろうって言ったよね)何というか国頭さんがひっかき回したのがある意味功を奏していますね。
さて、問題は師団主力。今回は『補給』が解っていたかどうか、です。皆さんに補給は重要ですか?と聞くと皆、重要です。と答えるでしょう。では本当に重要視しているか?ということでチェックしてみました。……戦部さん以外全滅。わあ。
ラピト外縁の戦いの時もそうですが、布陣とかだけ見て罠に引っかかってますね。
戦部さんはきちんと情報を調べて考え、決断してました。これ重要。あれもこれもって考えたくなるけど今回はそれはまずいんです。モン族を救援に来たんですから、敵の動きを待っているようでは主導権を相手にわざわざ渡しているようなものです。
ところで、意外と皆さん情報確認してませんね。結構あちこちにこっそり重要な情報ばらまいてます。敵の補給線が切れていると言うことは堂々と書いてるはずなんですがね。直接的な文章で書いてないだけです。そう言う意味で今後はよく読んで考えてください。前回の最後に航空科の宴会シーンがありますが、実はここにも情報が隠れてます。今読み返しても解る人は少ないでしょう。ただ、必要になったとき、よく考えていれば解るようになっています。
ではまた来月。