リアクション
メカダゴーン(めか・だごーん)はスピーカーから、美しい音楽を流し、皆を励ましていた。
精神力が不足した者には、両手でハートマークを作り、ラブ&ピースを表現し、SPリチャージで回復を施す。
巨獣 だごーん(きょじゅう・だごーん)と共に、瓦礫の撤去にも積極的に動いていた。
「おい、そこのメカ!」
突如響いた怒声に、メカダゴーンが振り向く。
「貴様のせいで、こっちは生き埋めになったんだ!」
ぶんぶんと武器を振り回しながら、男がメカダゴーンに走り寄る。
メカダゴーンはその小さな存在を、ただ見ているだけだった。
「そのすまし顔を恐怖に変えてやる! 覚悟しろこのゴキハンマーがテカッて唸るぜ!」
男は青色の武器――というか、アレの沢山入った袋を思い切り、振り回す。
「喰らえっ! Gのシャワーを全身に浴びろ!!」
メカダゴーンの足にその最強凶悪な武器を叩きつけた。
「き、きゃあああああああああああ」
「ぎぃゃやああああああーーーーーーーーーっ」
言うまでもなく阿鼻叫喚、未曾有の大惨事!
「ぐっふああああああああーーーーっ!」
いくつもの黒い物体に、襲われた星次郎は、ついに精神の限界に達した。
「駆除だぁぁぁぁぁ! 絶滅させるぅぅぅぅぅぅ!!」
火術をゴキブリが張り付いた、メカダゴーン、ゴキブリが張り付いた人、ゴキブリが張り付いた不良、ゴキブリが張り付いた瓦礫に、分け隔てなく打ち込む、打ちはなっていく。
「さっさと連れ帰った方が、被害を抑えられたかもしれんな……」
あまりのキレっぷりに、昴ももう、言葉で止めることはできなかった。ホーリーメイスを構えて、殴打のチャンスを狙う。
「ぎぃぃぃぃゃああああああああああああーーーーー!」
真っ白になっていた、ウィルネストの服の中にも、服の中にも、ヤツは、黒き悪魔は乱入してきた。
無我夢中、狂ったダンスを踊るかのように、半狂乱半泣き、寧ろ全狂乱号泣状態で火術を四方八方自分にも放つ。
「これは面白い。いい絵が撮れそうです」
シルヴィットは、ゴキがついた瓦礫をぽいっとウィルネストの方に投げると、自分は後方に跳んでカメラを構えた。
「いぁぎゃあああああ!!」
「ぎゃーーーーっ」
「ぐはあああっ」
ウィルネストの絶叫が木霊し、火術の被害を受けた善良な一般不良達の絶叫も響いた。
被害は更に拡大する。
羽を広げ、奴等は飛び立ったのだ。
「あ! こやつめ! こんなところに!」
真っ先にカナタが気付いたのだが、時既に遅し。
「う……あ……きゃあああああああああああああーーーー!」
顔面に向かってきたゴキブリの姿に、ヤツとしっかりと目があったケイは絶叫と共に意識を失った。
「うぐああっ、来るなー!! 離れろーーー!」
「おい、フォルクスっ!」
大量にシートに張り付いたゴキを目に、フォルクスの理性が全てすっとんだ。膝の上の不良を蹴り飛ばし、シートに張り付いたゴキに火術を放ち捲くる。
「いや、ゴキブリじゃなくて、あんたが離れろー!」
樹が突き飛ばすように、フォルクスをテントから離れさせる。
燃える瓦礫。
炎に巻かれた人々。
燃え盛るテント。
「こ、こないでーーーーーっ!」
更に被害は拡大し、休憩用のテントの方にも黒き塊は迫っていく――。
「……俺、用事思い出したんで帰りますね」
青色の武器を使った男――いや、刀真という名の大災厄神は隠れ身を使って逃走した。
「はあ……仕方ない」
月夜が握り拳を固めて狩りに向かう。
そしてもう1人――。
直前まで電話に向かい怒鳴っていたミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が、急に声のトーンを落とした。
普段どおりの冷徹な表情を浮かべ、電話を切って厳かに言う。
「すみません、本校から急な呼出が入りました。作戦の成功を見ずに去るのは残念ですが、止むを得ません。ロドリーゴには後から追及するよう言ってください。では失礼」
「……準備は出来ています」
テントの外では、アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)がバイクのエンジンをかけて待っていた。
ゲルデラーは鮮やかにバイクに飛び乗ると、急発進しアマーリエと共にはるか遠くへと走り去った。
○ ○ ○ ○
地下にもバラバラとゴキが舞い落ちてくる。
突然の害虫の飛来に、教導団の面々は逆に冷静さを取り戻す。
「あー、また失敗かよ、あのヘボ策士の先輩ときたら全く……」
アクィラが、ゴキを振り落としながら不満を漏らす。
「最悪ですぅ……」
クリスティーナは泣きそうだった。
「誰じゃここに鏖殺寺院が立て籠もっているなどとガセを流したのは……そうじゃ、断定したのは博士であったな」
目当ての研究施設が見当たらないことに、
青は苛立ちと焦りを覚えていた。
「我輩は『可能性を指摘した』だけである!」
「全くですな!」
黒も深く頷いた。
「ほほう、ガセでしたか」
シラノは煤で汚れ、一層目立つ鼻をとある人物に向けた。
「結局、助けたのもどれもこれも他校生やチンピラばかりで、鏖殺寺院らしき者の陰すら見えぬのでござるが……これは如何なることでござるかな」
うんちょうもその人物――ゲルデラーのパートナー英霊の
ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)に目を向けた。
「つ、繋がらん……!」
ゲルデラーに電話をかけてみるも、急な呼び出しが入ったと切られてしまって以来、繋がらない。
「……鏖殺寺院がいないですねぇ……あの映像はなんだったんでしょう……まさか、捏造?」
「捏造? はて、鏖殺寺院なる方術の徒輩と聞いて勇んで来たのでござりまするが……これはどうしたことでござりまするかな?」
伽羅と
嵩がキラリと目を光らせる。
皆の目が自分に向けられていることに、ロドリーゴは唾を飲み込み後へと足を引いた。
「知らぬ、余は全く知らぬ! その時はまだナラカにおったのだ!」
「それで、ど・こ・に・鏖殺寺院がい・る・の・か・し・ら?(はぁと)」
アカリはにぃっこり微笑む。
「パートナーの責任は取らなければな」
仁がポンとロドリーゴの肩を叩いた。隣では、
ミラが腕組みをしながら、うんうんと重々しく頷いている。
「さて……」
仁は崩れた壁を背に立ち、ランスを構える。逃げ場を塞ぐかのように。
「そうですわ! わたしたち仲間ですから」
ミラはエンデュアをロドリーゴにかけた。これから来るであろう苦しみが長く続くように祈りながら――。
伽耶は、
アルラミナに、ギャザリングヘクスをかける。
一色とミラ、ロドリーゴを除く一同は微笑み合い、頷き合ってガッツポーズを決めた。
「ダイエットに失敗したのもゲルデラー博士のせいだったのね! ロドリーゴさん、恨むなら博士を、恨んでね♪」
伽耶がにっこり微笑んで「やっちゃえー!」と腕を振り上げる。
「やっちゃおー!」
アルラミナがエンシャントワンド手に、火術を唱える。
迫り来る鈍器と炎の中、
「エリ、エリ、レマ、サバクタニ!」
悲壮な男の声が響き渡った。
そうして1人の英霊が全ての罪を背負い、メンバーに結束と平和がもたらされたのである。
その頃、ゲルゲラー氏といえば。
飛空艇で追おうとも到底おいつけないほど遠くの草原にバイクを走らせていた。
エンジン音で聞こえはしないが、作戦失敗にパートナーを置いての逃走という彼の姿に、アマーリエはあらん限りの悪罵を投げつけていた。
荒地にさしかかり、ふとバイクを止めたゲルデラーは、
「……ロドリーゴなら自力で何とかするでしょう」
己を罵倒する美しき女性に、冷静にそう一言だけ返した。
(よほど信頼しているのか、単にわが身が可愛いだけなのか……)
再びバイクを走らせながら、アマーリエは戸惑いを覚えていた。