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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』

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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』
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第8章 影狩り
「……中々思う通りにならないものですね」
 眩い光を見つめた男は、溜め息まじりに呟いた。
「あなたは『誰』ですか?」
 風森 望(かぜもり・のぞみ)ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)は『その男』と静かに対峙した。
 花壇から離れた場所。
 一人佇む男は自然で……それがとても不自然だった。
 元々、怪しんでいたからというだけでなく。
「あなたが本当に風間先生でしたら、あそこで……生徒達の治療に当たっているでしょう」
 言って、望は保健医である風間を見据えた。
「考えてみました。人を操って悦に浸る様な相手なら、慌てふためく私達の間近でほくそ笑んでいるのではないか、と」
 風間の表情は変わらない。
「前提を変えてみました。扉があるから道が出来るのではなく、道を塞ぐ為に扉があるのだと……封印ですもの。こちらの方がすっきりしますよね?」
 少しだけ困った風に小首を傾げるものの、望の詰問を遮る様子はなく。
「ならば、雛子様を害する事は扉を壊す事になる……それは扉を開く為に夜魅を贄にするのと方法は違えど結果は同じ。2段構えの作戦ではないのか、と」
「考え過ぎですよ?」
「あなたはあの時、言いましたよね?」
『風間さん、ここはもう良いですから、シュヴェルトライテさんの様子を見てきたらどうですか?』
「風森さんの名前を間違ったから気分を害されたのですね?」
「先生が本当に風間先生だったのなら、自分の名前を口にする筈、ありませんよね?」
 沈黙が落ち。
「……成程。私とした事が随分とつまらないミスをしたものです」
 やがて、風間……否、影使いは苦笑をもらした。
「でもね、風森さん。春川雛子を殺せば扉が消えるのは本当ですよ? 今までの守護者は皆、そうして封印を守ってきましたから……今回の守護者は出来損ないで助かりましたが」
 やんわりと告げる、が、その瞳は冴え冴えと嘲笑の色を強め。
「ただ……そうですね少し、仕掛けはさせていただきましたから。確かに風森さんの言う通り、今彼女を殺せば扉は木端微塵になりますけど」
 倒れ、保健室に運ばれた雛子を治療したのは風間だった。
 正確にはそう、仕組んだ。
 今、操られている生徒達を診たのも、また。
「!?」
「おっと、動かないで下さい……春川雛子を傷つける、もう一つ有効な方法があるんですよ」
 あくまで余裕を保ったまま、影使いは足元のバッグを、隠して置いたそれを拾い上げた。
 そこから出てきたのは。
「むぐ〜むぐ〜……にゃにゃにゃ、ひどいにゃ、ヒナに置いていかれたにゃ〜……てか、大ピンチっぽいのにゃ〜」
パム様っ?!
 そう。パートナーの一方が死ねば、もう一方も無傷ではいられない。
「風森さん、あなたはとても鋭い頭の良い方です。ですが……全てはムダに終わる」
 その手に握られた、鋭利な刃物。
 それが振り下ろされる、正にその瞬間!

 バンっ!

「なっ!? どこから?!」
 一発の銃弾が、影使いの手を打ち抜いた!

「ケイ!」
「分かってる!」
 と同時に、ぽてっと落ちたパムを緋桜ケイがかっさらう。
「うむ、よくやった」
「にゃにゃ〜、助かったのにゃ〜?! 怖かったのにゃ〜!」
 受け取ったカナタはちょっとだけ迷惑顔で、抱きついてきたパムを引き離した。
「おぬしらに気付いたのは、まことに僥倖であったな」
 望達に小さく首肯し、カナタはケイの視線の先……影使いを見下ろした。
「くそっ、こんな……こんなバカな」
 右手から血を流しつつ、今までの余裕を失う影使い。
 ケイの中に怒りが込み上げてきた。
「オプシディアンも陰に隠れて動いて、人を騙して陥れるようなやつだった……あんたとやり口は似ているよ」
 宿敵である、相手。
「それでもあいつに嫌らしさを感じなかったのは、あいつは目的のためなら自らも動いて前にでてくるようなやつだったからだ……最後まで傍観者を気取って、人を嘲笑い続けるような真似はしなかったからだ!」
 似ていて、けれど、まるで似ていない。
 この憤りは多分、ケイは自身でも気づかない間に、オプシディアンに親しみを持っていたからだろう……好敵手として。
 比べればこの眼前の影使いの何と卑怯で卑劣な事か!
「あんたはやりすぎた……その落とし前、つけさせてもらうぜ」
 魔力を練るケイの瞳が深紅に染まった。
 ケイとカナタの魔法攻撃とタイミングを合わせ。
「人形遊びに気を取られて、こちらがお留守ではありませんこと?」
 一気に距離を詰めたノート、影がその攻撃を阻むがその勢いは随分と弱い。
「こちらに気を取られすぎて、繰り糸がおざなりですわよ? あちらを立てればこちらが立たず……大変そうですわね」
「くっ……!?」
 ノートの指摘通りだった。
 影使いの力は無限ではない。
 美羽や優希達が、その力を削いでくれた。
 そして何より、陣の怒りが空間さえ超え、影使いを蝕んでいた。
「それでも、このくらいは出来る……!」
 ノートの影が動く……が。
「二度も三度もそう操られて……たまりますかっ!」
 気合一閃、ノートは拘束を打ち破る。
「やらせはせぬぞ!」
 カナタとケイもまた、光術を主体にし、影を打ち消す。
 有利ながら、決定打に欠ける状況の中。
「影でこそこそしてる三流悪役が悲劇を求めるなんて片腹痛いのう。一昨日くるのじゃ!」
 駆けつけたのは、セシリアとミリィだった。
「性格的に、今姿を見せてる奴が本体か、ちと怪しい気がするのう……」
 ずっと怪しんでいたセシリアはディテクトエビルを使っていた。
 そして先ほど、敵意を探知したのだ。
 望が暴いた、影使いの敵意。
「予定外の役者は退場しろっ!」
「私だってやればできるんだから!」
 セシリアからのアイコンタクト。
 合図されたミリィは光精の指輪を使って光精を呼び出し、示された場所に向けて正確にぶつけた。
「こっちは疲れてるんだから、早く終わらせて家に帰ってお菓子食べて寝たいの! あんたはとっとと退場しなさい!」
 集めた光が影を薙ぎ払う。
「何故だ、何故扉は開かん?!」
「当然じゃ、あちらにはレイディス達がおるからのぅ」
「兄さん達が頑張っている限り、あなたの邪な野望が叶う事はありませんわ!」
 セシリアが望が、言い切る。
 皆がそれぞれ力を尽くし、戦っているのが分かった。
 だからこそ自分達も頑張れる。
「……私はおぬしのような輩は大ッ嫌いだからの。悪いが容赦はできぬぞえ」
 宣言と共に、ファイアーストームが影使いに襲いかかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 巻きあがる炎と放たれる光、そして陣の怒りが、影使いを呑みこんだ。


 そして。
「くそっ、俺とした事が……」
 影使いは傷を抑えつつ、校舎の壁に手を置いた。
 常に影に潜み、退路は確保する……それが流儀だった。
「春川雛子への仕掛けも瓦解したか」
 雛子に仕掛けた罠……痣もまた手ごたえを失った。
 それが、リネンの光条兵器の仕業とまでは気付かぬままに。
「まぁいい、手は他にもある。扉は開きかけているし、次の手は……」
「……残念だが、『次』はない」
 声が、すぐ背後から聞こえた。
 と同時に、背中に突きつけられる固い感触。
 それが銃口だと気付く前に。
 バン
 乾いた音と共に、ゼロ距離からの銃弾が心臓を突き破った。
「俺は他の奴等が幸せになれるなら、手を汚す事に躊躇いはしないさ」
 影使いが完全に沈黙したのを確認し、閃崎 静麻(せんざき・しずま)は呟いた。
 パムを助けた銃弾も、静麻だった。
 別に名乗り出る気はないが。
「あんたの敗因はあいつら……いや、俺達を侮った事だよ」
 そうして、静麻は視線を彼方へと向けた。
 自分の仕事は終わった。
 後は。
「待ってるぜ。奇跡を起こしてハッピーエンドが来るのをな」