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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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「実力は知っておきたいが、他の方法にしてくれ」
「剣の腕だけが全てと言うつもりはありませんが、俺が一番自信あるのが剣の腕なのでそれを見てもらおうかと。ルリマーレン家の別荘での報告そちらにいってますよね? アレを見て俺を雇おうとする人間は非常に少ないと思います、少なくとも俺は絶対に雇いませんね。そこでアレが全てでは無いという事を証明したいんですよ」
「キミのここでの厳しい発言を聞いていれば、気構えくらは理解できる。ただ、勿論この場で試合を行なうわけにもいかないし、試合を行なっている時間もない。私の実力を測ろうと挑んでくる者も最近多くてな。すまないが他の者の相手をしている余裕がないのに、キミとだけ競い合うことはできない」
 食い下がろうとした刀真だが、パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が手で制した。
「刀真いい過ぎ、他の人が戸惑ってる」
 戸惑いの表情を浮かべている者が多かった。
 月夜は優子に目を向ける。
「命がかかっている、心配しすぎるほど心配してもまだ足りない」
 月夜の真剣な瞳に、優子は首を縦に振った。
「分かってる。志願者の能力はきちんと別の方法で見させてもらうよ」
 こくりと月夜は頷く。
「先行部隊が出来るなら私もそっち希望する。罠感知や解除、開錠や爆薬があるなら瓦礫の発破も出来る」
「そうだな。多分、その部隊を率いるのは私だ。うち何人かは非常に危険な任務である、偵察を行なってもらうことになるだろう。偵察が失敗した場合は、即退却だ」
 優子が鈴子に目を向けると、鈴子は首を縦に振った。
「他校は学校レベルではなく、学生レベルの協力であると念頭に置いた方が纏めやすそうですね。主戦力はやはり白百合団になると思いますので、不要な怪我をしないためにも、教練は必須です。教導団員の方もいらっしゃるようですし、教練メニューなどを教示していただけると効率が上がりそうです。他校生も一緒に教練を積むことができたらいいですね」
 白いスーツ姿のエメが、優雅に茶を飲みながら柔らかく言葉を発した。
 変わらずはエメの背後に直立不動で立っている。議題が変わる度に、簡単にメモをとりながら。
「技術が必要なら蒼空学園。魔法が必要ならイルミンスール魔法学校。軍事力ならばシャンバラ教導団。そういう力が必要ならば、必要に応じてそれらに協力を求めればいいことだが……」
 教導団のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は会議室にいる百合園生達を見回し、荒事に疎そうな品のある女性達の姿に不安を覚える。
「百合園女学院には百合園女学院のらしさ、分野があるのではないか? 危険に備えて百合園の者たちを鍛えるのもいいとは思うが……それによって百合園女学院のらしさが歪んでしまってはよろしくないだろう」
 百合園はヴァイシャリー住民に愛されている学院だ。
 それは百合園の女性が、慎ましいお嬢様だからという理由が大きいと思われる。
「これを重視し、百合園女学院には百合園女学院らしくあってもらうのが一番だろうと思うのだが」
「百合園は、武術面で他校に勝ろうとは思ってはいません。ですが、百合園の生徒達の多くが、シャンバラの建国に力を尽くそうと決意し、覚悟を決めてパラミタを訪れました。武術面で役立つことを望み、日々鍛錬を行なっている者もいます。今回の件に関しましても、完全志願制で、望むものだけ訓練を受けることになると思います。また白百合団員の救護能力には自信があります。前衛に立つ百合園生は少ないと思いますが、後衛、後方支援として役立てるでしょう」
 鈴子がそう答えた。
「そうか、心配しすぎだったようだ」
 クレアはちらりとラズィーヤを見るが、彼女は微笑んでいるだけでやはり何も語ろうとはしなかった。
「あ、あの……!」
 百合園に入学したばかりということもあり、緊張しながら会議に参加していたミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が声を上げた。
「難しい話はよくわからないんだけれど、つまり離宮に直接向かうのはとても危険なんでしょ? だから百合園の生徒でも使えそうな武器や防具を教導団から借り入れることってできないかな?」
 ミネッティがクレアに目を向けた。
「きっと教導団の方が、初心者でも扱いやすい武器なんかを所有してるんじゃないかなって思ったんだけど……」
「百合園生が扱いやすい武器か……。団が貸し出せる武器といったら、アサルトカービンくらいじゃないだろうか。教導団は基本ソルジャーだからな。小型の銃器類とその扱いくらいなら、誰でも教示できるだろう」
「銃かあ……。ちょっと怖いけど、遠距離攻撃用の武器も必要だよね。白百合団では貸し出されてないし」
 入学したばかりのミネッティだけれど、百合園がとても気に入っており、学校や知り合った人々の為に、道が険しくとも頑張りたいと思っていた。
「冒険的な武器は、蒼空学園や薔薇学の方があるのかな? 魔法の罠については、イルミンスールの協力が必要だよね」
「そうですね。話を通してみたいと思います」
 ミネッティに団長の鈴子が穏やかにそう答えた。
「他校に正式に協力を求めるってことだよね? 権益とかが絡むとややこしそうだけど……平等に全ての学校に求めればいいのかな」
 教導団の琳 鳳明(りん・ほうめい)は、うーんと考えながら意見を出していく。
「でも、人員については軍隊の派遣レベルじゃなくて、協力は個人個人で行なうことになるわけだがら、住居、一般的な道具や乗り物の貸与など、他校生が動きやすい環境作りをお願いしたいと思います。できれば報酬についても、ご検討いただければと思います」
「報酬はヴァイシャリー家からお支払いいたしますわ。女性の方は百合園の寮にお泊りいただいて構いません。男性は別途手配いたしますし、場合によってはヴァイシャリー家にお泊りいただくかもしれません。必要な道具はリストアップしていただれば、極力準備させていただきます。乗り物は移動用の馬車の手配程度なら可能ですわ」
 ラズィーヤがそう答えた。
「お願いします。あと、協力者は白百合団への加入となるのでしょうか? 以前の作戦の際には仮団員といった扱いになりましたけれど」
「団とは別に新たな隊を結成したらどうかと思う」
 鳳明の問いに優子が答え、鈴子が頷いた。
「他校の方は、白百合団仮所属扱いとし、それとは別に今作戦の為の隊を結成しましょう。班編成や、隊の名前についても意見がありましたら、また後日ご提案いただければと思います」
「わかりました」
 そう答え、鈴子や皆の視線が自分から逸れた途端、鳳明は深く吐息をついた。
(な、なんか何時の間にか事がシャンバラ古王国の離宮とかって、大分話が大きくなっちゃたなぁ。最初は泥棒を捕まえるっていう、ちょっとしたお手伝い程度のつもりで関わっていた事件だったのに……。でも今更後には引けないし、何より私にとってヴァイシャリーは友達のいる大切な場所になった)
 この場にはいないけれど、事件をきっかけに大切な友達が出来た。
 鳳明は頬をパンッと叩いて気合を入れる。
(頑張れ私!!)
「ライトやロープなどは、全員が携帯できるよう多めに用意しておいた方が良さそうですね。非常食や救急道具、ライター、ガムテープ、手袋、タオルなどの準備もお願いいたします」
 エメがそう発言をし、蒼が手帳に記していく。
「わかりました。百合園の方でも準備させていただきます。……では、皆様も一旦学園にお戻りになり、ご検討下さい。危険な作戦になりそうですが、アドバイスだけでもいただければ幸いです」
 鈴子が集まった人々に頭を下げた。
「ところで」
 最後に、エメはラズィーヤにこう質問をした。
「女王候補が現れたようですが、ラズィーヤ・ヴァイシャリーさんにとって、『女王』とはどなたのことを指しているのでしょう? 申しわけありませんが、私は『女王』という名目に垂れる頭は持っておりません。『女王のため』では動けないのです。私が助力をするのは、建国がシャンバラに住まう人々の為になると、そう思うからです。できれば、我々の為す事が、シャンバラの人々にどういう影響を持つことになるのか、教えて頂きたい。……勿論私など、一介の生徒。出せる力は微々たる物ですが」
「わたくしにとって女王とは女王に相応しい人物のことです。名目でも単なる象徴でもありません。わたくし達パラミタ人は女王の為に生きているわけではありません。わたくし達の為に女王は存在すべき人です」
「つまり、ヴァイシャリーさん、そしてこの作戦は『女王の為』の作戦ではないということですね。それだけは、わかりました」
 エメが穏やかな笑みを浮かべる。
 そして、特に事件や揉め事も起こることなく、その日の会議は無事終了したのだった。