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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第2回/全3回)

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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第2回/全3回)

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●その頃、研究所では

 生徒たちが奔走している頃、『イルミンスール鳥獣研究所』にも未だ灯りが点けられていた。
「連絡してくれてありがとう。大変なことになっているみたいだね」
 研究所を訪れたイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)デューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)、それにルイ・フリード(るい・ふりーど)リア・リム(りあ・りむ)を出迎えたディル・ラートスンは、一行を応接間に案内して直ぐに話を切り出す。
「カプセルの予備はこの研究所にはないんだ。……ただ、今日の会議で予算の大幅な追加が認められてね。その後直ぐにカプセル作成に必要な材料が転送されてきたんだ。僕としては出来過ぎてる感が否定出来ないけど、とりあえずは用意出来ると思う」
「私たちに何か手伝えることはあるかな?」
「カプセル自体に使う材料は、別に珍しいものじゃない。説明をすれば、誰にでも作れるものだと思う。説明の方はエルミティに任せるとして、流れとしては、まず君たちにカプセルを作成してもらい、それに僕がキメラを収納するための細工を施す。それを君たちが仕上げてくれれば完成となる。……詳しいことは作りながら話すよ。エルミティ、彼らをお願い」
「ええ、ディル。……では、手伝ってくださる方は、私に付いてきて」
「あたしはデロデロとグリグラと、研究所を見張ってるよ! 完成したら教えてね、この子たちでテストしてみるから!」
「我も警戒に当たろう」
 カッティが狼たちを連れて、デューイがミレイユに告げて一旦その場を後にする。後の者たちはエルミティに続いて、応接間から続く廊下を歩いていく。
「あの、カプセルってどんな風に作ればいいんですか? やっぱり、高性能のものの方がいいですよね?」
 ミレイユの質問に、ディルが答える。
「運ぶ途中で壊れないように、しっかり作ってくれればいいよ。僕たちの作ったのはほんの試作段階でしかないから、これからより適した形にしていこうとは思っているけどね。……ここだ。僕は向こうで準備をして待ってるから、カプセルの方を頼む」
 扉がスライドして、灯りが点けられたそこは、様々な機器が駆動音を立てながら稼働している実験室のようであった。ディルがある機械の前に設置されたコンピューターの前に座り、電源を入れて操作を始める。
「作業は至って簡単だと思うわ。カプセルの外装はこちらで、これは中に入れるいわば錘のようなものよ」
「……錘、ですか? それを中に?」
「中に物を入れてしまったら、カプセルとして機能しないのではないですか?」
 シェイドとルイの疑問の声に、エルミティが首を振って答える。
「カプセルが機能を発揮するための作業は、カプセルの概形が出来上がってから行うわ。それは今ディルが準備しているから、皆さんはカプセルを組み立てて頂戴」
「ふーん……ま、まずはやってみようか。これ、錘の量変えるとどうなるの?」
「今の段階では、カプセルはキメラに接触させないと反応しないように作られてるの。錘を入れるのは、投げて扱えるようにするための暫定措置よ」
「つまり、あまり入れ過ぎると、重くて投げられないわけだ! ……このくらいかな」
 皆、それぞれのスキルを駆使しながら、カプセルを完成させていく。五人が一つずつカプセルを完成させたところで、エルミティがそれらを回収し、説明を兼ねるため一行を連れて、ディルのところへ向かう。
「うん、十分だ。じゃ、エルミティ、カプセルをお願い」
 ディルに頷いたエルミティが、前にそびえる装置にカプセルを設置する。
「この装置は、一体?」
「……男が持っていたデータを解析してみた結果、カプセルには文字らしき模様が刻まれていたんだ」
「文字らしき、って、文字じゃないの?」
「片っ端から調べてみたけど、該当するものはなかった。で、何の文字かは分からないけど、とりあえずっていう思いで解析して、データに載っていたカプセルとそっくり同じものを作ってみたんだ。そうしたら……」
「……あのカプセルが出来た、というわけか。一体どういう原理なんだ? 私が思うのは――」
 イレブンが、自ら思案したカプセルの原理を、ディルに説明する。
「……空間制御魔法の応用、は僕も同意見だね。この文字らしき模様を刻まれたカプセルに触れたキメラは、僕たちが認識することのできない空間に保持される。カプセルを崩せば、その位置にキメラが呼び戻される。文字を刻まれたカプセルは、キメラに対してはブラックホールでありホワイトホールでもあると言えるね。……今の段階では、カプセルを崩すのはここでしか出来ないから、ホワイトホールの出現位置はここしかないけど、キメラを操っていた男の持っていたカプセルは、任意の位置で崩すことが出来たみたいだ。それでも、使い切りであることに変わりはない。もっと解析を重ねれば、色々なことが判明するかもしれないけど……」
 そこで、ディルの言葉が止まる。
「けど? 色々わかるって、いいことなんじゃないの?」
 ミレイユの問いに、ディルが間を空けた後に口を開く。
「……ある効果、しかもかなり強力な効果を生み出す文字列なんて、現代の技術の範疇を超えている。こんなのはもう、シャンバラ古王国時代の技術であるという以外に説明の仕様がない。こういう言い方しか出来ないことが歯がゆいけど、言葉を借りるならロストテクノロジーだ。……これ自体は、ミーミルさんが居るから例えそういうのがあったとしても、不思議じゃないんだけどね」
 そう、ミーミルを始めとした者たちも、古王国時代に作られたとされている、存在そのものがロストテクノロジーなのだ。
「そして、それを解析するということは、無限の可能性があると同時に、際限のない力の増大に繋がる。考えてごらん、もしこれが人間にも適用出来るとしたら、何千何万という人間をローコストで運んでしまうことが出来るかもしれない。……もし戦争という舞台でそれが可能になれば、どうなるだろう。教導団の君なら想像に難くないと思う」
 イレブンに問いかけて、ディルが仕切り直す。
「……だから今は、この技術はキメラに対してだけ使うことにしたい。それも、キメラと共に歩む、【キメラウィステッパー】として振る舞う時だけに。もちろん、それだけに留まるような技術ではないことも分かってるつもりだから、いずれは考えなくちゃならないことなんだろうけど、今はそういうことで了解しておいてくれないだろうか。……日付が変わる頃までには、十分な数のカプセルを用意する。君たちはそれを持って、キメラの回収に向かってくれ。あまり長い時間放っておくと何が起きるか分からないから、回収したらすぐ戻ってきてくれ。その間に僕は、キメラの治療を行えるようにしておく。その施設は表向きの理由でも使用しているものだからね、直ぐ準備出来るよ」
 表向きは『鳥獣研究所』であるのに、今やすっかりキメラの研究所と化してしまったことを若干表情に忍ばせながら、ディルが一行に告げた。
「ディルさん、キメラと人とが共存する方向に持っていく、って言っていたよね。具体的に何か案があるのかな? ワタシは、農作業や運搬などでお手伝いするのがいいかな、って思うんだ」
「キメラは賢く、力もあり俊敏性も持ち合わせている。君の案もそうだし、他にも考えれば色々と出来そうなことはあると思うけど、それは今回の事件以降だね。その時には君たちにも協力をお願いするかもしれない」
「うん、分かった。……後、『今、この研究所はこんなことをしています』ってアピールするパンフレットを作って宣伝すれば、ガラーンとしちゃってるここもまた人が来るかもしれないよ」
「ははは……そうだといいね」
 微笑んでディルが人気が自分たち以外にない周囲を見渡し、そして口を開く。
「人間が、キメラに対して偏見を無くす日が来るといい。彼らだって立派な生物で、そして僕らの仲間だからね。……さて、転写が終わったよ。後はこれにコーティングをして、運搬中に文字が消えないようにしてくれれば完成だ。皆、頼んだよ」

 その後は一行の協力もあって、日付が変わる頃にはディルの言う通り、十分な数のカプセルが完成した。
「それじゃ、ちょっと試してみるね。……行くよグリグラ!」
 カッティがそのうち一つを掴み、乗ってきたグリグラに放る。カプセルはグリグラにぶつかり光を放つが、グリグラは消えずにそのまま残っていた。
「ねえねえ、もしかして不良品!?」
「いや、キメラと狼とでは、共通する部分が少ないからということになるだろうね。この文字列のどこかに、キメラであるということを認識するための、生体反応を特定する部分があるんだ。これを特定すれば、人間にだって応用が利いてしまうのかもしれない。あるいは他の種族に対しても、ね」
「使いようによっては怖いことになるな……とにかく、絶対に彼らを助けるのだ」
「頼んだよ。また何かあったら連絡をくれ、僕で出来ることなら力になろう」
 今はきっと、大平原の手前で戦っているであろうキメラのことを思いながら、一行はディルの見送りを受けて研究所を後にする――。