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リアクション
●包み込む闇の中、光り輝く炎、そして紡がれる絆
「私、待ちくたびれたですぅ。早くキャンプファイヤーを見せるですぅ!」
炎を灯すための薪が用意されたその場所で、たっぷり眠って元気いっぱいのエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が早く早くと急かす。
「もー、ずるいよエリザベートちゃん、リンネちゃんい〜っぱい頑張ったんだよー? 少しくらい休ませてよ〜」
「リンネ、一徹くらいでへこたれてるようでは、魔法使いとしてまだまだ未熟ですぅ」
「魔法使いに徹夜の能力は必要ないよ〜。健康に悪いよ〜」
溜息をついたリンネが、ミーミルから準備が完了したとの報告を受ける。
「見なさい、ミーミルはあんなに元気ですよ? リンネもミーミルを見習って張り切るですぅ」
「ミーミルちゃんを基準にしちゃダメだよ〜。……うん、ミーミルちゃんばっかりにやらせちゃ悪いよね。はぁ、行ってくるよ〜」
「リンネ、どこ行くの? あたいも行く!」
渋々と立ち上がったリンネに、カヤノが髪飾りをぴょん、と跳ねさせて付いて行く。
キャンプファイヤーは、間もなく点火される頃合だった。
「皆さん、準備はよろしいですか?」
ミーミルの問いに、サラ、セイラン、ケイオース、そして彼らに付き従う精霊たちが一同に頷く。
「では、ケイオースさん、お願いします」
「ああ。……皆、少しだけ俺に力を貸してくれ」
ケイオースの言葉に頷いて、闇黒の精霊が瞳を閉じ、ケイオースに力が宿るよう祈る。
「よし、十分だ。……闇よ、安寧な夜の時をもたらせ!」
ケイオースが拳に力を宿らせ突き上げれば、次の瞬間イルミンスールは闇に包まれる。その闇は恐怖を感じさせる闇ではなく、まるで誰かが傍で見守ってくれているような、そんな闇であった。
「次は私だな。……炎よ、高く、激しく燃え上がれ!」
サラが、従える炎熱の精霊の力を束ねて一つにし、薪に掌をかざす。直後、薪を介して炎が高々と燃え上がる。
「最後はわたくしですわね。……光よ、煌めく輝きを与えよ!」
光輝の精霊――その中にはエレン、ネーファス、メリルの姿もあった――の力を受けたセイランが、炎に光を合わせる。吹き上がった炎が光の輝きを持ちながら夜空を落下していく様は、無数の流星が舞い降りてくるかのような幻想的な光景を作り出していた。
「うわー、きれいだねー!」
「あれ? 熱いかと思ったけどそんなことないのね。ま、綺麗なのは認めてあげるわ! あたいのも負けてないけどね!」
「リンネさん、カヤノさん、お疲れさまでした」
一行の前に降り立ったリンネとカヤノを、ミーミルが出迎える。
「色々とありましたけれど、わたくしたちをもてなしてくださったこと、感謝していますわ。精霊を代表して、お礼を述べさせてください」
「セイランを助け出してくれてありがとう。俺からも礼を言わせてくれ」
「あなた方の功績は、精霊にもきっと伝わっていることだろう」
『精霊祭』の責任者として今まで奮闘してきたリンネへ、セイラン、ケイオース、サラが畏まって礼を述べる。
「そ、そんな、リンネちゃんはただ頑張っただけだよ〜。ミーミルちゃんの方が凄い頑張ったよ〜?」
「リンネさんが皆さんを引っ張ってくださったからこそ、ここまで来られたのだと思います」
困った様子のリンネがミーミルに助けを求めるも、ミーミルにまで言われてしまいすっかり困り果ててしまう。
「あはは、リンネ顔が紅いよー!」
「もー、からかわないでよカヤノちゃん!」
リンネを指して笑うカヤノを、リンネが真っ赤になって追いかける。その光景を微笑ましく見守っていたセイラン、ケイオース、サラが頷き合い、セイランが声を発する。
「カヤノ、わたくしたちの話を聞いてくれますか?」
「……何よ。ま、光の精霊サマに言われちゃ、あたいも聞いてあげなくもないけど?」
「この、セイランに対して何て無礼な態度――」
詰め寄るケイオースを制して、セイランがカヤノを見つめて口を開く。
「今はこうしてわたくしたち、互いにかけがえのない友として認め合っています。ですが、人間と精霊という枠で見ればまだまだ、一本の細い糸で繋がれているようなもの。もちろんわたくしたちとしても、人間と交流を持つことは有益と見ていますが、それにはもっと多くの人間と精霊とが結び合い、互いを分かり合うことが必要と見ています」
個々の精霊が人間を知れば、それは精霊が人間を知ることと同義である。セイランは、人間と契約を結ぶことで人間と精霊とがより強い絆を築き上げることができると言っているのだ。
「そこでカヤノ、あなたに頼みがあります。……あなたに、リンネ様と契約を結んでほしいのです」
「…………は?」
「…………え?」
セイランの言葉に、カヤノとリンネの双方が素っ頓狂な声をあげる。
「人間と精霊が契約を結ぶ、その最初になってほしいのだ。……俺たちが見たところでは、相性はいいように思えるのだが……どうだろうか」
ケイオースの言葉に、何と言っていいのか分からず黙り込むリンネとカヤノ。ややあって口を開いたのは、リンネの方だった。
「リンネちゃんは……いいよ。カヤノちゃんとなら、楽しく過ごせるなって思うよ」
「……あ、あたいも……リンネとなら、その……まあ、いいんじゃない、かな……」
「じゃあ決まりだね! カヤノちゃん、改めて、これからもよろしくね!」
笑顔を浮かべたリンネが、カヤノの手を取る。
「……うん。あたいも、リンネのために頑張るよ」
取られた手を握り返して、カヤノも笑みを浮かべる。
「……契約成立、だな。さて、このことをイルミンスールの校長にも伝えなければな。セイラン、準備は出来ているのであろう?」
「もちろんですわ。ここにある耳あてを用いれば、わたくしたち精霊と結び合うことが出来るようになります。前にあなたのリングを解析した方がいらしたそうですね? その方でしたら、この耳あてを解析して複製することも可能でしょう」
「ああ、そんなこともあったわね。人間にしちゃいい頭してるわよ」
カヤノが、元『アインスト』のリーダー、今はアインストを影から支えるカイン・ハルティスのことを口にする。
「ついでに俺たちのリングも解析させておこう。何かの時に役に立つであろう」
「みんな、ありがとう! みんながもっともっと精霊さんと仲良くできるように、リンネちゃんも頑張るね!」
エリザベートのところへ向かっていく三名を、手を繋ぎ合ったリンネとカヤノが見送る。
「おや、戻ってきたのですかぁ。お帰りなさいですぅ。ミーミルは元気にしてますよぉ」
「はい、母さん。ここでの生活のことは、ミーミルから幾度となく聞かされていました。楽しくやっているようですね」
そのエリザベートとアーデルハイトのところには、ヴィオラとネラが姿を見せていた。
「時にヴィオラよ、おぬし、これに何か見覚えはあるかの? 生徒の一人が『黄昏の瞳』のアジトの奥で見たというものなのじゃが、もしかしたらおぬしたちと何か関わりがあるかも知れぬと思っての」
言ってアーデルハイトが、『黄昏の瞳』の信者が『魔王』と呼んでいた、人型のように壁に埋め込まれた物体の映像を見せる。
「あっ!? ねーさん、これは――」
「おそらくな。……はい、私たちはこれを、こことは別の場所で、かつての記録として見たことがあります」
「そういえばあなたたちは、ミーミルと同じ人を探してたんですよねぇ。そっちはどうだったんですかぁ?」
エリザベートの問いに、ヴィオラが首を振って答える。
「……遺跡や研究所の類はいくつか見つかりましたが、どこも損傷が激しい上に、私たちと同じ気配はどこにも感じられませんでした。既に目覚めて別の場所で生きているか、あるいは……」
「ねーさん、顔が辛気くさいでぇ? まだ全部探したわけやないんから、結論出すんは早過ぎやで」
「……そうだな。済まない、ネラ」
ネラに頷いて、ヴィオラがエリザベートに告げる。
「資料がまとまり次第、皆を集めてお話をしたいと思います。それまでここにいさせてもらってもいいですか?」
「何を言うですかぁ。ここはもうあなたたちの家なんですよぉ? 好きなだけいていいんですぅ」
「……ありがとう、母さん」
「おーきにや、お母ちゃん」
ヴィオラとネラが礼を述べる。
「さあ、あなたたちも祭を楽しむですぅ!」
燃え盛るキャンプファイヤーを囲んで、人間と精霊の賑やかな声が聞こえてくる。
「ちー、キャンプファイヤー綺麗やなあ……いつつ」
「やー兄、大丈夫!? ちーちゃんが元気にしてあげる!」
キャンプファイヤーを前にして、戦闘で負った傷を気にする日下部 社(くさかべ・やしろ)へ、望月 寺美(もちづき・てらみ)の肩に乗った日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)がその小さな唇を社の頬に寄せる。
「おっ、何か元気出てきたで! ちーはホントええ子やなぁ」
「えへへっ♪ ちーちゃん、やー兄のことだーい好き!」
頭を撫でられて満足気な笑みを浮かべる千尋から、社が寺美へ視線を向けて小声で呟く。
「千尋に怪我させんと決めたんは俺やけど、だからって俺まで巻き込むこたないやろ〜」
「はぅ? 何のことだか分かりませんねぇ。まぁまぁ、精霊さんも千尋ちゃんも怪我なく無事だったからいいじゃないですかぁ」
寺美がとぼけたように、やはり小声で呟く。『闇の僕』との戦いにおいて、社と寺美で『千尋には絶対に怪我させないこと!』と確認し合ったまではよかったが、寺美が張り切り過ぎて『闇の僕』と社まで巻き込んで弾丸を見舞ってしまったり、炎に巻き込まれたりした結果が、至る所に傷を負った社なのであった。
「社ー、遊ぶぞー! あ、みんな一緒にどうかな? 今から社がこの炎の中に飛び込んで戻ってくる一発芸を披露するって!」
「ケ、ケセラ、勝手なこと言って社さんを困らせないの」
そこに、炎が近くにあるのかはしゃいだ様子の『ヴォルテールの炎熱の精霊』ケセラとパセラが現れ、社に一発芸をねだる。よほどこの前見た芸が面白かった様子である。
「おっと、そこまで言われちゃあ芸人として黙って……って流石に死んでまうわー!」
「大丈夫だよ、この炎はサラ様が作ったものだよ。全然熱くないよ」
「……ホンマかー? んじゃまぁ、そーっと……」
半信半疑のまま、社がキャンプファイヤーに掌を近づける。
「……おお、ホンマや! 熱くない! よっしゃ、これならやったるで、一発芸! 火の輪くぐりならぬ、キャンプファイヤーくぐりや!」
勢いをつけて、社がキャンプファイヤーに突っ込んでいく。
「はい、そのタイミングでちょちょいのちょい、っと」
「あっ、ケセラちゃん何を――」
熱さを訴える知り合いの声を耳にしつつ、神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)がアーデルハイトを捕まえて、この機会にイルミンスールや精霊と百合園とのパイプラインを繋げるべく、駆け引きを演じていた。
「まったく、ラズィーヤさんといい、アーデルハイトさんといい、秘密主義過ぎますわ。もう少し子供達のことも信じてみてもいいんじゃありませんの?」
「心外な、私がこやつらのことを信じてないとでも言うのかの? 現に今日のことは、私もエリザベートもほぼ一切関知しておらん。全て、この者たちの力で為したことじゃ」
それはアーデルハイトの言う通り、『精霊祭』はリンネとミーミルが主導を取り、生徒たちの働きかけがあったからこそここまで来れたのである。エリザベートやアーデルハイトが先導しても、果たして同じ結果になったかどうかは疑わしい。
「エレン姉は百合園とイルミンスールの手を取り合わせたいんだ。地球の干渉のない百合園が接着剤にならないと、六つの力はバラバラのままだからって」
アトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)の言葉に、アーデルハイトの反論が飛ぶ。
「百合園の元は日本じゃろ。そして蒼空学園もそれは同じこと。現に、先の戦いでは蒼空と百合園が組んで私らと対立しおった。他にもパラ実などと関わりがあるようじゃし、そもそもラズィーヤ、あやつはどうも解せぬ。私と似たクチなのか知らぬが、どうも気に入らぬよ」
吐き捨てるように呟いて、アーデルハイトがなおも口を開く。
「私とて、好きで秘密にしておるわけではない。そうしなければならぬ理由があってのことじゃ。それを知らずに迂闊に覗こうとすれば、然るべき処置を受けるのはおぬしとて理解していないわけではなかろう?」
「……アーデルハイトさん、あなた方は古代王国の裏側を、かつて一体何があったのか、そして今また何が引き起こされようとしているのか、その因果の流れをご存じなんじゃありません?」
果敢にも尋ねたエレンに、アーデルハイトが微笑んで答える。
「さあな。案外、古代王国なんてものはなかったのかもしれぬぞ?」
「そんなはずは――」
「ない、と言えるだけの証拠もない。……ま、精霊共は知ってはおるじゃろうが、そんな彼らとて因果の流れとやらまでは知らぬじゃろうよ。そんなものを見ることが出来るのはまさしく神だけじゃ」
言ってアーデルハイトが、視線を逸らしてキャンプファイヤーを見つめる。
(……ま、神は確かにおるがの。これからどんな選択をするか、楽しみじゃ)
「わぁ……綺麗ですね、セリシアさん」
燃え上がるキャンプファイヤーを見つめながら、ルーナ・フィリクス(るーな・ふぃりくす)が隣に立つセリシアに声をかける。
「ええ、とても」
微笑むセリシアの視線を受けて、ルーナが思ったことを口にする。
「人と精霊とが力を合わせて何かを成し遂げた……それはとてもすごいことですし、何より素敵だと私は思います」
「そうね……これからもお互いに、何かを一緒に作り上げていけたらいいわね」
その言葉にルーナも頷いて、セリシアと共にキャンプファイヤーを見つめる。
「かぁー! 一仕事した後の一杯は格別だな!」
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が杯を傾け、一気に飲み干す。おかわりを尋ねてくる者に頷いて、向かいで付き合って杯を開けたシウスに上機嫌に話しかける。
「おっと、意外とイケるクチか!? 俺と飲み比べでもすっか! 試合じゃ負けたが、これなら負ける気はしねぇぜ!」
「はは、そこまで言われてしまうと、ただ引き下がるわけにもいきませんな。あくまで楽しく、ですが本気で付き合わせてもらいます」
「おぅ! 今日はとことん飲み明かそうぜ!」
ラルクとシウスの前に杯が置かれ、それが軽快な音を立てて傾けられる。
「よろしければ、こちらをどうぞ。……まあ、気まぐれですわ」
エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が、案内をした『クリスタリアの水の精霊』ノーンに高級そうな包みのチョコを手渡す。
「ありがと、おねーちゃん! わたし、おねーちゃんに遊んでもらって、嬉しかったよ! よかったら、またわたしと遊んでね!」
「考えておきますわ。では」
背を向けて立ち去るエリシアを、ノーンが手を振っていつまでも見送っていた。
「イオテス、あなたさえよければ、私と契約してくれると嬉しいわ」
「祥子さん……嬉しいですわ。わたくしも祥子さんと、共にこの世界を見ていきたいと思っていましたの」
キャンプファイヤーの前で、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)とイオテスが身を寄せ合う。
「皆、無事で何よりです。ガルライさん、よろしければこちらをどうぞ」
道明寺 玲(どうみょうじ・れい)の差し出した緑茶を、ガルライが受け取って口にする。
「……うむ、やはりこの味だ。心を落ち着かせてくれるよ」
和やかな空気が漂う中、パートナーであるイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)の方は、戦友である精霊にきつく言えないまでも、玲と仲良くしている様子にやきもきしているようであった。
「みんな、わかってるからだいじょうぶなんです。ひとりでかかえこまなくていいんです」
自らの起こしたことに心を悩ませていたケイオースに、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が身体をそして唇を寄せる。
「……俺が感情を読まれるようでは、立つ瀬がないな。済まない……そして、ありがとう」
その優しい心に救われたケイオースが、笑顔を取り戻してヴァーナーに微笑む。
「リディア、今回の件……お前にとってどう思った?」
虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)が、隣に立つリディアに問いかける。
「……正直、不安でした。本当に人間と仲良くすることが出来るのか、って。……でも、私の思い違いだったみたいですね。だってこうして、涼さんと仲良くなれたのですから」
リディアに笑顔を向けられて、涼が顔を背け、時折視線だけをリディアに向けつつ呟く。
「また、会えるか? ……ああ、いや、何となく話し足りなくてな。もちろん無理にとは言わないが――」
言いかけた涼の口を、リディアの唇が塞ぐ。呆然とする涼へ、頬を染めたリディアの声が響く。
「また、なんてこと、言わないでください。涼さんさえよろしければ、私は傍にいますのに」
すっかり恋人同士のそれを目撃して、リン・リーファ(りん・りーふぁ)が茶化すように呟く。
「アツアツだねー。うーん、シチューがおいしー」
「プリムさん、お疲れさま。シチューの方はどうかな?」
「……うん……おいしい……」
関谷 未憂(せきや・みゆう)の作ったシチューを守っていたプリムが、そのシチューを美味しそうに飲み干していく。
「ブラス、と言ったか。雷電の精霊であるお前に聞こう、雷に好みの色はあるか?」
「やっぱ王道の金色だね! ま、青に銀に白色も捨て難いんだけどね」
アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)と意気投合した様子の『ウインドリィの雷電の精霊』ブラスを、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が気にしつつも一歩を踏み出せないでいる。
「今日しかありませんのよ。ここで行かなくていつ行くというのですか?」
「えっ、ミラベル、ちょ……きゃっ!」
ミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)に背中を押された優希が、ブラスの前に進み出る。
「おっ、お前はどうだ!? やっぱ金色だよな?」
「あ、あの、えっと……」
しどろもどろになりながら交流を図る優希を、木の影から閃崎 静麻(せんざき・しずま)が覗き見していた。
「今ここでこれ開けたらどうなるかな?」
そう言った静麻が手にしていたのは、臭さではおそらく最高峰と言われる『シュールストレミング』の瓶。
「静麻、どうしてそのようなものを……迷惑になるから止めるのです!」
レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)との争奪戦が繰り広げられる中、すやすやと寝息を立てている閃崎 魅音(せんざき・みおん)を、クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)がお守りしていた。
「無事に解決できて良かった! ……私は、大和と一緒に踊れて嬉しいよ」
「俺もですよ、歌菜。夜が明けるまで踊りましょう。今宵は、ただ見ているだけではもったいなさ過ぎます」
遠野 歌菜(とおの・かな)と譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が手をしっかりと取り合い、キャンプファイヤーを前にしてステップを踏む。
「シャンダリア、ボクとダンスを踊ってくれるかい?」
「いいですわ。二度目のエスコート、あなたに任せますわ」
そこに、エル・ウィンド(える・うぃんど)とシャンダリアのペアも加わる。そのダンスは神々しいまでに輝いて見えた。
「ただいま。全て終わったぞ」
エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が、心配して駆け寄ってきたミサカに告げる。
「お帰りなさい、エリオットさん。……あ、あの、無事で良かったです。さっきまで全然思いもしなかったのに、もし帰ってこなかったらどうしようって思っちゃって……ごめんなさい、こんなこと失礼ですよね」
緊張続きだったのが緩んだのか、ミサカの瞳が涙に濡れ、雫が頬を伝う。
「……この場に涙は似合わないな。ミサカがよければ、踊っていただけないか」
エリオットが手を伸ばし、ミサカの涙を掬う。その手を開いて、ミサカの前に差し出す。
「……はい!」
笑顔を取り戻して、ミサカがエリオットの手を取る。
(……後でメリエルにどんな目に合わされるか……まあ、いいだろう……)
背後で不穏な空気を纏うメリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)に、エリオットが苦笑を浮かべる。
「ボクはアーデルハイト様に許可をもらったの! エリザベートちゃんはボクのだもん!」
「私だって、精霊祭を成功させるために頑張ったです。エリザベートちゃんからご褒美をもらってもいいと思います」
峰谷 恵(みねたに・けい)と神代 明日香(かみしろ・あすか)が、エリザベートを巡って激しいバトル――主にエリザベートの取り合い――を演じていた。
「ああああなたたち、私の意思は無視ですかぁ? あ、こら、そんなに引っ張るなです、服が、服が脱げるですぅー!」
今この瞬間だけは、エリザベートが助けを求めても誰も、楽しそうだしいいんじゃね? ということで助けようとしなかった。
「ミ、ミーミル……これは少し、いや、かなり恥ずかしいぞ……」
「そうですか? 似合ってますよ、姉さま」
「そやそや、ねーさん美人なんやから、少しはオシャレした方がええでー。それにこないな服、今以外にいつ着るって話やで」
アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が『聖少女』のためにと紹介した服屋で仕立てたパーティ用ドレスを、ミーミル、そしてヴィオラとネラも纏う。
「お父さん、ありがとうございます」
「娘たちが喜んでくれるなら、何よりだよ。大切にしておくれ」
アルツールが、普段の厳しい顔を緩くして『娘』たちに頷く。
「ミーミル、話って何……って、ネ、ネラ!?」
「あ、あんた……」
そこに、ミーミルに呼び出されて来た森崎 駿真(もりさき・しゅんま)と茅野 菫(ちの・すみれ)が、ネラとヴィオラの姿を見て驚く。
「しばらくここに厄介になるでー! ……そうや、なんて呼べばええんやろ。確か駿真って名前やったな。……いっそのことうちの名付け親やし、お父ちゃん、とでも呼ぼか?」
ネラの提案に、駿真は何と言っていいか分からず苦笑する。そしてそのままキャンプファイヤーで踊り明かす集団の輪に加わっていく。
「呼び出してしまって済まない。なに……私と同じ名前を持つあなたと、話をしてみたかったんだ。……付き合ってくれるか?」
そしてヴィオラと菫が、キャンプファイヤーの燃え盛る炎を眺めながら、少しずつ口を開いていく。
「……リンネ、聞いていい?」
「ん? どうしたの、カヤノちゃん?」
キャンプファイヤーを並んで眺めていたカヤノが、リンネに向き直って口を開く。
「本当に、あたいでよかったの? あたい、リンネにヒドイことしたよ。それでも――」
「カヤノちゃんだから、だよ」
その一言でカヤノを黙らせて、そしてリンネが呟く。
「セイランさんも言ってた、人間と精霊はこれからだ、って。そのためにリンネちゃんとカヤノちゃんが、お手本みたいなことに選ばれたっていうこともあるかもしれない。だけどね……リンネちゃんはカヤノちゃんのことが好きだから契約したんだよ」
「あ、ああああああのねえ!? そんなこと堂々と言うことじゃないでしょー!」
「言うことははっきりと言わないと伝わらないんだよ?」
「うぅ……」
しばらく黙り込んでいたカヤノが、意を決したようにリンネに向き直る。
「……あたいも、リンネのこと、……好き、だもん」
「うん! カヤノちゃん、これからもよろしくね!」
リンネが手を取って、キャンプファイヤーの輪の中へ誘う。
「ちょ、ちょっとリンネ、そんなに引っ張んないでよ!」
カヤノが文句を言いつつも、触れた手の温かさに頬を緩めて、そしてリンネに付いて行くように駆け出す。
「人間と精霊との絆は、まだ一本の細い糸が結ばれたばかりだ。そう簡単に事が運ぶとも思えない。
……だが、私たちはあなた方と、できればこれからも手を取り合い、この世界で共に過ごしたいと願う」
精霊たちが去り際に残した言葉。
それは、精霊が人間に心を開いた証でもあった。
今回結んだ絆を絶やさぬよう、そして共に歩めるよう、今は前に進むばかりである。
世界樹に見守られて、想いが集まる学校イルミンスールは、今日も賑やかである――。
『イルミンスールの冒険Part2〜精霊編〜』 完
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