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リアクション
調査開始
2020ろくりんスタジアムから程近い場所に、ろくりんピックのメディアセンターがある。
そのスタッフ用エリアに、問題の動画を解析する為の作業部屋が設けられていた。
映像機器やコンピュータが設置された室内では、シャンバラろくりんピック委員会から捜査を任されたスタッフが、それぞれ熱心に作業にあたっている。
「彼女にクローズアップできますか?」
モニタの一点を指して杵島 一哉(きしま・かずや)が言う。
映し出されているのは、もちろん怪人プロメテウスと少女の動画だ。
防犯カメラの映像らしく、一本の道が映されている。画面の奥から道を歩いてきた少女の行く手をふさぐように、画面前方にプロメテウスと名乗った怪しい人物がいる。
菅野 葉月(すがの・はづき)が軽やかにキーボードを叩くと、画面は少女にズームアップした。しかし画像は粗く、少女らしい外見には見えても、人相まではよく分からない。
「現在、他のスタッフが解析に総力をあげています。しかし、画面をより見やすくするには、さまざまな方法を試す必要があるとの事です」
「結果が出るには、まだしばらくかかりそうですね」
葉月の言葉に、一哉はわずかに落胆する。
もっとも最初から、すぐに解析できる物とも思ってはいない。予想の範囲内だ。
葉月はペンの先で、画面の一点を指して見つめる。少女のペンダントだ。
動画を実際に見るまでは、怪人が指したものがペンダントだと分かるなど怪しいと思っていた。しかしペンダントトップは少女の握り拳より一回り小さい程度の大きさだ。
静止画では分かりづらいが、少女の動きに従って胸元でゆらゆら揺れる様から見て、ペンダントの類ではないかと多くの者が感じる物だった。
一哉も画面をのぞきこむ。
「噂の彼女に直接、怪人やペンダントのことを聞ければいいんですけど」
するとアリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)がメモを取りながら、パートナーに助言する。
「その為には、彼女がどこの誰かをつきとめねばなりません。画像解析で人相がハッキリすれば、見覚えのある人がいないか探す事もできるでしょう」
「今、それを待ってるんですけどね」
一哉は苦笑して、作業手順をきちきちとメモに記しているアリヤを見る。当のアリヤはそれに気付かず、情報をまとめるのに集中していた。
葉月が動画を指して、注意を促す。
「この動画は、どう見ても作為的にその録画内容を偏向して公開されている気がします。製作者が何らかの意図の下、誘導しようとしている事もありえますから、そのまま受け取らない方がいいと思います」
アリヤはメモに「動画作成者が作為的に編集の可能性?」と書き加える。
その様子を見ていた葉月が、急に室内を見渡した。
「……ミーナはどこに行きました?」
先程まで「デート、デート!」と騒いでいたミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)の姿がない。一哉がドアを指して答える。
「魔女さんなら、さっき飲物を買いに出ていきましたよ。
そういえば、もうずいぶん前ですね」
その頃、ミーナはスタジアムに程近いろくりんピック記念公園で、買い食いに夢中だった。
公園では大会期間中、さまざまなイベントやパフォーマンスが行なわれ、世界各国の食べ物を集めたフードコートも出ている。
その両手にはヤキソバ、ケバブにリンゴ飴……
「おじさん、たこやきひとつ!」
また増えた。
そんなお祭りムードの中、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)は周囲の楽しげな様子には目をくれることもなく、記念公園の中心とも言えるモニュメントに近づいた。
「はい、ごめんよ。ちょっと調べさせてもらうんで、写真撮影は後にしてね」
観光客に断って、玲奈はモニュメントの台座によじのぼる。
止める者はいない。当然だ。玲奈の腕には、シャンバラろくりんピック委員会のスタッフ腕章が巻かれている。
モニュメントを調べるにあたって、彼女はスタッフとしてきちんと許可を取ってきている。
(聖火を消すなんて……このモニュメントに何か細工がされている心配もあるもんね!)
シャンバラをリレーで一周してきた聖火は、会場の聖火台に灯されている聖火と合わされ、最後はこの、ろくりんピック記念公園のモニュメントに灯される予定なのだ。
モニュメントのデザインはシャンバラ人の芸術家がしている。
また聖火を灯す「永久灯火台」は、玲奈が通うイルミンスール魔法学校の教師が作成を手がけていた。
(先生たちの作品が、聖火を灯すなりドッカーン! なんて事になったら大変だよ)
玲奈は丹念に時間をかけて、モニュメントに細工がされていないかを確認した。さらに想定外の魔法がかけられていないかも調べあげる。
調べた結果、モニュメントには何も細工などされていない事が分かった。
(うーん、ここには特に何もなしかぁ)
とはいえ調査の基本は、怪しい場所を徹底的に探して、問題の無い所をひとつひとつ潰していく事にある。
玲奈がモニュメントを離れると、観光客がふたたび記念撮影を始めた。彼女ははしゃぐ人々の間をすり抜け、問題無しという報告をしに委員会の事務所へと向かった。
同じ頃、玲奈と同じように葉月 エリィ(はづき・えりぃ)も、スタッフとして仕事に励んでいた。
「おい! あんたら、何やってんだ?!」
エリィが怒声を飛ばすと、ビルの外壁にのぼろうとしていた若者数人が動きを止める。
「ここからなら聖火リレーが見えるかと思って」
「はぁ?」
「だってチケットが取れなかったんだもん!」
エリィは(おいおい……)と思う。
「だからってビルに勝手に登るのは危険行為だし、建造物侵入で逮捕されるぞ? 当日券もあるって言うから、そっちを探しな」
注意を受けて、お騒がせな観光客はチケットセンターの方へ去っていった。
「今の空京は不審者だらけか……」
エリィは思わずボヤく。
彼女は、怪人プロメテウスの仲間が空京で活動していないかと、不審者を探してパトロールする事にしたのだ。
人口百万都市、広い空京のどこを探すかと言えば、当然、問題となっている聖火リレーのコース沿いになる。
その結果、エリィはこれまでに多くのダフ屋や不法な場所取りを取り締まってきていた。
肝心の怪人に関係していそうな者には、まだ会っていない。もっとも観光客のフリをされたら、それも分からないのだが。
(エレナの方はどうかな?)
エリィは横目で、ちらりとパートナーのエレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)の方を見る。
彼女とはたがいに目視できる範囲内で離れて行動しているのだ。
若い警官の耳元を、美女のささやきが甘たるく、くすぐる。
「ふふふ、警察のお兄さん、ちょっと手伝っていただけないかしら」
「ほほほ本官は職務中でありますからッ……」
「あらん……わたくし、困ってますのよ。もう心細くて……」
エレナは身をよじりながら、一応は不安そうに警官に抱きついていく。彼女の胸の柔らかい弾力に、思わず警官がツバを飲む。
美しい女吸血鬼の誘惑に、地球から警備の応援にかけつけた警官は、すっかり翻弄されていた。
「いや、ええ、その……市民の安全を守るのも努めですから。……どこに怪しい奴が?」
「まあ、一緒に来てくださるのね。嬉しいですわ。ふふっ」
エレナは警官を手玉にとって、パトロールの手伝いをさせるつもりだ。
エリィは脳裏に、エレナの「ふふふ、ごちそうさま♪」という声を聞いたような気がした。
「…………。さーて、怪しい奴を取り締まるかっ」
エレナはとりあえずパートナーの事は置いておいて、パトロールに戻る事にした。
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