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精霊と人間の歩む道~イナテミスの精霊祭~

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精霊と人間の歩む道~イナテミスの精霊祭~
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リアクション

 
「あ〜お腹空いたわ……ま、みんなの所に行けば何かあるわよね!」
 五精霊の中で唯一、別行動をしていたカヤノが街中を歩いていく――イナテミス中央部では、極力人間と同じ生活様式をするよう精霊たちも気を使っているのだ――と、ある男性に声をかけられる。
「失礼ですが、貴女は人間ですか? 精霊ですか?」
「はぁ!? 本当に失礼ね! まぁいいわ、この際だから覚えておきなさい! あたいは氷結の精霊長、カヤノ・アシュリング……ってあら?」
 名乗りをあげたカヤノが、地面にのびている男性とその脇に立つローブ姿の少女を目の当たりにしてきょとん、とする。
「すまぬ、此奴が失礼な事を申した。我が謝罪するに、許してはくれぬだろうか?」
 自らをシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)と名乗り、地面に伏せる男性をラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)と紹介して、詳しい事情を説明する。
「なんだか大変ね〜。ま、あたいも忘れっぽいからバカにできないけど!」
 精霊は精霊同士で経験や記憶を共有している――ただ、人間と共存するようになってからは、あまりその特異性は前面に出さないようにしており、本当に必要になった時だけ用いるようにしている――。頭が残念な出来のカヤノが時たまいいことを言ったりするのは、ひとえにこの仕組みの恩恵を受けているからである。
「うっさいわね一言多いわよ!! ……そういうわけだから、精霊について何か知りたいこととかあったら、そこら辺の精霊つかまえて聞いてみれば、だいたい答えてくれると思うわよ。ま、本人のことが知りたかったから本人に聞くのが一番だけど」
「なるほど、ご教授感謝する」
 『手記』がカヤノに礼を言い、そしてカヤノは皆の下へ向かうべくその場を後にする。
(……さて、問題は此奴が目覚めた後だが……)
 おそらく、先程のことを覚えていないラムズは、再び精霊に対して失礼なことを尋ねるのだろう。その度に殴り倒す必要があるのかと思うと、『手記』はやれやれとため息をつくのであった。

「ヒャッハー! お祭りとくれば射的!
 つうわけで、場も盛り上がってきたところで、誰か俺と射的勝負しようぜ!」
 五精霊と生徒たちの交流の場が賑やかになってきたところで、リンゴ飴を頬張っていた月谷 要(つきたに・かなめ)が突如、五精霊に射的勝負を持ちかける。
「ふーん、これを使ってあっちの物を落とせばいいのね? ま、ここにいる誰が相手してもいいけど?」
 屋台の前で、カヤノがコルク銃を手にして頷けば、サラとセリシア、セイランとケイオースも同様に頷く。
「んじゃ、対戦相手はこのサイコロで決めるぜー! ちなみに負けたほうは買ったほうに隣の屋台の焼きソバ奢りで!」
「もう、勝手に決めて……要、奢るだけのお金持ってるのかしら?」
 霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)が、それまでに要が色々と買い込んでいるのを思い出して不安になる中、サイコロが宙を舞い、出た目は『4』。
「4……セイランね。あ〜……あれね、もう勝負は見えてるわね」
「いやいや、万が一ということもあるかもしれんぞ?」
「そうだな、100回やれば1回は勝てるかもしれんな」
「ふふ、お二方とも頑張ってくださいね」
 相手が決まった直後、セリシア以外の精霊たちは口々に、セイラン有利であると告げる。
「な、何か強敵を引いちまったようだな……! だが、強敵であるからこそ燃える! セイラン・サイフィード、勝負だ!」
「ええ、どうぞお手柔らかに」

 そして、勝負の結果。
 要:1/6
 セイラン:5/6

「うおぉぉぉ……」
 自信ありげに挑んだ結果大敗を喫し、要ががっくりとうなだれる。
「くっ……だが、勝負は勝負。今回は奢ろう……!
 よし、次の勝負、行くぞ!」
 ……結局、要はカヤノを除く4名の精霊と、射的勝負を繰り広げたのであった。

「……で、何であたいはあんたに頭を撫でられてるわけ?」
「私がそうしてあげたくなったからよ」
 母性本能を発揮したらしい悠美香に撫で回されて、カヤノが不服ながらも付き合う。その間に、要と精霊との勝負結果が明らかになっていく。
 
 要:3/6
 ケイオース:4/6
 
 要:2/6
 セリシア:3/6
 
 要:4/6
 サラ:2/6
 
「ま、互角な感じじゃない? 1勝3敗だけど」
「……うわーん!!」
 カヤノの言葉に胸をグサリ、と撃たれた要が、涙を流しながら飛び出し、悠美香に慰められていた。

 ちなみに、直後にカヤノがやってみた結果は。
 
 カヤノ:0/6

「な、何よ! こ、こんなの別に当たらなくたって悔しくなんかないわよ!」
 強がるカヤノだったが、結局悠美香に慰められていたのであった。

「先程の射的、お見事でした。
 これは俺のほんの気持ちです、どうぞ」
「あら、ありがとう。
 確かサラも、この食べ物を気に入っていたわね」
 射的から戻ってきたセイランへ、佐野 誠一(さの・せいいち)がクレープを手渡して向かいの席に座る。
「精霊と聞いてどのようなものかと思っていましたが……見た目は人間と変わらないのですね」
「『人間が認識する精霊』はそう見えますわね。せいぜい羽が見えるかどうかでしょう。人間の目が届かないところではわたくしたち、あなた方が想像もつかないような姿をしているのでしょうね」
「へえ、それは興味あるな。ぜひ見てみたい」
「ふふ、止めておいた方がいいですわよ」
 そこから、普段どんな生活をしているのか――これも、人間が認識する部分では、人間と大差ない生活をしているらしい――、異種族間の交流について――これまで存在が明らかになった種族のことは、基本的な部分なら知り得ている――などの話に向かっていく。それらを一通り話し終え、誠一が次の質問を繰り出す。
「精霊指定都市ってことは、この街は普段の縄張りと違って全ての精霊が集まる場所になるのかな?」
「ええ、そうですわ。先程皆様がお集まりになられた時に話しましたけど、わたくしたちはエリュシオンの精霊との対立を考慮して『精霊指定都市』成立を決断しました。各地に縄張りとして散らばっていては、各個撃破されてしまう可能性があるからです」
 そこまで言って、セイランが眉をひそめる。
「縄張りについては、可能な限りどうにかしたいですけれど……目が届かなくなってしまうこともあるでしょう。そこを狙われる可能性も否定出来ません。ですが、それらも含めてわたくしたち精霊の決めたこと、今はこの街に住まう人と精霊をお守りし、平和な生活を送れるように、力を尽くしますわ」
「そっか……済まない、暗い顔をさせてしまったようだ。そうだな……もし平和な生活ってのが来て、余裕が出来たら一度、海京に来てみないか? ザンスカール以外の場所には行ったことが?」
「いえ、ありませんわ。……そうですわね、その時が訪れれば、ぜひ」
 誠一の言葉に、セイランが微笑んで頷くのであった。

「一通りいんたびゅぅぅぅ! し終えたかなー!?
 それじゃあ最後の締めにー……」
「しめに〜?」
 キュピーン、とアルコリアの目が光り、カヤノを標的に捉える。
「カヤノちゃん!
 揉ませてちょうだいっ!
「ちょ、ちょっと来ないでよ! 今なんかとっても寒気がしたわよ!」
 猛然と迫るアルコリアから、カヤノが必死に逃げる。氷結の精霊であるカヤノに寒気を覚えさせるアルコリア、恐ろしい子である。
「氷の精霊だから、肌とかカチコチかもしれないじゃない!」
「んなわけないでしょ!? これでもちゃんと手入れしてるんだからね!」
 言ってカヤノが、自分のを指でぷに、と突付く。……ちなみに、この後つい自分の感触を確かめてしまったサラ、セリシア、セイランの様子は、眞綾の回したカメラにバッチリ収められてしまっていた。眞綾、抜け目ない子である。
「カチコチだと様々な方面の人が困るから……だから、敢えて聞きます!」
 ビシッ、とカヤノを指差して、アルコリアが毅然と告げる。

「……パンツ何色?」
「無色透明に決まってるじゃない!!」


 それまでの脈絡を完全無視した問いかけに、うっかり答えながらカヤノが氷柱を両手に生み出しツッコミを入れる。たとえツッコミとはいえ強力な攻撃を、しかしアルコリアは2本の剣と氷結耐性で凌ぎ切る。
「まぁやちゃん、撮ってないで揉めっ! ぷにっ娘×ぷにっ娘とかワンダーヘブンに違いないからっ!」
「ほえ? よくわからないけど〜……ぷにぷに」
「……どう?」
「おぉ〜、ぷにぷにだぁ〜。ほれほれ、よいではないかよいではないか〜」
「ほら見なさい、あたいの言ったとおりじゃない」
 カヤノが当然でしょと言わんばかりに言葉を発する。ちなみにこの部分は、眞綾がカメラを回していないので視覚情報は一切描写されないことをご了承願いたい。
「だいふくさんだ〜、やわらかいなぁ……
 ひかえめながら、いやそのつつましさがなかにつつまれたあまいあんをれんそうさせるかやのんの……
 
 ほっぺ」
 
「ほっぺかよっ!!」

 そんなツッコミが入ったとか。