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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

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 お里帰りも一緒にね 
 
 
 上野で新幹線を降りると、みんなそれぞれの目的地に向けてばらばらになってゆく。
「地球帰ってきたの久しぶりー。お母さんお父さん元気かなぁ」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)も実家に帰る為、空港に行こうと歩き出す。その服を七瀬 巡(ななせ・めぐる)が引っ張った。
「巡ちゃん、どうかした?」
「あそこにいるのって……」
 巡が指した場所には、桐生 円(きりゅう・まどか)が所在無げに立っていた。
「あ、円ちゃんだ。家に帰らないのかな……?」
 色々大変みたいだし、と歩は少し考えた後、円に近づいた。
「ねー、円ちゃん」
「あれ、歩ちゃん?」
「北海道って来たことある? あたしの実家あるんだけど、この時期は気持ちいいよー。良かったらうちに来てみない?」
 円はこれ幸いと歩の提案に乗ることにした。たまには帰ろうと思い立って地球まで来たものの、家に帰った姿を想像したらめまいがした。居辛いだろうと思う場所に帰るのは気が進まなくて、これからどうしようかと思っていたのだ。
「そうだね。じゃあこれから歩ちゃんちの家庭訪問だ!」
「うん。あ、ちょっと待ってね。お母さんに電話しておくから」
 円は友達を連れて行くことを母に連絡すると、円と共に実家に向かった。
 
 飛行機で北海道に飛ぶと、そこからは歩の案内で実家に向かう。
 しばらくぶりに歩く道は、以前のままの店もあり、変わってしまった店もある。歩はそれを円に説明しながら歩いていった。
「あー、あの駄菓子屋さん、まだあったんだー。お店の人、結構おばあちゃんだったから、元気でお店やっててくれるなら嬉しいなー」
「歩ちゃんも駄菓子を買ったりしたの?」
「時々ね。ここにあった喫茶店はなくなっちゃったんだー。いつも店先に花がいっぱい置いてあって、きれいだったのになー。あ、それから、このスーパーはね、この時間はタイムセールをやってるからお客さんが多いんだよっ」
 歩がそんな説明をしている処に、スーパーから仲の良さそうな夫婦が両手に買い物袋を持って出てきた。
「あ、あれ? お父さんとお母さん! ちょ、ちょっ恥ずかしい処見せないでよー」
 歩はわたわたと手を振った。
「あら、だって歩がお友達を連れてくるっていうから。ねぇお父さん」
「ああ。お母さんが歓迎の準備をするって張り切ってるもんだから、一緒に買い出しに来たんだ」
 歩の母と父は、おっとりのんびりと答えた。
 やはり雰囲気が歩と通じるところがあるなと思いながら、円は歩の両親に頭を下げる。
「こんにちは。歩さんの学友、桐生円と申します。実家に帰ろうと思っていましたけれど、両親に急な仕事が入ってしまいまして。どうしようと戸惑っていたところに、歩さんが手を差し伸べてくれたんです。今回はご迷惑かと思いますが、よろしくお願いいたしますわ」
 猫の団体をかぶって、円は挨拶をする。
「これはご丁寧に。礼儀正しいお友達だねぇ。さすがに百合園女学院生だけあるな」
 歩の父は、今こそ事業に失敗して細々と暮らしているけれど、以前は地球の百合園女学院の建設に尽力したこともある資産家だった。パラミタに作られた百合園女学院に通う生徒がきちんとしているのはやはり嬉しいのだろう。円の礼儀正しさに目を細めている。
「迷惑なんてとんでもない。自分の家だと思って気がねなく過ごしてちょうだいね」
 歩の母も円に温かく笑いかけた。
 
 その母の言葉があったから、というわけでもないのだけれど。
 家に帰るまでの間に猫かぶりにも飽きてしまった円は、軽い私服に着替えると畳の上にごろごろと転がった。
「にゃー!」
「円ちゃんってばー」
 見事なくつろぎっぷりに歩は思わず笑ってしまった。あんまりくつろげる家じゃないかも知れないと心配していたのだけれど、そんな懸念は必要なかったようだ。
 ゆっくりしていてねと声をかけると、歩は母親と一緒にキッチンに立った。
「歩もゆっくりしてていいのよ」
「ううん。手伝いたいんだー。どれだけ料理が上達したか見せてあげる!」
「まあ頼もしいわねー。じゃあお願いね」
 実際、パラミタではあまり料理を習ったりはしていないのだけれど、それでも前一緒に料理した時よりは上達してる、はず。歩ははりきって母親と並んで夕食を調理していった。
 中学を出たら進学せずに働こうとも考えていたけれど、好奇心に負けて歩はパラミタにある百合園女学院に入学した。父親のコネで、百合園に関わる費用はほとんど免除してもらっているし、家に仕送りもしているから、経済的には楽になっているのではないかと思うけれど……それでもどことなく負い目を感じている。たまに帰ってきた時ぐらいは手伝わなければと思うのも、それが心のどこかにあるからかも知れない。

「ごはんだよー」
 食事の準備ができると、歩は円と巡、父親を呼んだ。
 みんなでいただきますと手を合わせ、テレビで野球を見ながら料理をつつく。
「おかーさんこれおいしい」
「そう? 良かったわ。歩より小さいんだから沢山食べなきゃダメよー」
「たくさん食べても大きくならないんですよ。おかしなことに栄養足りてないのかな?」
「バランスの問題かも知れないわね。好き嫌いはあるのかしら?」
「ピーマン! あと、辛いものも苦手かなー」
「あ、味付けどうかな? 辛いものはないけど、濃さとか大丈夫?」
 家によって味付けは違うから、と歩は聞いてみた。
「大丈夫。どれもおいしいよ。あ、おとーさんお醤油とってー」
 ぱくぱくと食べている円の様子に、これなら心配なさそうだと歩は安心した。
 まるで自分の家であるかのようにふるまって、円は歩の父親の見ている野球にも口を出す。
「ここは塁を埋めるべきだよねー」
「それがセオリーだがこの監督はどうかなぁ。たまに何でと思うような采配をするから……ああっ!」
「あちゃー。やっちゃったね、これは」
 円と野球談話を楽しみながら、父親はほっとしたように言った。
「うちがこんなだから、歩が学校で浮いてないか心配してたけど、君みたいな友人がいるなら安心だな」
「浮いてるなんてことないですよ。歩ちゃんはですね、いつも笑顔で友達からも好かれる素敵な子ですよ。ちょっぴりドジなところもあるけど、いつも立派なメイドになるように頑張っているガンバリ屋さんだと思います」
 円の言葉にそうかそうかと歩の父親は嬉しそうに肯いて、ありがとうと礼を言った。
 
 夕食後も皆でお喋りを楽しんだ後、歩は円を自分の部屋に案内した。
「円ちゃん、まだ寝ないのー?」
 巡と先に布団に入って、歩は机に向かっている円に呼びかける。
「これ書いたら寝るからー」
 ちょっと待って、と円は歩の机の上でこんな手紙を書いた。
 
 お父様、お母様、ボクは元気です
  いろいろ友達も出来ました
  来年は胸を張って帰れるかもしれません
    健康には注意してください
              ――桐生 円


 来年は帰れるだろうか。あの家へ。
 布団の中で差し伸べられた歩の手を握りながら、円は目を閉じるのだった。