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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ!
地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

リアクション

 
 
 懐かしき妻の味 
 
 
 パラミタで暮らしていると、地球にはなかなか帰ってくる機会がない。
 それも老体となれば、身体も思うようにならないもの。
 けれど、それでも欠かせないことがある。
「今年も来てしまったのぅ……」
 グラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)はそんなことを呟きながら、墓地を歩く。その邪魔をしないよう、伽耶院 大山(がやいん・たいざん)はひっそりと後ろからついて行った。

 やがてグランは1つの墓の前で足を止めた。
 墓石に刻まれた名前は、サラ・アインシュベルト。享年49歳。
 グランの最愛の妻が、ここに眠っているのだ。
「しばらくぶりじゃのぅ」
 物言わぬ墓石に語りかけると、グランは持参してきた花を供えた。

 サラはしとやかな女性だった。
 いかにも良妻賢母といった様子に見えたけれど、その実うっかり屋で。そんなところもグランには好ましかった。
 ただ、料理の腕はからっきし。
「うぐ……。どうしてカレーが甘いのかのぅ」
「あら? 何か間違えたかしらねぇ……」
 何をどう間違えればカレーが甘くなるのかと、小一時間問い詰めたいところだけど、おっとりと笑うサラを見ているとそれもできなくなってしまう。
 サラ自身、首を傾げながらも美味しそうに甘いカレーを口に運んでいるものだから、グランもしぶしぶそれを食べた。
 味が不可思議になるのはカレーに限ったことではない。煮物を口にしたら舌がしびれ、しばらく喋れなくなったこともあった。ふっくら焼きあがったケーキは、口に入れると苦くて苦くて。
 そんなものばかり食べさせられているうちに、グランはかなりなものなら平気で食べられるように鍛えられていった。……けれどそれは諸刃の剣。とてつもない料理でも食べられてしまうため、自分が壊滅的な料理を作っていてもまったく気づかないという……言うなれば妻のサラとお揃いの舌になってしまったのだった。
 
「お前の料理が恋しいのぅ」
 本気でそんなことを呟いているグランの背に、不意に女性の声がかけられた。
「グラン、あなたも来ていたのね」
「お義母さん、久しぶりじゃのぅ」
「ええ本当に。元気そうで何よりだわ」
 割烹着を着た女性は、サラの母サラ・ロンドバーグ。妻と義母が同じ名前だということに、結婚した当時は戸惑ったものだった。それも長年のうちに、慣れてしまったのだけれど。
「あなたはサラの料理が好きだったものね。いつもたくさん食べていたのを覚えてるわ」
「そうそう、食べ過ぎて病院に運ばれたこともあったのぅ。あのときは、本当に死ぬかと思ったわい」
 そんな出来事も、今になっては懐かしい。
 しばし昔話に花を咲かせた後、グランはサラと共に墓を後にした。
「うちに寄っていってちょうだい。煮物をたくさん作りすぎちゃったの。お土産に持っていってくれると助かるわ」
「おおそれはそれは。嬉しい土産じゃのぅ」
 グランは本心からそう言うのだが、この母にしてこの子あり。
 グランの味覚を育てたのが妻のサラであるように、妻のサラの味覚育てたのはこの義母なのだから……煮物の味は推して知るべし。
「……留守番の2人に良い土産ができたな」
 大山もそう言いはしたが、心の中で誓うのだった。
 ――土産の煮物の出所は、留守番の2人には話すまい、と。