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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ!
地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

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 メイドなお里帰り 
 
 
 ガタコン、ガタコン……。
 妙にのどかな音を立てて走る二両編成の電車を見送ると、高務 野々(たかつかさ・のの)はホームを歩き出した。ところどころ薄くなっているホームの白線、足下からのコンクリートの照り返しも、いかにも故郷に帰ってきたのだと思わせる。
 駅を出てもめぼしいものは何もない、そんな田舎。
 途中の駅で到着時間を連絡しておいたから、そろそろ姉の高務 泉美が迎えに来てくれるはずだ。交通機関が発達していないから、この辺りでは車は必須。そして、駅から家への交通手段は家族の迎えが定番なのだ。
 待つほどもなく、見覚えのある車がやってくる。
 迎えに来てくれた姉への感謝の笑みを準備しつつ、待っていると……。
「え? ちょ、姉ぇー!」
 ごく自然に前を通り過ぎてゆく車を、野々は大急ぎで呼び止めた。
 すぐに車は止まり、中から金髪をポニーテールにした姉が降りてくる。
「もう姉ぇってば、何ぼさっとしとんの」
 文句を言いつつ近寄れば、姉は野々の頭の先から足の先まで眺めて一言。
「……なんでメイドやの?」
 言われて野々ははたと気づいた。パラミタではこの格好でいるのが自然だったから、ついそのままで着てしまったけれど、地球で、それもこの田舎でメイド服は目立つ。そういえば、電車に乗り合わせた人もちらちらとこちらを見ていたと、今更ながらに思い出した。
「これがあっちの普段着なんよ、姉ぇ」
 軽く説明すると、野々はまだきちんと挨拶をしていなかったことに思いあたり、泉美に笑顔を向けた。
「ただいま。やっとかめ」
 だがそれに対する姉の返事は、ぶはっ、という噴出す音。
「ちょ、何噴出しとるの」
「待って、ちょお待って。やって(だって)、メイドがやっとかめとか、くそおもろいし! も、あかん! あっははははは!」
 我慢できずに爆笑する姉に、ひどいなぁ、と野々は苦笑した。この豪快さこそが、姉らしいのだけれども。

「ただいまー、野々、ってかメイドのお帰りやよ」
 泉美の呼びかけに出てきた家族にまで揃って大爆笑され、野々はならばとエプロンの紐を縛り直した。
 ハウスキーパーで家はぴかぴか。ランドリーで衣類は新品同様にしゃきっと。
 伊達に彷徨いのメイドはやっていない。パラミタで培ったメイドの腕で家族をおおっと言わせ、野々は大満足だった。
 けれど……。
 たったひとつ。野々のメイドの腕をもってしても適わない家事がある。
 母が出してくれたうちのご飯。
「あー。やっぱこの味だわ……」
 しみじみ思う野々を泉美が茶化す。
「何嬉しそうにしてんの?」
「別に嬉しくなんかないよ。本当やって」
 何だか悔しくて、野々は平静を保って言い返した……これほど分かりやすい嘘なんてないだろうけれど、泉美はちょっと微笑んで、おかわりはと野々を促した。
 野々の茶碗にたっぷりとご飯をよそいながら、泉美は向こうは楽しいかと聞いてくる。
「パラミタ? うん、危ないこともあるけどね。でも大丈夫! 家族もたくさん増えたし」
「か、家族ぅ?!」
 泉美は野々に渡しかけていた茶碗を取り落としそうに驚く。
「うん、そうだけど」
 何故そんなに驚くのだろうと思いながら野々は答えた。パートナーのエルシア・リュシュベル(えるしあ・りゅしゅべる)と家族とは面識があるのだから、契約については理解されていると思っていた……のが大間違い。

 ――その後、爆発した姉と家族会議をはじめた家族に契約者について理解してもらうのに、野々は数時間を費すことになったのだった。