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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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第4章 割れた仮面・その2



「あれがガルーダか……」
 緋山 政敏(ひやま・まさとし)はゴクリと喉を鳴らした。
 モンキーズを容易くあしらう戦闘力に驚愕……したわけではなく、同年代の男性と概ね同じ目線で物事を見ている。
「見えそうで見えない感が……、チラリズムとは敵ながら恐るべし。素顔は気になるけれど、ここは一度抱しめたい……、いや、抱きしめなくては、抱きしめるべきだ。上手く組み敷……いやいや、ハグ出来れば時間稼ぎにもなる」
 崩してバリケードにした壁の裏でなにやら独り神輿。
 自己を正当化すると、みるみるやる気と変なところがみなぎってきた。
「……なんだかいやらしいケダモノの臭いがする」
 パートナーのカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)はポツリと呟いた。
「いや、違うぞ。これは作戦上必要なことなんだ。決して私利私欲のために行うわけでは……」
「なに聞いてもいないのに言い訳してんのよ」
「いや、実は前回のデータから奴を考察していたんだが……、彼女には『こちらの行動を読む』能力があるように思える。だからどうだろう、ここは思考を捨て本能のままに戦ってみると言うのは。先読みを防げるかもしれない」
「……それはわかったけど具体的にどうやるのよ」
「そこでリーンの出番だ」
 不意に振られてリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は目をぱちくり。
「セルフモニタリングで俺たちに暗示をかけてくれ」
「どういうこと?」
 作戦プランを説明すると、ようやく二人にも意図が見えてきた。
「なるほどね、いくつかすんごい引っかかる部分もあるけど……」
「試してみる価値はありそうね」
「うんうんー、きっとうまくいくよ〜。頭いいね〜」
「ん?」
 一同はいつの間にか作戦会議に参加していた青島 兎(あおしま・うさぎ)を見る。
「ここは危ないんだから、列車に戻ってなきゃだめなんだよ」
 まるで子どもに諭すように、カチェアは言った。
 そう言いながら、皆にかけるついでに兎にもファイアプロテクトを施し、炎の危険を軽減してあげる。
「これですこしはマシだけど、早く列車に戻ってトリニティのところにいたほうがいいよ」
「はーい、ありがとうおねーちゃん〜」
 あたかも無害な少女を装っているが、目を離した途端ペロペロペロリと舌舐めずり。
 触覚のような頭のアホ毛がピコンピコンと揺れ動き、カチェアとリーンを指す。
 思わぬところで美少女と接触出来てラッキー、彼女の邪悪な表情からはそんなメッセージが読み取れた。
 しかし、こちらの二人をやっつける前に、ガルーダのほうをやっつけるのが彼女の命題である。
「ま……、この人達がなんかするみたいだから便乗しちゃお〜」


 ◇◇◇


 政敏はさるさるスーツに着替えると、ガルーダに挑む。
 モニタリング効果で先ほどの作戦内容を脳内から消された政敏とカチェアが先頭に立つ。
「ほう、貴様らがオレの相手をすると言うのか」
 ガルーダが言うや否や、リーンは全力投球でおいしいバナナを投げた。
「む……?」
 くるくる飛んでくるそれを思わずキャッチ。
 意図がさっぱりわからず固まっていると、突如、政敏がバーストダッシュで急接近してきた。
 さるさるスーツによって刺激されたバナナ欲に身を任せ、ガルーダのたわわな胸に華麗にダイブを行う。これぞ理性を捨て去った本能の動き、しかし捨て過ぎてしまったのか、ダッシュ中にさるさるスーツ含めた全服を脱ぎ始めた。
「君もそんな仮面を外して、素顔のままで『騙り』合おう!」
「なんだこいつは……!?」
 ガルーダは身体から噴き上がる業火で政敏を薙ぎ払う。
「……ってアホですか、あなたは!!」
 カチェアはほぼまるごしでまるだしの政敏に氷術を放つ。
 先ほどのファイアプロテクト効果もあるのだが、ここまで無防備に飛び込んではあまり効果は期待出来ない。
 さるさるスーツもパンツも全て消し炭になり、ひえええと悲鳴を上げて政敏は全力後退。
「まったく何考えてるの。いきなり『脱ぐな』んてどうかし……」
 生まれたままの姿になってしまった相棒を叱ろうと口を開いたカチェア。
 しかしながら、ある単語を口にした瞬間、突如バーストダッシュ&ランスバレストをガルーダに繰り出した。
 仕掛けられた暗示が発動したのである。暗示は『脱ぐなという言葉を合図に政敏が抱きつた人の仮面に攻撃する』と言うものだ。ちなみに政敏の暗示は『カチェアの暗示が発動するまで作戦を忘れる』と言う内容なのであった。
 実際のところ、この作戦はそれなりの効果を上げた。
「なんだこいつら……、未来のビジョンが安定していない」
 ガルーダは二人の行動に対し先読みが出来なかったのだ。
 切っ先が仮面を突き刺す……、その刹那、深紅の光が一閃、カチェアの攻撃は弾かれた。
「そこまでだ、ガルーダの素顔を見るのは俺だけでいい……」
「な、なにもの……!?」
 突然戦闘に割って入ったのは、全身黒ずくめで怪しいマスクを装着した男だった。
 どことなくSFチックなデザインの衣装で、マスクからは聞き覚えのあるコホーコホーと言う音が漏れている。
 そして、その手にした武器は赤く輝くライトセーバー型の光条兵器だ。
「エロスのダークサイドに惹かれし暗黒卿……、ドスケベイダーここに参上……!」
 しーんと静まり返る。
 変な空気になった隙を突き、兎が行動を開始する。
 モンキーズとガルーダ配下の小競り合いを隠れ蓑にしながら、ガルーダをロックオン。
「仮面を奪ってキスがいいかなあー、胸当てを奪って揉むのがいいかなあー、それとも太腿かなあ〜……?」
 幼気な少女とは相反するよからぬ妄想が、兎のインマイヘッドに渦巻いている。
「一番エロいとこ狙おうーっと」
 背後に取って飛び出す。 
 度重なる脳内の兎会議の結果、獲物は乙女の宝玉パイパイに決定である。やはりおっぱいは全ての基本にして宇宙の中心、どんなエロ行為をするにも基本を押さえるのは大事だ。百里の道も一歩からと昔の人はよく言ったものである。
 そんなわけで、うへへっへと飢えた狼のような気配を振りまいて一気に迫る。
 だがしかし、ガルーダは振り返ると突っ込んで来た兎の額に人差し指を当てた。
「ほえ……?」
「失せろ」
 既に彼女の行動は読まれていたのである。
 ガルーダの放った一言と共に、噴き上がった炎に飲み込まれた。
「こ、この程度でー、やられないんだから〜!」
 心頭滅却すれば火もまた涼し、先ほど受けたファイアプロテクトの効果も味方に耐えきる。
 そして、後の先で相手の動きを見つつ胸当てに手を伸ばすが、今度は火炎手刀を浴びせられ妨害されてしまう。
「く、くそ〜!」
 それでもまだ諦めきれず、今度はサイコキネシスで胸当てを狙う。
 マジどんだけおっぱい見てぇーんだよって話だが、今現在このシーンをご覧になってる皆さんもきっと見てぇーんだろうなぁと筆者は推察する。やはりおっぱいが宇宙の中心であることは間違いないようだ。今、世界はひとつに。
 その時、奇跡が起こった。
 これまで行動を先読みで破ってきたガルーダだったが、何故かサイコキネシスを予見することは出来なかった。
 左側の胸当てがコンマ0.4秒ほどぺろりんとめくれ上がる。
 水桃のような瑞々しく張りのあるオッパイ様がぷるるんとそのお姿を現したのである。
 君のおっぱいがお出ましになったから、今日はガルダ記念日。


 ◇◇◇


「うおおおおおおおおおっ!! ひゃっほぉぉぉぉぉぉぉい!! キター! おっぱいキター!」
 一際大きな声を上げたのは、兎でも政敏でもなく……、暗黒卿さんだった。
「おまえ……、のぞき部の部長だろ」
 政敏はハッキリと言った。
 このエロスにかける情熱は間違いない、そして、あと声が完全に弥涼 総司(いすず・そうじ)
 しかしながら、バレてもまったく動揺せず、無駄に堂々としたもんである。
「すまねぇな、どうやら修行のやりすぎでエロスのダークサイドに堕ちてしまったようだぜ……」
「ようだぜ、じゃなくてよ……」
「やっぱ1日7回もやったのがマズかったかな?」
「いや、聞きたくないから」
 まあ経緯はともかく総司が暗黒面に魅入られているのはたしかなようだ。
 ガルーダのナイスバディの虜となってしまい、エロスのためには手段を選ばない性の権化となってしまった。
 あと、ライトセーバー型光条兵器の色が赤に変化しているのもダークサイドに堕ちた証拠だろう。
「……と言うわけだから、あんたのためにこの力振るわせてもらうぜ」
「好きにしろ」
「報酬はとりあえず、仮面の下の素顔を見せてもらうってコトで。その先は次回のお楽しみにしとくかなムフフ……」
 なにやら楽しそうであるが、ガルーダはもはや聞いてなかった。
 そもそも、ハヌマーンやタクシャカも別段信用していないので、総司のことも特別気にも留めていないのだろう。
 そんなことを知ってか知らずか、総司……いや、ベイダー卿は張り切ってライトセーバーを構えている。
「もうー、兎の邪魔しないで〜!」
「ふん、ぺたんこぺったんか……。正直、巨乳派のオレとしては斬る価値もないが、もしかしたらいるかもしれない全国のロリ……げふんげふん、子ども好きの人達のために……、その服、たたっ斬らせてもらうぞ……!」
 ファイティングポーズを取る兎に、赤光するライトセーバーの一閃。
 ところが、あっさりと斬撃は避けられ、兎のセスタスによる鉄拳がベイダー卿の鳩尾に刺さる。
「ぶほっ!!」
 その衝撃たるや凄まじく優に5メートルは吹っ飛ばされた。
 それもそのはず、ベイダー卿はデスプルーフリングを装備していなかったのだ。
 ナラカの穢れにやられ、身体能力が大分衰弱している。スケベ心だけはこんなにも旺盛だと言うのに。その結果、相対的に兎の攻撃力は跳ね上がり、ネコパンチ一発がヘビー級ボクサーの右ストレートぐらいの威力になってるのだ。
「ば、馬鹿な……、このベイダー卿が……」
 サイコキネシスで転がった光条兵器を手繰り寄せようとするが、それよりも早く兎がマウントを取った。
「兎の邪魔する男はぶっとばすんだからね〜!」
「ひええええ!!」
 総司は薄れゆく意識の中、全世界のエロスの使い手に向かって呟く。
「May the Eros be with you(エロスと共にあれ)」