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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

リアクション

 
●イルミンスール地下:I5
 
「ついに見つけたぞ……!
 一年越しの目的、今こそ果たさせてもらおう!」

 
 爆発が生じ、辺りに粉塵が舞う。
「ほう……私に正面から挑む戦士がいたとはな。よかろう、相手をしてやろう」
 アメイアが微笑み、戦闘態勢を取る。無論、恵と明日香には、フィリップとエリザベートを『護衛』させておくように視線で指示することも忘れない。
「下がっていろ、死にたくなければな」
「は、はいっ」
 アメイアに急かされ、小夜子が未だ目覚めないナレディを連れて後方に下がる。戦闘空間を確保した状態で、粉塵から2つの戦輪を投げる戦士、ウィングをアメイアが出迎える。
「飛び道具使い……しかし、2つとも投げてしまえば、後がないのではないか?」
 戦輪を投げ終わったウィングは、篭手以外に武器を持っていないようであった。所詮威勢だけか、目の前の戦士に失望感を抱いたアメイアが踏み込み、鎧も身に付けていないウィングの腹部を撃ち抜く拳を繰り出す。
「……問題ない。貴様の拳を止めるのは、この拳で十分だっ……!」
 瞬間、腰を落としたウィングの拳と、アメイアの拳が重なり、その点を中心として周囲に衝撃波が発生する。エリザベートとフィリップの下にも当然衝撃波が襲うが、盾を構えた恵をエーファが篭手の生み出す力で支えることにより、影響を最小限に留める。
「なるほど、本命は私と同じというわけか」
「……いや、貴様よりも格上だ」
 ウィングの言葉が紡がれた直後、先程飛んでいった戦輪が背後からアメイアを襲う。首を刈らんとする二撃は、地を蹴ったアメイアの足の僅か下を掠めて飛んで行き、弧を描いて再びアメイアを狙う。
 ウィングの超能力で誘導機能を得た戦輪は、その身が砕け散るまでアメイアの首を刈り取るべく突き進もうとしていた。
「ふむ……なるほどな。確かに、私を退かせた時点で、貴様は私の上に立ったと言えよう」
 今度は身を伏せて避け、アメイアが相手への賞賛とも取れる言葉を口にする。
「……随分と殊勝な神だな。無論、力を認めたところで俺のすることに変わりはない! ……御影流“鋼流拳”<発双裂勁>!!」
 アメイアが対策を思いつく前に、戦輪とクロスレンジの攻撃でカタをつけんとばかり、ルータリアの援護を受けつつ拳を繰り出しながら、ウィングが戦輪を背後から、アメイアの首目がけて向かわせる。
「……ならば、私は貴様の上を行くまで!」
 戦輪を一つ、二つと避け、繰り出したウィングの拳に足を合わせ、地面とほぼ平行に飛ぶことで距離を離したアメイアが、戦輪が再び襲うまでの僅かな時間の間に、近くに伸びていたイルミンスールの根を手頃な長さでパキン、と折る。
「ああっ、何するですかぁ!」
「ユグドラシルに比べれば柔らかい……だが、それでもこの飛び道具を叩き落とすには、十分……!」
 即席の槍と化した根を構え、飛んで来る戦輪を見据え、軌道へ合わせてアメイアが根を振り抜く。超能力の軌道修正を超える速度で振り抜かれた根は、一つ、二つと戦輪を打った所でアメイアの掴んだ部分から折れ、戦輪と共に吹き飛び、別の伸びている根にぶつかって轟音と無数の粉塵を生じさせる。
「これで障害は取り払った。……後は貴様だ」
「……させるか!」
 構えから飛び込んだ両者の、突き出した拳が炸裂する――。
 
 アメイアとウィングの激闘は、彼らが感じている以上に長時間に渡っていた。辺りには、衝撃波によって巻き上げられた粉塵が宙を舞う。
(この環境……粉塵爆発には最適の条件だな。幸いアメイアは戦闘に集中している……エリザベートを助け出すなら、今を置いて他にない!)
 I5に駆け付けた瓜生 コウ(うりゅう・こう)が、周囲の環境をHCと自らの知識によって判定し、アメイアからエリザベートとフィリップたちを助け出すために考えていた作戦に適していると判断した後、高めた魔力を電撃魔法の発動にセットして、気付かれないように出来る限り距離を詰める。
「……エーファ、来た」
 そのコウの気配を、いち早く察したのはグライスだった。すぐにエーファに敵意の接近を伝え、エーファは殺気の位置を看破してそちらに身体を向ける。
(感づかれたか! ならばここで――)
 エーファの動きに恵が追随するのと、コウが電撃を空中に放つのはほぼ同時のこと。電撃のエネルギーによって振動させられた細かな粒が大気中でぶつかり合い、それがコンマ数秒という世界の中で同時多発的に発生した結果、広範囲におよぶ爆発が生じる。
「エリザベートちゃん!」
 明日香がエリザベートを胸に、爆発に対し背中を向け守り、慌てふためくフィリップの前にはレスフィナを装備した恵が身を張って守る。半ば人質となっていたナレディと小夜子も、アメイアとウィングの戦いを見守っていたファティとスルトも、そして拳を突き合わせていたウィングも、さらにはアメイアでさえも、爆発による影響を少なからず受ける。
 一般人なら死傷クラスの爆発も、契約者ともなれば一瞬の聴覚や視覚の麻痺程度で済むが、起きてしまった爆発を対策なしで完全に無効化することは出来ない。武力なら最強クラスのアメイアであっても、である。
(稼げた時間はせいぜい数秒……その間に、せめてエリザベートだけでも助け出す!)
 迷いなく突っ込むコウに対し、アメイアはまずウィングを拳と蹴りの連撃で吹き飛ばして退場させる。そのままエリザベートの下へ向かう……かと思いきや、爆発で壊れてしまった飛空艇の下敷きになっていた小夜子を助け出し、同じく目覚めようとしていたナレディにもう一度手刀を打ち込んで気絶させる。
(……ここで彼女に逆らえば、確実に彼女はボクたちを始末する……!)
 アメイアの一種余裕とも取れる態度を、自分たちへの脅迫と言い換えても差し支えない信頼と取った恵は、姿を現したコウへ催眠術を施す。助けようと思っていた仲間に手を出されることまでは考えていなかっただろうコウは、術にあっけなくかかり、恵たちの前で地面に伏せる。少し念入りに調べれば眠っているだけだと分かってしまうだろうが、傍目には戦闘不能にさせたと見える。
(せめて、イコンの所まで行ってからなら、混乱に紛れて解放という流れに持って行けるのに……!)
 その、切なる思いは、ついに叶えられることはなかった。

「り、リンネ、マズイんだな。あの龍騎士がいるんだな」
「そ、そうだね。でも、エリザベートちゃんもフィリップくんもいるよ? 何とかして助け出せないかな!?」
 まずはリンネ一行が、先程の爆発を聞きつけてI4から現れる。
 
「お母さん!!」
「フィリップ!!」

 次いで、リンネの後方からミーミルが、O5からはルーレンがエリザベートとフィリップを見つけ出し、それぞれ声を飛ばした――。
 
●イルミンスール地下:O4
 
『お、おにいちゃん!? 今なんか凄い爆発音が聞こえたよ!? 大丈夫なの!?』
「……ああ、大丈夫だ。爆発は私の後方、I5ブロックで起きたみたいだ。少し耳が遠くなったくらいで、行動に影響はない」
 HCを介して聞こえてくるクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の心配そうな声に、軽く頭を振って本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が答える。I6に入ってしまったことで他の生徒よりもワンテンポ遅れ、リンネやミーミル、ルーレンと一緒でない生徒たちの中では最後方だった涼介がO4に入った所で、後方で戦闘の反応があることを告げられ、その直後に今の爆発が起きたのであった。
「エイボン、大丈夫か?」
「は、はい。少しフラフラしますけど、大丈夫ですっ。
 兄さま、この先にアルマインがあるのでしょう? 追いつかれる前に急ぎましょう」
 涼介に介抱されながらも、エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が強い眼差しで言い切る。既に、他の生徒たちがO3に向かい、アーデルハイトの言うアルマインらしきものを発見した報告が続々と寄せられていた。外見特徴やコクピット周りの情報も送られてきている。後は、自らがその場所に向かい、アルマインを起動させるだけだった。
「ニーズヘッグの方はどうなっている?」
『えっとね、そっちの方はみんなが凄い頑張って、防衛線の所でやっつけちゃったかもしれないんだって!
 まだ詳しいことは分かってないけど、もし生きていたとしても、イルミンスールにやって来るには時間があるだろう、って言ってたよ』
 クレアからの返答に、ひとまず片方は成功と言っていいか、と涼介が安堵の表情を浮かべ、直ぐに表情を引き締める。
「行こう、エイボン。私たちもイルミンスールの守り手として、イルミンスールを守る為に戦おう」
「はいっ、兄さま」
 エイボンを連れて、今いるブロックの奥、O3へ涼介が向かう――。