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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

リアクション

 
●精霊指定都市イナテミス:ミスティルテイン騎士団イナテミス支部
 
『言ってみるものですわね。ちょうど2つ、旧式の水晶が保管されていたなんて、ラッキーですわ』
 支部に据えられた緊急連絡用の水晶に、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)の姿が映し出される。アーデルハイトが旧式と言うだけあって映像がややくすんではいるが、十分使用に耐えうるものであった。
「支城と雪だるま王国の方に設置は済んだのですね?」
『もちろんですわ。これで挟撃のタイミングを合わせることも――何ですの、これは?』
「どうしましたか?」
『……! この情報は……! 望、この情報を直ぐにイナテミスに伝えなさい!』
 一方的にまくし立てたノートからの通信が切れ、代わりに彼女の言う情報が転送されてくる。それは、侵攻してくるニーズヘッグの戦力状況と、現在位置を示すものであった。
「送信者は……フォアサイト。確か登録者にそのような名前が……」
 望がPCを操作し、今回の作戦に参加している生徒たちの一覧を表示させる。そこには確かに、『フォアサイト』とだけ記された項目が存在していた。
「これは、直ぐに転送しませんと」
 この情報は、戦況を大きく動かす。
 そう確信した望が続けてPCを操作し、イナテミスの町長室へと通信を繋ぐ――。
 
●イナテミス精霊塔
 
 イナテミス中心部、そのさらに中心にそびえる塔。元はソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)の提案した物を、町長と五精霊とが協議の末、街の防衛を担いそして人間と精霊との恒久的な関係の継続を願って建設された塔。
 
 今、その塔は多くの者たちの協力によって完成を果たし、砲撃機能『ヴォルカニックシャワー』と防御機能『ブライトコクーン』を備え、人間と精霊とが協力し合う街を脅威から守るべく、その役目を果たそうとしていた――。

「おいネリア、早くしろ! 急がねえとイナテミスがぶっ壊されちまうぞ!」
「ま、待ってくれガイ、僕は君のように体力派じゃないんだ」
「おばあさん、もう少しで着くからね」
「すまんのう、兄さんや、重くないかい?」
「ははっ、これくらい大したことありませんよ」
 あちこちで、精霊と人間とが助け合う光景が見られる。精霊塔は五精霊が先導して建てた経緯があってか、周囲には多くの精霊の姿があった。
(みんな、すごく頑張ってる。……だけど、イルミンスールは精霊を盾にした、って話なんだよね……精霊たちは実際、どう思ってるんだろう)
 ミカ・ヴォルテール(みか・う゛ぉるてーる)と共にイナテミスに駆け付けた三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)が、心にもやもやとしたものを抱えつつ、実際に話を聞いてみようとする。
(……あっ、あの人たち、あたしたちと同じだ……うん、あの人たちに聞いてみよう)
 ちょうど自分たちと同じ、人間と精霊のペアが作業をしているのを見つけ、のぞみが近付いていく。
「キィ、状況は?」
「はい、セイラン様とケイオース様は同胞の精霊と共に、こちらに向かっているそうです。ですが、サラ様はご無理がたたって伏せていると、保護区の方から連絡がありました」
「何だって? ……それは心配だが、今は回復を祈ることしか出来ないな。サラさんの分は俺たちで補えるよう、手を尽くさないとだな」
「えっと……ちょっといいかな?」
 のぞみに声をかけられ、人間の男性と精霊の女性が振り返る。それぞれ簡単な自己紹介を終えた後、のぞみが意を決して切り出す。
「ごめん、こんな時にこんなこと言うの、おかしいかもしれないけど……でも、どうしても確認しておきたかったの」
 そう前置きして、のぞみは自ら感じていたこと、イルミンスールが精霊を盾にしているのではないか、そのことを精霊はどう思っているのかを口にする。人間は精霊に甘え過ぎてはいないだろうか、と。
「私は、自分が利用されている、とは思っていません。皆さん、私たちのことをとても頼りにして下さいますし、ちゃんと感謝してくれます。道を同じくする者同士というのもありますが、そんな方々だからこそ、私たちは頑張ろうって思えるんです」
 自らをキィ・ウインドリィと名乗った精霊の女性が答えるのに続けて、ホルン・タッカスと名乗った人間の男性が口を開く。
「俺は五精霊、町長、それにイルミンスールの方とも話をして、確かにイルミンスールは精霊を盾にしている、人間は精霊に甘えているということは否定しないし、否定出来ないと思う。だけど、そのこと自体が悪いことだとは俺は思わない。そういう事実を知りながら何もしないでいることが悪いことだと俺は思う。人間と精霊、それぞれが今の関係に真っ直ぐ向き合い、より良い関係を築こうと努力する。……俺はそうでありたいと思うし、人間も、そして精霊も、きっとそれが出来ると思うんだ」
 二人を呼ぶ声に応えて、キィとホルンがのぞみに一礼してその場を後にする。
(もうお互いにパートナーなんだからさ、素直に甘えりゃいいじゃん……ってワケにもいかねーんだろな。ま、本当にヤバくなったら手貸してやっから、それまでよく考えりゃいい。そうして出た結論は、悪いモンじゃない)
 掛けられた言葉と自分の思いとで揺れるのぞみを、隣でミカがそんな思いを抱きつつ見守っていた。

「ヴォルテールの仲間がやたら少ねぇと思って聞いてみりゃ、そういうことかよ! 水くせぇぜサラ、一声くれりゃ俺らも手伝ってやったのによぉ!」
「サラさん……サラさんの分まで、自分がイナテミスの壁となるのですよ! サラマンディア、ボケっとしてねーで行くぞ」
「へっ、いちいち言われねーでもやってやるさ。この街が危ねぇ、そしてこの街は俺達の街。やらねぇ理由はねぇ!」
 キィとホルンからサラのことを聞いた土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)サラマンディア・ヴォルテール(さらまんでぃあ・う゛ぉるてーる)が、サラの分を補うが如く積極的に動き回り、協力を呼びかけていく。その甲斐あって、精霊塔には十分な魔力が補給され、急造で取り付けられた基地局の運営動力や、直撃すればニーズヘッグの侵攻を大幅に遅らせられるであろう『ヴォルカニックシャワー』の発動動力へと回されていた。
「ところでよ、ロリばーさんが言ってたの聞いてちょいと気になったんだが、何でユグドラシルはニーズヘッグだけこっちに寄越したんだ?」
「ちょ、ロリばーさんっておま……! んな事あたしに聞くなよ、精霊の力目当てとか?」
「にしたってイルミンスールに比べりゃたかが知れてんだろ。俺達にニーズヘッグの相手させて、何か企んでんじゃねぇか?」
「う……そ、そうだよ、実際にニーズヘッグと戦った人に聞いてみりゃいいじゃん!」
「自分で考えらんねぇからって、投げたな、チビ」
「うっせーいちいちツッコむんじゃねーよ! ほら行くぞ!」
 浮かんだ疑問を解消すべく、雲雀とサラマンディアが近くで作業をしていたイルミンスール生徒に話を持ちかける。
「うーん、ボクの印象だと、ニーズヘッグがそれだけの配慮が出来るヤツだとは思わなかったけどね〜。大ババ様もその辺よく分かってないみたいだし、何とも言えないよね」
「そうですね……これだけの威力がある攻撃を放てるユグドラシルが、けれどそれをせずにニーズヘッグをイルミンスールへ導くために手を貸した。イルミンスールを滅ぼすだけならもっと簡単に出来るはずなのに、そうしない理由は何なのか。……アーデルハイトさんのお話はこう言っているのではないかと、私は思いました」
 『コーラルネットワーク』でニーズヘッグと一戦交えたナナ・ノルデン(なな・のるでん)ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)の言葉を聞いて、雲雀とサラマンディアが考え込む。
「確かに、これほどの影響を与える攻撃なら、イルミンスールもイナテミスも簡単に壊せそうでありますね。あえてそうしない理由は……手加減してくれた?」
「ケッ、強者の余裕ってヤツかぁ!? いいぜぇ、そうやって甘く見たツケを払うのはテメェ自身だってこと、思い知らせてやらぁ!」
「ま、実際どうなのかは憶測の域を出ないけどね――っと、通信だ。ナナ、そっちにも来てるよね?」
「ええ、今確認します。……! これは……ニーズヘッグの現在位置が判明したそうです」
 ズィーベンの持つHCに情報が入ったのを受けて、ナナも自らのHCを確認し、内容を知らせる。それを耳にした雲雀も、自らのHCを操作して情報の内容を確認する。
「本当でありますか! ……そのようでありますね。しかしこれを見る限り、ニーズヘッグはまだエリュシオン領内であります。誰がこの情報をもたらしたのでありますか?」
「細けえ事ぁいいんだよ、居場所が分かったんだろ? こっちにはこの塔があんだ、来る前に一撃ぶっ放してやりゃあいいじゃねーか」
「よくねぇよ! もしこれが偽の情報だったらヤベェことになんだろーが」
 所属故、情報の取り扱いについては慎重な意見を口にする雲雀。
「いえ、その情報は確かに、今回の事件に際し集まっていただいた皆様の内からもたらされたものですわ。先程確認が取れました」
 そこに、背後から聞こえてきた声に一行が振り返ると、光輝と闇黒の精霊を引き連れたセイランとケイオースの姿があった。
「これはわたくしの憶測ではありますが、おそらくは危険を冒して獲得した情報。その思いにわたくしはお応えしたいと思います」
「俺も同じ思いだ。……ヴォルカニックシャワーの発動を宣言する。皆、力を貸してくれるか」
「はい! 何なりと言ってください」
「精霊長の頼みとあれば、断るワケにもいかないよね。ボクも協力するよ」
「自分も出来る限りのことをするであります!」
「よっしゃ、やってやろーぜ!」
 ケイオースの言葉にナナ、ズィーベン、雲雀、サラマンディア、そして他の人間と精霊たちが協力の意思を示す。
「……皆、ありがとう。セイラン、中を頼む。俺は外で不測の事態に備えよう」
「ええ、お兄様」
 頷いたセイランと光輝の精霊が中に入り、ケイオースと闇黒の精霊を中心として、協力者が精霊塔を取り囲むように布陣する。
「皆様、準備はよろしいですわね?」
 中心に佇むセイランに頷き、その周りに控える光輝の精霊が、精霊塔に蓄えられた魔力を『ヴォルカニックシャワー』発動の魔力へと変換する。光る弓矢を出現させたセイランが、ニーズヘッグの位置情報から最適な発動タイミングを検討する。
(エリュシオン領内での攻撃は、後々問題を生む可能性がありますわね。……となれば、ニーズヘッグがシャンバラ領内に侵入した直後を狙うのが好機でしょう)
 徐々に内部に光が満ち、それは塔の外にも広がっていく。
(頼むぞ、セイラン。イナテミスの運命は、この一撃に左右されるだろう)
 外で見守るケイオースの、その想いを知ってか知らずか、セイランの口元に微かな笑みが浮かぶ。直後、HCがニーズヘッグのシャンバラ領内侵入を告げた。

「降り注げ、光の噴火!
 ヴォルカニックシャワー!」


 セイランが弓を引き絞り、天井に向けて放つ。それが発動のトリガーとなり、下層に集まっていた光が上層へと移っていき、塔の先端から光線となって空へと走ったかと思うと、空中で隕石が如く球体を形成し、屈折して一直線に地上へと落ちていく。

 直後、イナテミスにまで聞こえてくるほどの音、そして光が集まった生徒や精霊たちにも感じられた――。
 
●町長室
 
「……ヴォルカニックシャワーの発動、およびニーズヘッグへの命中を確認しました。……反応が消えたのはおそらく、取り付けた発振器が壊れてしまったからでしょう。凄まじい威力であったと予想出来ますが、ニーズヘッグが簡単に消滅するとは思えませんから」
 精霊塔から連絡を受けた刀真が、ミスティルテイン騎士団とも連絡を取りつつ、自身の考えを口にする。
「そろそろあちらの方も作戦が開始される頃でしょう。忙しくなりますね」
 呟き、刀真がニーズヘッグ防衛線に出ているはずの者たちと連絡をいつでも取り合えるよう控える――。

「おぉ……どんなもんかよく分かんなかったけど、凄かったな。もしかしたらニーズヘッグ消滅しちまったんじゃないか?」
「そうだとよいのじゃが、そうはゆかぬじゃろうな。アキラ、セレスティアは託児所で子供たちの相手をしとる。わしらもこのままイナテミスに留まり、有事に備える方がよくはないか?」
「そっか、そういうことなら無理に連れて行くのもよくないな。分かった、そうしよう。……ヨン殿、悪かったな色々と手伝ってもらって」
「いえ、私は特に何も……。あの、アキラさん。私もこのままアキラさんと一緒に居させていただけませんか?」
 謙遜した様子のヨンが、アキラの表情を伺いつつ尋ねる。
「おお? いや、解ってると思うけど、危険だよ?」
「はい、それでも、居させてください。足手まといにはなりませんから」
 真剣な表情のヨンに、アキラがそっか、と頷いて答える。
「じゃ、よろしく」
 差し出された手を、はい、と頷いてヨンが取る――。

 『ヴォルカニックシャワー』の斉射により、ニーズヘッグに先制攻撃を与えることに成功したイナテミス。
 この結果が、果たして戦況にどのような影響を与えることになるのか――。