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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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・イコンハンガーにて


「こちらのイコンハンガーでは、整備科の実技が行われています」
 ちょうどその頃、転入生達が見学に訪れていた。
「以前はこちらがベースの役割も果たしていましたが、イコンが量産されて以降は天沼矛に機能が移転しました」
 あくまで眺めるだけで、すぐにまた移動する。
「さて、では次へ行きましょう」
 ぞろぞろとハンガーを後にしていく中、ヴェロニカはぼーっとイコンへ視線を遣ったまま立ち尽くしていた。
「これに、兄さんが……」

* * *


「科長、レイヴンTYPE−E、整備完了しました! チェックお願いします!」
 整備を終え、十七夜 リオ(かなき・りお)は科長を呼んだ。
「ほう、どれどれ……」
 整備科長、ベルイマンが機体を隅から隅まで調べていく。
「装甲、駆動部は問題なし。ジェネレーターと動力炉は、っと」
 それにしても、普通はリフトとワイヤーを使って機体の整備を行うのに、この人は素手で機体をよじ上って一つ一つチェックしている。初めて見たときは驚かされたものだ。
「よし、チェック完了だ。初めて扱う機体でこんだけ出来りゃ十分だろ」
 なんとか一回のチェックでパスすることに成功した。
「こんでひとまず全機完了だ。うし、ここらでちょいと休憩といくか」
 科長の計らいで、一休みすることになった。
 その間に、リオは元の整備ハンガーの方へと向かう。
(自販機はあっちに行かないとないからなー)
 ふと、視界に一人の少女の姿が目に留まった。
(見かけない顔の子がいるけど、転入生かな? こんな所に来るなんて、整備科志望……いや、例の転入生向け学院案内でここを立ち寄ってるだけか。あれ、でも他の子はいないみたいだし……)
 とりあえず、ハンガーの中を下手にうろつかれても困るため、声を掛ける。
「そこの君! あんまり近付いたら危ないよ」
 びく、っと少女が震えた。
「ご、ごめんなさい! ちょっとぼーっとしてて……」
 少し動揺しているようだ。
「転入生……だよね? イコンに興味あるなら、説明しようか?」
「はい、お願いします」
 彼女の様子を見ると、まだイコンについて詳しい説明は受けていないらしい。
「この学院には近接型のイーグリットと、支援型のコームラントの二種類の機体がある。あとは、その中間の機体として量産型のクェイルってのがあって……ちょっと待って」
 視線を感じ、そちらを向くとフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)がいた。
「フェル!」
 どうにも浮かない様子のパートナーを呼び寄せる。
「ほら、腑抜けてないで、挨拶!」
「……フェルクレールト・フリューゲル」
 フェルクレールトが少女に頭を下げる。
「ごめんね、エヴァン……って言っても判んないか。目標にしてた寺院のパイロット倒してから、ずっとこんな調子でね。って僕の自己紹介もまだだったね。僕は十七夜 リオ」
「ヴェロニカ・シュルツです」
「よろしく、ヴェロニカくん。そういえば、この後新型イコンの公開試運転や模擬戦もあるけど、そっちも見学するのかな?」
 その言葉を聞いて、ヴェロニカがはっとする。
「あれ、みんなは?」
 きょろきょろと周囲を見渡している。学校案内に参加している他の転入生達の姿がないことに、今更気付いたようだ。
「あー、イコンをぼーっと見てたら置いてけぼりになっちゃったのか。次にどこ案内してもらうか、分かる?」
「確か、パイロット科です。でも、場所が分からない……」
 ちょうど公開試運転を見学するわけか。
「それなら大丈夫。フェル、ヴェロニカくんを送ってあげて」
 フェルクレールトがちょうどパイロット科ということもあり、あとを任せる。
(こっちはそろそろ休憩時間も終わっちゃうからね)
 そろそろ戻らなければいけない頃合だからだ。
「うん、分かった」
 パートナーに後を任せ、レイヴンのある場所まで戻っていく。

「そういえば、さっきエヴァンって言ってたけど」
「エヴァン? うん、寺院のイコンパイロット。凄く、強かった」
 フェルクレールトは強敵との戦いを振り返る。
「初めての出撃でコテンパンにされて、その後も何度も戦って負けて……」
 学院よりも遥かに性能が劣る機体を駆っていたにも関わらず、一対一どころか小隊で連携しても及ばなかったほどだ。
「それが悔しくて、超えたくて、だから敵だったけど、目標で色々教わって……」
 そこまで口にしたところで、気付いた。
 エヴァンに勝てたのはイコンが覚醒したから、あの力があれば訓練なんてしなくても強敵と渡り合える、そう思っていた。
 だが違う。覚醒してもなお、同じ状態になっていた他の機体と協力してやっと倒せたくらいだ。
(そうだ、まだワタシは超えてない……! 未覚醒でもアイツを倒せる位にならなきゃ!)
 パイロットとしての技量で比べるならば、未だ及ばぬ存在だ。
「……その人は、ただ強かっただけじゃないみたいね」
「うん、力だけじゃなくて、強い意志も持ってた」
 しばらく不安そうな表情をしていたヴェロニカだったが、今はどこかほっとしているような感じだ。
 その様子を不思議に思うも、
「ヴェロニカー!」
 と、彼女に付き添っていた高島 真理がヴェロニカを見つけたため、理由は分からなかった。
「ありがとうございました!」
 フェルクレールトに一礼し、ヴェロニカは駆けていった。
「リオは自分に出来ることを始めてる……ワタシも前に進まなきゃ……!」
 
* * *


「おかえり、遅かったわね」
 荒井 雅香(あらい・もとか)は戻ってきたリオに声を掛けた。
「ちょっと転入生と話してたからね」
「へえ、ハンガーにも見学に来てたなんて。お姉さんも、ちょっと会っておきたかったわ」
 せっかくだから、どんな感じの子達が入って来たのかは知っておきたいという気持ちはある。整備科で一緒になる者もいるかもしれない。
「それと、これまでの情報をまとめといたから、渡しておくわね」
 同じダークウィスパーに所属していることもあり、自分なりにまとめたイコンに関する知識や情報を収めたメモリーカードを手渡す。
 休憩時間の間に、レイヴンの整備マニュアルも盛り込んでおいた。ホワイトスノー博士から聞いたイコンの弱点や、製造プラントの内部構造なども含まれているため、取り扱いには気をつかなければならないが。
「自分なりにまとめんのもいいけどよ、整備ってのは身体で覚えるもんだぜ?」
 そこへ、科長の声が飛んできた。
「確かに、機体の構造や動作原理なんかを理解しておくのは重要だ。だが、人がそうであるように、イコンも一機ごとに違う。そいつは実際にいじっていかねぇと分かんねぇもんさ」
 科長が機体の製造ナンバーと、その機体ごとの特性が書かれたメモを開いた。
「今は個人所有になってっからそこまで問題はねぇ。が、全員が全員パイロット科と整備科の組み合わせじゃねぇからな。どの機体を扱うことになっても大丈夫なように、ちゃんと一機一機こうして把握してるってわけだ」
 だから、と付け加える。
「整備のエキスパートを目指すんだったら、これは必須事項だ。あと、パーツの消耗は機体によって早かったり遅かったり結構差がある。最近じゃろくすっぽ知らねぇくせに変に改造する輩だっているくらいだ。そういった連中の尻拭いも出来るようになりゃ整備士って胸を張ってもいいだろうよ」
 どんな機体だろうと、最高のコンディションにしてこそ一人前の整備士だと科長は説く。どこまでも職人気質の人間だ。
「おっと、こんな時間か。そろそろレイヴンのテストパイロット達が来る。連中が来たら最終調整を始めっぞ」