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Entracte ~それぞれの日常~

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・見守る者達


「こちらです、ホワイトスノー博士」
 休憩時間の最中、黒いロングコートに身を包んだジール・ホワイトスノー博士が姿を現した。
 彼女に続き、ドクトルら極東新大陸研究所海京分所の一行も到着した。
「風間君はまだ来ていないのですか、パイロット科長?」
「おそらく、ハンガーでパイロットの最終調整の様子を見ているものかと。ドクトルが来ている、とお伝えしますか?」
「いや、彼もここに来るのだろう。ここで待つとするよ」
 ふと、ドクトルが見学者の中にいる黒崎 天音(くろさき・あまね)の視線に気付いた。
 天音は微笑みを浮かべたまま、軽く会釈をする。
「薔薇の学舎の黒崎天音です。新型イコンの公開試運転に立ち会えるのは幸運だったな……ところで、先ほどドクトルと呼ばれていたようですが、お名前をお伺いしても?」
 握手を求めようと手を差し出す。
「ミハイル・セルゲーエヴィチ・アイティンゴン。あんまり名前で呼ばれることはないけどね」
 前もって彼のことは調べていたが、顔には出さない。
(この前の男とは……やっぱり違うね)
 ドクトルは三十代後半といったところだろう。天住とは体型も違う。
 そこへ、一人の青年がやってきた。
「ギリギリ間に合ったようだね、モロゾフ君。大佐は向こうにいるよ」
 モロゾフと呼ばれた青年が、黒コートの女性へと駆けていく。
「ああ、彼はイワン・モロゾフ。頼りなさそうに見えるが、あれでも元ロシア軍中尉だ。そして奥にいるのがジール・ホワイトスノー博士。元ロシア軍大佐であり、ロボット工学の世界的権威だよ」
「彼女と話しこんでいる女性は?」
「この学院のパイロット科の科長だよ。名前は――」
 そのとき、ドクトルが何かに気付いた。
「おっと、すまない。召集がかかったものでね」
 そろそろ休憩時間も終了のようだ。同じように校内見学をしている者達も集まり始めている。
(イワン・モロゾフ……か)
 天音は天住と同じくらいの年恰好のロシア人青年を一瞥した。

* * *


「これより、当学院の新型機『レイヴン』の公開試運転を開始致します」
 見学者に向けて、パイロット科長が告げた。
「機体開発の発案者である、強化人間管理課課長風間 天樹が説明を行います」
 清潔感の漂う黒スーツ姿を纏った長身の男が口を開く。
「レイヴンは当学院の強みである超能力者達の力を生かすために、開発を進めてきた機体です。この機体にはブレイン・マシン・インターフェイスが組み込まれております。技術に関する詳細は機密事項なのでこの場では申し上げられませんが、パイロットの脳波によって機体制御を可能とするものです。
 また、超能力と脳の関係は前世紀から指摘されていたことであり、超能力を使用する際には一定の脳波パターンが検出されました。それを機体が読み取ることで、超能力を機体に搭乗しながらにして使用することも可能となったのです」
 合図と共に、モニターにハンガーの様子が映し出される。
 機体はカタパルトに搬送され、見学者達から見える位置までやってきた。
「当初は難航しましたが、何度もテストを重ねることによって、運用可能段階に到達しました」
 風間の説明を聞きながら、水鏡 和葉(みかがみ・かずは)はレイヴンの機体をその目に映した。
「あれが、レイヴン……」
 漆黒の機体をじーっと見つめ、ぼそりと呟いた。
(まさに鴉の名にふさわしい機体だよねっ)
 前に、特殊だけど危険な機体があることは聞いていた。風間の話を聞いてる限り、その危険性については徹底的に伏せられている。
「やっぱりと言うか、あの二人は志願してたんだね」
 モニターに映る御空と奏音の姿を見て、ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)が息をもらした。
 現在のレイヴンが本当に運用段階にあるのかは分からない。事前にテクノコンピューターや情報通信を生かして調べてみたが、ほとんどが非公開となっていた。
(鍵付きデータばかりじゃどうしようもないんだよね。分かったのは、イコンの真の力が発揮されたからこそ、目処が立ったらしいってことくらいだし)
 一抹の不安を覚えながらも、この試運転の行く末を見守ろうとする。
 機体もそうだが、今は転入希望者も見学に来ている。それに、前パイロット科長のようなスパイがまだ潜んでいる可能性は十分にあるのだ。
 今のところは大丈夫そうだが、念のため殺気看破でいつでも反応が出来るようにしておく。
「では、いよいよ発進します!」
 電磁カタパルトから、漆黒の機体が射出される。
 レイヴンは起動し、上空を疾走し始めた。
 一機ずつ空へと上がり、TYPE―E二機、TYPE―C二機の計四機が安定飛行に入った。
 見学席から歓声が沸きあがる。
「では、これから機体性能をご覧頂きましょう」
 
 ドクトルら海京分所の一行は、パイロットのモニタリングに入っていた。
「脈拍、脳波、血圧……全て正常」
 パートナーの茉莉がテストパイロットになっていることもあり、レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)はドクトルらの補佐を務めていた。
 重体に陥ったときのような、状態異常は今のところ見られない。
「まだ油断は出来ない。戦闘行動に移ってからが本番だ」
 ホワイトスノーが指摘してきた。
「戦闘データはまだ存在しない。もちろん、パイロットのコンディションもどう変化するか予測がつかない状態だ」
「緊急停止装置は組み込んであるのか?」
 前もってレオナルドは進言している。
「当然だよ。危険だと判断したら、BMIを強制終了出来るようにね。機体の動力が急に止まるわけじゃないから、墜落の心配もない」
 ドクトルが説明する。
「それに、シンクロ率20%以上は出ないようになっている。今の彼女達なら大丈夫だよ」