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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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12:15〜


・受け継がれる遺志


 海京の南沿岸部。
 そこには、墓碑が存在する。
 イコンで戦う以上、死にゆく者達がいる。もちろん、自分達だけではない。敵を倒すというのは誰かを殺すことに同義だ。
 当初、学院は特に敵の死体をぞんざいに扱っていた。埋葬することなく、海に放り投げるようなことさえしていたくらいだ。
 だが、相手も同じ人間だ。実際に戦ってきた者達によって、「敵であろうと人としての尊厳を守りたい」という思いから、こうして墓碑が建てられたというわけだ。
 敵の名前なんて分からない。だから、そこに名前が刻まれることは基本的にはない。
 だが、そんな中で名前が刻まれた墓標が二つある。

「お墓参り……ですかぁ? そうですねぇ、普通なら自分達の手で落とした敵の墓参りなんてその相手を愚弄することになりそうですどぉ……今回は色々ありましたもんねぇ……一度限りのお墓参り、行ってきましょうかぁ」
 キャロライン・ランフォード(きゃろらいん・らんふぉーど)と共に、イングリッド・ランフォード(いんぐりっど・らんふぉーど)はここにやってきた。
 ――グエナ・ダールトンの墓の前に。
「敵の墓参り……それも何度も戦った相手の墓参りをするなど、おかしな話かもしれないな。だが、私の中でお前が尊敬に値する存在だったのも事実だ。
 ……まだ戦いは終わったわけではない、訓練だってまだまだいくらでもしなければならない。それでもここに来たかったんだ。たいした余裕だと、甘いとお前に叱責されるかもしれんがな」
 その墓の下に、グエナの死体は存在しない。
 彼の乗っていた機体は爆散し、残骸は海の底へと消えていった。脱出した様子もない。結局、彼の死体は見つかっていないが、あの状況で生きているとは思えなかった。
「お前のことは戦場で話した以上のことは知らない。ああいう形で会ったんだ。知らなくても問題はないだろう。だが、お前がいかに優秀な指揮官だったか、いかに優秀なパイロットだったかは他の誰より知っているつもりだ」
 一部では伝説と化した傭兵組織「F.R.A.G(フラッグ)」のリーダー。ダークウィスパーのメンバーが調べた情報で分かったのもその程度だ。
「……今でも少し思うよ。出会い方が違っていれば、私はお前の元で戦いたかった。お前は私が知の知る中で一番の腕だ。そして私に最も多くのことを教えてくれた。
 倒しはしたが、イコンの性能が同じなら私は今でもお前の方が上だと……いや、それは違う、な。戦場では性能差などバラバラ……お前なら、それも含めて負けを認めるのだろう」
 物言わぬグエナの墓標に向かって続ける。
「お前は最後に『強くなったな』と言った……正直に言えば……嬉しかったよ。お前を超えたこともだが……お前に認められたことが、嬉しかったんだ。ありがとう、ダールトン。お前から教わった全て、お前が貫いた意志、私なりに守り抜いていく。だから、見ていてくれ」
 そして、花を墓の前に供える。
「そうだ、お前は飲むか分からないが……ワインを持ってきたんだ。花と一緒に置いておく、よければパートナーとでも飲んでくれ」
 ワインを置き静かに呟いた。
「……さようなら」
 学院の校舎のある方に向き直り、墓を後にする。
「グエナ・ダールトン、何度も戦った私達だけど、貴方のことはよく知りませんでしたぁ。凄腕のパイロットでぇ、貧困にあえぐ人々の為、守るべきものの為に自らを戦いに投じた……そのくらいですねぇ」
 キャロラインが墓標を数瞬見つめる。
「でも、出会った場所が戦場では仕方ありませんよねぇ。キャロやお姉ちゃんのこと、そっちも知らなかったんですしぃ、今更語ろうとも思いませぇん」
 そして、イングリッドの後に続く。
「けど、貴方から得たものは背負っていきますよぉ。だからぁ安心して見てて下さいねぇ?」

* * *


 彼女達とは別に、墓碑に花を供える者がいた。
 榊 朝斗(さかき・あさと)である。
「あれから一ヶ月か……」
 クローン強化人間達と戦ったあの海京決戦から。自分が覚悟を決めたときから。
 彼は、海を眺めて佇む姿を発見した。
 パートナーのアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)だ。
「アイビス」
 彼女に声を掛ける。
「あの戦いから少しおかしくなったのでしょうか? 私は時々自分が理解出来なくなるときが出てきているのです。私は自身を『兵器』として認識していました……ですがそれは彼らと同じという意味にもなります」
 戦うためだけに生み出された存在。
 それが、自分達の敵として立ちはだかった者達だった。
「それでもあなたは彼らを『兵器』としてではなく『人』として見ていました。私も『人』として見てくれてるのですか?」
 自らの中に生まれた「悩み」にも似たものを、朝斗に打ち明けてくる。
「アイビス、僕は一度たりとも君を『兵器』としては見ていない。前から『人』として……いや、大事な『家族』なんだ」
 しっかりとアイビスと目を合わせてそれを告げた。
「『家族』……ですか」
 その言葉の響きに、何か感じるものがあったらしい。
 二人は立ち並ぶ墓碑に背を向け、学院へと戻っていった。