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Entracte ~それぞれの日常~

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「おっかいものー♪ おっかいものー♪ えへへ、美奈はなにを買おうかしら!」
 空京の繁華街を、三つの影が闊歩している。
「あっちのお店、ステキ! あっこっちもステキ! ねえねえ、お兄ちゃん、はやくきてっ! あっちに言ったり、こっちに行ったり、美奈いそがしいのよー」
「美奈、あんまり走ると転んじゃうから気をつけて……あわわ、荷物落ちそうっ!」
 榛原 美奈(はいばら・みな)に急かされ、榛原 勇(はいばら・ゆう)は妹に続こうとする。が、大量の荷物を胸の前に抱えているため、前が見えない。
(こうして空京に来てみるのもいいですねー……なんて思いましたが、のんびりは出来ません。前が見えませんっ)
 普段あまり海京を離れない彼にとっては、こうした時間は新鮮だった。
 高等部への進級試験前の自主学習期間ということもあり、中等部三年生は自由登校となっている。そのため、こうして束の間の休日を堪能しているというわけだ。
「不服そうな顔をするんじゃないよ。これは単なる荷物もちじゃなくて一種の修行だ。精神的な訓練ばかりやってないで、たまにはこうして体を動かすことだね」
「フエンさん、ほんとにこれ、ちょっとした修行ですね……荷物もち侮るべからず、です」
 フエン・ワトア(ふえん・わとあ)の修行という言葉に納得する。
 ちょうど時期的にも冬物処分セールなんかをやっているために、荷物はかさばっていく。
「まあ、色々考えることはあるだろうが、今日くらいは十人評議会のことは忘れろ。海京はともかく、こんな賑やかな場所でうろうろしてる訳はないんだからさ」
「そ、そうですよねっ」
 地球の反シャンバラ勢力に与する者が、わざわざ空京に来るものだろうか。
「それに、今日ここに来たのは他でもない。『MARY SANGLANT』の新作発表会へ行くためだ」
「『MARY SANGLANT』ですか。聞いたことあるような、ないような……」
 確かフランスの有名ブランドだったような気がするが、うろ覚えだ。
(sanglant……たしか、血まみれのっていう意味、ですよね? 違ったかなぁ)
 英語で言えばブラッディ・マリーか。
「……な、なんだい。別に私が興味を持ったわけじゃない! 世の流行ってもんを把握するためだ、こういうのも重要なんだよ!」
 フエンが気恥ずかしそうにしていた。
 ふと、立ち並ぶ店に目をやると、人だかりになっているのが見てとれた。その場所こそ、『MARY SANGLANT』の空京支店である。
「あー! フーちゃん、あそこにいっぱい人がいるわ、もしかして、メアリーさんが来てるんじゃない? 美奈、会ってみたいわ!」
 元女優、そしてまだ二十三歳という若さもあり、未だに彼女の人気も高い。ブランドが成功したのは彼女のセンスもあるだろうが、やはりそのカリスマ性は大きい。
「ふむ、さすがに話しかけるのは無理だろうが……ほら、ユウぼさっとしてないで行くぞ」
「え、この荷物どうするんですか?」
「コインロッカーにでも預けておけ」
 だが、近くにコインロッカーはない。
「あまり待ってる時間はない、早く行って来い。これも修行だ!」
「は、はいっ!」