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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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・エキスパート


「失礼します」
 夕条 媛花(せきじょう・ひめか)は、強化人間管理課の風間の元を訪れた。ちょうど、レイヴンの公開試運転を終え、戻ってきたところだった。
「身体の調子は良好ですか?」
「はい」
 一時期は人工臓器で補っていたが、今はほぼ元通りになっている。まだリハビリ中ではあるが。
「そこでお願いがあります。強化人間を相手に模擬戦をさせては頂けませんか?」
「ええ、構いません。むしろ、こちらとしても君がどの程度回復したか知っておきたいので、いい機会です」
 ということで、模擬戦をさせてもらえることにあった。
「ちょうど、エキスパートチームの構想もまとまったところです。ただ、そのためには今の強化人間管理課と強化人間について少し説明しなければいけませんね」
 移動がてら、風間の説明を聞く。
「管理課では、強化人間向けのプログラムを超能力科の授業として行ってます。こちらでは、強化人間部隊所属を前提としているので、実戦訓練に近いですね。模擬戦は日常的に行っています」
 続いては、強化人間についてだ。
「強化人間はランク分けがなされています。ランクDは、パラミタ化しただけであり、パートナーを持たないシャンバラ人と同程度です。ランクCは超能力が発現した状態です。そして、パートナー契約を交わした者はほとんどランクBになります。超能力を実践的に使える程度ですね。ランクAは、中堅の契約者程度の実力です。寺院との戦いを通じた者達なら、ほとんどランクAになっているでしょう。そしてランクSとなれば、熟練契約者レベル、個人で一般人の軍でいう一個大隊並の戦力となります」
 さらに、と口を開く。
「その上もあるのですが、まだ達した者はいません。もし現れれば、ランクSS――龍騎士といった『神』と同程度、生身でイコンと渡り合える実力となります。もっとも、理論上ではパートナーを持たないランクSが契約を果たせばいいだけなのですが……相性の問題か契約を交わせないのですよ」
 そして、風間が集めた強化人間部隊のメンバーとの模擬戦に入る。
「こちらは無手。相手には白兵武器を使わせて構いません。ただし、一対一でやらせて下さい。どちらかがギブアップしたら終了で」
 要望を出してみる。
「ええ、ではそのルールでいきましょう。今集まった者はランクA、海上要塞戦でも活躍した者達です」
 十人ほどが媛花の前にいる。
「では、始めましょう」
 一人目は同じ無手。十六歳くらいの少年か。
 先手を切ったのは、相手の方だ。だが、八極拳の使い手である彼女にとっては、接近した間合いの方が都合がいい。
 これまでの実戦経験を元に相手の攻撃を予測する。
(そこ!)
 相手の正拳突きが放たれた瞬間それをかわし、地面を強く踏み込みカウンターを食らわす。その震脚動作から展開される攻撃の威力は侮れない。
 さらに、追い討ちをかける。すると、相手はのびてしまっていた。
 二人目はナイフ使いの少女だったが、こちらも単調な動きであったために、容易に撃破する。
 三人目になると、地面を蹴る際にサイコキネシスを使って勢いをつけるということもしてきたが、十分先の先で対応出来るレベルだった。
(ランクAでこの程度?)
 思っていたよりも弱い。
 むしろ、目の前の戦闘に完全に集中出来るからこそ、彼女の方が強いのかもしれない。

 そんな様子を風間と、そして二人の強化人間が見つめていた。
「風間さん、彼女かい?」
 眼鏡を掛けた、いかにも優等生という風貌の少年が呟く。
「なかなかやるネー、素手であれだけ出来るなんて」
 もう一人は、天御柱学院の女子制服をチャイナ服っぽくアレンジした少女だ。
「まだ決定ではありませんが、彼女がエキスパートの統率――君達のリーダーになるかもしれない子です。黒川君、黄さん、よく見ておきなさい」
「僕は戦闘向きじゃないんだけど。別に、リーダーなら僕らと同じ強化人間の一号でいいんじゃないの?」
「設楽カノンでは性格的に務まらないでしょう。あれは、『ああいうもの』です」
 
 八人目くらいからややしんどくなってきたが、ほぼ無傷で十人目との手合わせを迎えた。
 模造刀ではあるが、二刀流で挑んでくる。
「遅い!」
 刀身に掌打を繰り出し、刀を叩き折る。そのまま距離を詰めながら肘撃ちを繰り出す。
 まだ本気を出さずにやっていたつもりが、全員を倒し終えていた。
「お見事です」
 風間が拍手をしながらやって来た。
「いえ、エキスパート達をまとめてもらうことになれば、このくらいでなければ困ると言うところでしょうか。どうですか、黄さん?」
 風間の視線の先にいる少女が、笑みを浮かべたまま言った。
「同じような拳法の使い手としては、いい線いってるヨー」
 そして、媛花の前に跳躍してきた。
黄 鈴鈴(フアン・リンリン)。これからヨロシクネー、リーダーさん」
「まだ決まったわけではないと言ったでしょう。すいませんね。ただ、エキスパートは彼女も含め少々曲者揃いなので、君のような子が統率役に相応しいのですよ。ランクS達をまとめるには、ね」
 風間曰く、他に三人は確定しているらしい。
「それと、君さえ良ければ今後もこういった模擬戦を続けていきましょう。彼らにも戦い方を教えてくれれば、こちらとしても幸いです」
 あくまで風間は命令ではなく、依頼という形で媛花に言ってくる。
「ぜひ。ただ、一つだけお願いがあります」
 中華風少女を見遣る。
「彼女と戦わせて下さい。ランクSの強さを知っておきたいですから」
 風間が首を横に振った。
「さすがに、十連戦の後では厳しいものがあるでしょう。それに、万全の状態でなければ彼女と戦うのは危険ですので。治りかけの身体が悪化しても困るでしょう」
 そこまで言われると、かえってどれほど強いのかが気になってしまう。
 しかし、今日のところはこれにて終了だ。