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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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・これはデートですか?


「うーん、終わったぁ」
 桐生 理知(きりゅう・りち)は教室の席で腕を伸ばし、背伸びをした。
「授業疲れちゃった……覚えることいっぱいなんだもん」
 天御柱学院の高等部の授業は、高度な内容を扱っている。そのため、座学はどうにも疲れるのだ。
 イコン【グリフォン】に乗って訓練しているときは別であるが。実技訓練は、学院生活での楽しみでもある。
(あ、翔君……)
 ちょうど、後ろの方で授業を聞いていたらしい辻永 翔(つじなが・しょう)の姿が目に入る。顔を机に突っ伏していた。
 そう思うと、授業が終わったのを察知したらしく、起き上がる。
「翔君、今日はこれで授業終わり?」
 彼に近付き声を掛けた。
「ああ、もうないな」
「じゃあ、ちょっと空京までショッピングに行かない?」
 というわけで翔を誘って空京まで出た。

「これなんかいいかな」
 空京に着くと、理知はお菓子を買い漁った。
 パートナーがお菓子がなくてご機嫌斜めだから、買っていって機嫌を直してもらおうと思ってのことである。
「それはいいけど、買い過ぎじゃないか?」
 ちょっと翔に持ってもらうつもりが、いつの間にか彼の胸の前に大量に積み重なっていた。
「あ、ごめん! 別に、荷物もちとか、そんなつもりじゃないんだよ!」
 ちょっとあたふたしてしまう。
「まあ、落ち着いて。俺なら構わないから」
 いつも通りの、割と落ち着いた態度だ。
 少し冷めているように見えるところもあるが、根は熱いことは普段の彼を見ていれば分かる。カミロを倒そうと訓練に躍起になっていた辺りとか。
 戦いが終わってからは、それに大人っぽさが加わったような気がする。強敵との戦いを通して、成長したということだろうか。
 お菓子を買った帰り、ふと翔にそのことを聞いてみる。
「あのね、翔君が少し大人になってるって思うのは、私の気のせいかな?」
「え、俺が?」
 当の本人が意外そうな顔をした。
「うーん、考え方が変わったとか? なんか雰囲気がりりしくなった気がする……うまく言えなくてごめんね」
「あまり自覚はないな。だけど、そう言われれば夏の頃に比べれば変わったかもしれない」
 翔が言葉を続けた。
「高等部に上がってイーグリットのテストパイロットになって、だけどそれに何の実感もわかなくて……それがあのカミロと遭遇して、ようやく実感がわいた。いや、それはただのきっかけだったのかもしれない。それまではただ、鏖殺寺院が悪の組織で倒すべき存在だと聞かされていた。でも、あいつらにも信念があってそのために戦っていた。
 それを知って、俺達は一体何のために戦うんだろうと本気で考えたさ。学校に命令されたからとかじゃなくて、自分が戦う理由を」
「……やっぱり、翔君は変わったよ。あ、そうだ。翔君に渡したいものがあったんだ」
「お守り?」
 理知はポケットからお守りを出して、翔に渡した。
「【家内安全】のお守り。『安全』ってあるし、翔君が安全でありますようにって願いながら買ってきたから大丈夫だよ! 私も同じの持ってるけど、無事故無違反だから!」
「……それは交通安全じゃないか?」
 翔に突っ込まれた。
「それに家内安全って、家族が健康で家庭が穏やかに過ごせますようにって意味だろ」
 あっ、と思わず赤面する。
 そんなことは知らなかった。
「ま、まあ同じ学校に通う者同士、家族みたいなものだよ!」
 まあ、別に間違っちゃいないが。
「これからも色々あると思うけど、お互い頑張ろうね!」

* * *


「リュート様、珍しく暇な一日だし、一緒にお買い物にいこ!」
「お買い物? ルシアと二人で……うん、僕は構わないよ」
 といった感じで、リュート・エルフォンス(りゅーと・えるふぉんす)ルシア・クリスタリア(るしあ・くりすたりあ)に誘われて空京の街まで買い物に来ていた。
 二人が立ち寄ったのは、繁華街にあるデパートだ。
「……そうだ。ルシア、最近ちゃんとお買い物とか来てなかったから、欲しいものとかあるんじゃないの? ひとつだけ、買ってあげる」
「え? ひとつだけ欲しいものを買ってくれる? ふふっ……欲しいものは……お揃いの白いマフラー。リュート様と一緒のもの、今までひとつもなかったから……」
 少し気恥ずかしそうにルシアが答えた。
「えっ? お揃いのマフラー? ……そういえば、ルシアとお揃いのものって持ってなかったね。うん。僕も丁度欲しいと思ってたし、嬉しいよ」
 白いマフラーを売り場から手に取った。
「せっかくだし、早速つけてみる?」
 こくりと彼女が頷く。
「似合ってるよ。ルシア……」
 その言葉に少し照れているらしい。
「ね、リュートさま。お話があります。ちょっと外に……」
「え? 僕に話……?」
 何だろう、と思いつつも一緒にデパートの外へと出る。
「リュート様、最近元気ないですね……私でよければいつでも相談に乗ります!
 だって、私はリュート様のこと大好きだし!」
「ふふ、嬉しいよ。ルシア」
 そっとルシアを抱き寄せる。
「……って、あ……」
「ごめんね……心配かけちゃって……もう、大丈夫……だよ」
「ふぇぇ……リ、リュート様……?」
 ルシアが顔を真っ赤にしている。
 そんな彼女を抱き寄せたまま、リュートは告げる。
「ねぇ……ルシア……じゃあ、僕もひとつ話があるんだ。僕ね、これからシャンバラを巡る旅に出ようと思うんだ」
 リュートは戦いを通して、自分の中で何かが足りないと感じていた。ダークウィスパーに所属していながらも、同じ部隊の人とも何かが違うと。
 パラミタで生き抜くことだけを考えて、それ以外のことはあまり考えていなかった。天御柱学院は確かにパラミタに行く人材を育成するための学校だ。だが、そこではパラミタのことはあまり教わらない。
 パラミタのことを全然知らないにも関わらず、自分の周りだけを見て「パラミタで生き抜く」だなんて意気込んでいたのだ。
 そのことに気付いたから、パラミタの、シャンバラの今を知りたいと考えるようになった。
 だから旅に出ようというのである。
「で、さ……ルシア。僕と一緒に来てくれる? もちろん、エリスちゃんも誘う……というか、誘わなきゃだめだよね。
 もう、ここには戻ってこないかもしれない。今までみたいな平穏な日々は訪れないかもしれない……それでもいい?」
 その言葉に対し、彼女が応じた。
「そんなの……当然ついていくに決まってるじゃないですか! 例えどんなところだって、私はリュート様とずっと一緒にいるって決めたんだから!」
「ふふ、ルシアちゃんならそう答えてくれるって信じてた。改めて、これからもずっとよろしくねルシア」
 と、さらに強く抱きしめる。
「そうだ。今日は三人で仲良く一緒に寝ようか」
 と笑いかけ、また街の中へと戻っていった。