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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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16:30〜


・放課後


 陽が落ち始め、少しずつ空には赤みがかかっていく。
 この日の授業は終わり、課外訓練を受けている者、あるいは部活動に参加している者以外は帰路に着く頃だ。
「博士、来たぜ」
 佐野 誠一(さの・せいいち)結城 真奈美(ゆうき・まなみ)と共に、海京分所を訪れた。
「今更かもしれねぇけど、お疲れ様でしたってことでまずはこれを」 
 そう言って、手土産に買ってきたブルーローズの蜂蜜を渡す。
「ありがたく頂いておこう」
 それからはしばらく他愛もない会話をする。
「しかしまあ、正直あんときは驚いたぜ。それに、あの様子じゃ護衛なんていらなかったかね?」
「そんなことはない。科学者の本分は研究だ。自分の身体で戦うことではないのだからな」
 基本的に自分は非戦闘要員だと紅茶をすすりながら告げた。
「よく医者で殺し屋とかってのは話に聞くが、そういうのも私から言わせてもらえば邪道だ」
 戦うべき者達とそうでない者達は、はっきりと区別した方がいいということらしい。
「博士」
 誠一は意を決し、言葉にする。
「俺を、博士の弟子に、してもらいたい」
 高鳴る胸の鼓動を抑える。
 今後の自分を左右するほどの大事なことなのだ。
「件の戦いの中で、俺は自分が整備した機体に乗った連中が撃墜されたときの悔しさを味わった。メカマンとしては味わいたくないものだ。でも、戦争やってる以上は避けて通れない。でも出来るだけそうならないようにすることは出来るはず。
 自分自身の手でより強いイコンを生み出すことや、今あるイコンをより強くする。それでそれは叶うはず」
 だから、と続ける。
「俺に博士の持ってるロボットやイコンの技術や知識を叩き込んで欲しい」
 雑用でも何でもいいから。
 自分が出来る範囲で、仲間が死なないようにするために。
「私からもお願いします」
 その真剣な眼差しも手伝ってか、真奈美も一緒になって博士に頭を下げる。誠一がここまで真剣になったのは、これで三回目か。
「誠一さんのこと抜きにしても、イコン技術者を育てるのは大切なことだと思いますし、どうかお願いします」
 博士の表情は変わらない。
 カップを置き、彼女が答えた。
「私は甘くはない。それでもちゃんとついてこれるか?」
「当然だ」
 覚悟は決めてある。
 そうでなければ、こうやって懇願することはない。
「若いというのか……ここも、段々と賑やかになってきそうだな」
 わずかにホワイトスノーが目を細めた。
「いいだろう。お前のように、必死になってきた奴が前にもいたし、こちらとしても仕事は山ほどあるから助かる」
 だから定期的にここまで足を運べ、と。
「グスタフには一応、今後の方針は伝えてある。生徒であるお前の方からは何かあるか?」
 急ぐべきことといえば、と考える。
「急務は今ある機体の改良かな。戦闘稼動時間、とりわけ覚醒状態を少しでも長く出来れば。それと、機動力の増加。もちろん、速度という意味ではなくてだ。装甲に関しては、それらで十分カバー出来ると思う。
 新型機はそれらを整えてからでもいいと思うな」
 自分の主観ではあるが、はっきりと伝える。
「新型機も、ゼロから造るのは困難だ。レイヴンにしても、現行機をベースに内部機構をいじったに過ぎない」
 それよりも、今ある機体を万全にするのがやはり一番必要なことだと。
 こうして、誠一も研究所組の生徒に加わることになった。

* * *


 誠一達と入れ替わりで、今度は月谷 要(つきたに・かなめ)がやってきた。
「話は聞いている。義肢の件だな」
 五月田教官がちゃんと話を通してくれていたらしい。
「最近調子が悪くてね……本格的に整備しないと駄目そうなんだ」
 半分は本当だが、半分は違う。
 現在の義腕は反応速度が低下し、時々痺れるような感覚と同時に動きが鈍くなる。だが、それを抜きにしても、生身でもイコンと戦えるようになるために、より強くならなくてはいけない。
 あの白銀のイコンに、今度こそ勝つために。
「注文を聞こう。よほどの無茶がない限りは大体応えられるだろう」
 五月田教官の様子を見た限りでは、その言葉に偽りはなさそうだ。
「一番は、激しい戦闘に耐えられることかな。次は、アクシデントが起こってもすぐに変えられるよう、予備を用意して欲しい。あとは、右腕には暗器を仕込めるようにして欲しいことと、整備性がいいことですかねぇ」
 とりあえず、戦闘に耐えられるものであれば御の字だ。
「戦闘に耐えるのであれば、予備を用意できるほどの着脱しやすいものは無理だな。その分強度を上げることは出来る。仕込み武器は一応可能だ。それに、整備性については……これも、内部機構を簡易化すると良くなるが、やはり脆くなる。ただ、定期的にこちらでメンテナンスしさえすれば、十分対処可能だ」
 必要なら、すぐにでも施術を行うが、と持ちかけられる。
「あ、はい。お願いします」