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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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・いいえ、真剣勝負です


 知人から知らせを受け、遠野 歌菜(とおの・かな)はその男が現れるのを待っていた。
「藤堂さんが、シャンバラに戻ってる……?」
 偶然にも、空京の中でその姿が目撃されたという。
 それも、空京駅前の広場で。
「パラミタを旅回ってた、ってことだったよな、確か」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)が確認する。
 ワーズワースを巡る一連の事件で、歌菜は平助と出会った。そのとき、彼は敵であった。
 敵の黒幕が倒れ、彼自身は自分を見つめ直すため、このパラミタを見て回るとシャンバラを後にしたのが、半年ほど前の出来事である。
 そして、彼の姿を見つけた。というより、さすがに和服は目立つ。マホロバ人も最近は増えたとはいえ、それほど数は多くないからだ。
「藤堂さん……ですよね?」
 一瞬躊躇ったのは、彼の雰囲気が変わっていたからだった。
 どこか青臭さのあった青年は、どこか落ち着いた、逞しさを漂わせている。
「おう、久しぶりだな」
 きっと、旅をしている間に色々あったのだろう。
「約束、覚えてますか? 決着、着けましょう!」
 彼との別れ際にかわした約束。それを果たすため、彼女は平助を連れて行く。
「私、とてもいい場所を知ってるんです♪」
 そうして辿り着いた場所。
 そこは繁華街の中にあるゲームセンターだった。
「おい……ここでどうやって決着つけるってんだ?」
「ゲームセンター五番勝負! 今、これで勝負するのが熱いんです!」
 もちろん嘘である。
「……シャンバラの流行は分からないな。なあ、普通にやろーぜ?」
 あまり乗り気ではないらしい。
「『腕、磨いとけよ』って言ったのは嘘ですか? 武士が逃げちゃうんですか?」
 ぴくっ、と平助が揺れた。
「……よろしい、ならば真剣勝負だ」
 雰囲気は変わったが、流されやすい部分はまだ残っていた。
「じゃあ、羽純くん、審判宜しくね」
「分かった」
 羽純を審判にして、勝負開始だ。
「オレもあのときとは違う。無様に負けても、後悔するなよ?」
「ふふ、泣きを見るのは藤堂さんの方ですよ」
 既に歌菜のペースになっている。
「一番目は、UFOキャッチャー対決! さぁ、羽純くん! どれがいい?」
 さっと適当な感じで羽純が得体の知れない姿のぬいぐるみを指差した。
「よし、これだね! このぬいぐるみを先に取った方が勝ちです」
 平助が顎を手で押さえながら、歌菜に質問してくる。
「これ、どうやって操作すりゃいいんだ?」
 どうやら、文明の利器には相当疎いらしい。
「……知らずに受けたのか?」
 羽純が突っ込みを入れる。
 これはチャンスだ。
「こうやるんですよ」
 あえて先行でコインを入れて、クレーンを操作する。やり方を見せるというつもりで、一発で決めてやろうとする。
「……なるほど」
 見よう見まねで平助がやるも、上手くはいかない。
 そして二回目。
「よし、ゲット!」
 難なく手に入れ、これで一勝だ。
 そして、次のゲームを指定する。
「二番目は、パンチングマシン対決!」
 パンチングマシンの前に立つ。一見、女性である歌菜が圧倒的に不利であるように思えるが、
「フフ……これは力押しじゃなく、コツがあるんですよ♪」
 パン、と音を立てて的が倒れる。
 契約者向けに作ってあるため、そう簡単には壊れない構造になっている。本当に何かコツがあるらしく、ハイスコアを叩き出した。
「とりあえず、叩けばいいんだよな」
 平助が前に立ち、
「はッ!!」
 マシンが吹き飛んだ。
「いや、本気でやったらなんか……なんだ、その顔は?」
「この場合の判定はどうすりゃいいんだ? まあ、マシンで測定出来ないほどってことで藤堂の勝ちか」
 一勝一敗。
 なお、数日後なぜかPASD宛に修理の請求書が届くことになるが、それはまた別の話である。
「三番目は、リズムゲーム対決!」
 気を取り直して、次の勝負。
 『Beat Dance Rising』、通称BDRと呼ばれるダンスゲームだ。
「これはアイドルとして負けられませんね!」
 曲に合わせて矢印が流れてくる。それに合わせて、足元のパネルを踏んでいくというものだ。
 さすがに慣れたもので、華麗なステップを決める。
 そして次の藤堂だが、曲が始まってしばらくすると、
『Stage Failed』
 の文字が表示される。
 これで二勝一敗だ。
「四番目は、レースゲーム対決!」
 続いて、『スリルレーシング』なるレースゲームで勝負する。
「私の華麗なハンドルさばきについてこれますか?」
 意外なことに、平助はアクセルチェンジも平然とやってのけている。相当なスピードだ。だが、本人はほとんど無意識に、感覚頼りで操作しているらしい。
「なんか分からないが、『New Record』って出たぞ」
 二勝二敗。
 そして勝負は最終決戦に持ち込まれる。
「最後の勝負と言ったら、やっぱりこれです! エアホッケー対決!」
 2021年になっても、やはり定番である。
「面白い、北辰一刀流の真髄を見せてやる!」
 だがその手に握っているのはスマッシャーである。
「ゴールは割らせませんよ!」
 互いにパックを打ち合う。
「き、軌道が見えない!」
 あまりの打ち合いの激しさに、お互い完全に直感だけで打ち合っている。それでも互いに譲らないのだから恐ろしい。
(音をうまく聞き分けて……)
 歌菜は超感覚でパックの反射音を聞き分ける。
 そして、
「そこです!」
 即天去私。渾身の力でパックを相手のゴールにシュゥゥウウウト! まさに超エキサイティンした結果である。
 というより、完全にスキルの無駄遣いだ。
「……負けた、だと」
 雌雄は決した。
「勝者、歌菜!」
 羽純がコールした。
「私の勝ちですね」
 平助が本当に悔しそうにしていて、どこか面白い。
「さあ、負けたんです。クレープ、奢って下さい♪」
「そんなんでいいのか? つかクレープってなんだ?」
 クレープも知らないらしい。
 とりあえず、平助に奢らせる。ついでに自分でも買ってみるように勧めてみた。
「うん、美味いな。これ」
 初めて食べるクレープの味に満足しているようだ。
「ちょっと、飲み物買ってきます」
 一旦歌菜が席を外した。

 その隙に、羽純が平助に話し掛ける。
「礼を言う。今日は歌菜に付き合ってくれて有難う」
「約束だったからな。当然のことをしたまでだ」
 キリっと言い放つが、手に持っているのがクレープというのがまたおかしい。
「歌菜なりに、アンタを楽しませようとしたんだ。悪く思わないでくれたら助かる」
「なに、こっちとしても久しぶりにいい時間を過ごせた」
 そして、平助が切り出した。
「またすぐに行かなきゃいけねーからな。次会えるのはいつになるか分からない。向こうは向こうで、色々厄介なことになってる」
「向こう?」
「マホロバでちっとな。まあ、何時になるかは分からんが、またシャンバラにも戻ってくるさ」
 平助がシャンバラを発つのは、明日のことである。