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リアクション
第2章 都市【1】
奴隷都市アブディール。
死人の行き交う大通りに面したカレー店『バクシーシ』に【羅刹兄弟】の二人の姿があった。
ほうれん草カレーを食べる黄金鎧が兄ラーヴァナ、クロスワードパズルに熱中する白銀鎧が弟クベーラである。
なんということのないのどかな休日の風景だ。
しかし、イルミンスールの魔法使い緋桜 ケイ(ひおう・けい)はその様子を目にするや呆れ果てた。
「……あんた達、こんなところでなにやってんだ?」
「ふん、そりゃこっちの台詞だ人間、ナラカは貴様らの来るとこではないぞ」
「兄者の言う通りだ。貴様らとの戦は終わったんだ、いつまでも俺たちに関わるな」
「あんたら……ガルーダの腹心の部下じゃなかったのかよ! なんでこんなとこで油売ってんだよ!」
二人は戸惑った様子で顔を見合わせた。
「人間、貴様らは知らんだろうが、ほろびの森のカーリーと言えばナラカでも恐怖の象徴とされる女なのだ」
「如何に強く賢い我らと言えど、関わりあいになるのは勘弁したい。まぁ、ガルーダ様なら大丈夫だろう」
「そうそう、我らなんて足手まといになるだけだし。いないほうがいいんだって、逆に。むしろ逆に」
死んだ魚の目で語る彼らに、ケイは沸き上がる苛立ちを抑えることができなかった。
「ふざけんなッ! 忠臣を気取るなら、ガルーダが独りになってる今こそ傍にいてやるべきだろうがッ!」
ビリビリと空気を震わせる言葉に兄弟は目を丸くした。
「ヤツとは今協力関係にある、その仲間なら俺たちの仲間と同じだ。力になる、一緒にガルーダを見返してやろうぜ!」
「おまえの言う通りかもしれん……いや、わかっていたがカーリーが恐ろし過ぎて見ないフリをしていた」
「貴様のおかげで目が覚めたぞ。ウェイター、会計を済ませてくれ。我らは行かねばならぬ!」
意気込む彼らに、ケイのパートナー悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が尋ねる。
「話がまとまったところでひとつ聞きたい。ほろびの森の古城にあった肖像画、描かれていた娘は何者なのだ?」
「貴様らあの城に行ったのか。しかし、あの絵のことは……」
「ガルーダには黙っておく」
しばし困っていたが諦めて話しはじめた。
「あの娘はガルーダ様の想い人だ。ずっと昔、ガルーダ様がまだ生きていた頃の、な……」
「ガルーダ様はこの話をしたがらないので我らもよく知らぬ。ただ、今も忘れることはできないでいるのだろう」
「そも、勝利の塔の設計をしたのはガルーダ様だ。冥界と現世の理を破り、想い人と再会を果たすために」
「しかし、その時は原動力となるものを確保できず計画は中止となったが……」
ニコニコ労働センター。
話し込むケイ達を横目に姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)と兎野 ミミ(うさぎの・みみ)はセンターを訪ねた。
本邦初公開の内部だが、どこか懐かしい雰囲気があった。
たとえて言うなら、そう、市役所である。
「なんだかイメージと違うッスね……」
「気圧されてはいけませんわ。わたくし達には菩提樹周辺開発の求人の許可を貰うという大事な任務がありますのよ」
そう言うと雪は振り袖を翻し、おとものスーパーモンキーズを連れ受付に言った。
「わたくし、かくかくしかじかというわけで来ましたの」
「これこれうまうまというわけですね。しばらくお待ちを担当の者に回します」
言われるがまま待っていると、奥の部屋から都市の王【ガネーシャ・マハラシュトラ】が現れた。
象面人身の巨体を揺さぶりカウンターの向かいに座ると、指をぺろぺろ舐めて書類をめくりはじめた。
「現世の連中の考えることはまこと理解できん。何故、あのような辺鄙な場所の開発を行おうとするのか」
「辺鄙な場所だからこそですわ。あなたも計画に参加してみては如何でしょう。ガネーシャと言えば伝説のカレー職人と聞いております。王の仕事では作る機会もないはず、このまま埋もれさせるのは余りに勿体ないのではありませんか?」
ラスター菜箸を手にじゅるりとよだれを垂らす雪さんである。
けれども、ガネーシャの反応はそっけないものだった。
「勘違いしてもらっては困るな、娘。自ら作る技術はあれど作るのは好まぬ。余は作るより食べる派なのだ」
「あら、わたくしと同じですのね……」
「ゆえに、開発計画にカレー店を数軒入れることを条件に許可を出そう」
「ほ、ほんとッスか! やったッス! ニコ働から正式に許可がでたッスよ!」
意外とゆるかった審査に、ミミも思わずガッツポーズを決めた。
「……しかし、なんだこの『巫女巫女』というのは?」
「ああ……ええと、アレッス。日本風ってことッス」
こと細かに説明すると許可を取り下げられそうだったので簡略化した。
「なるほど、ならば求人は日本人のほうが良いな。数百名の日本人が登録されておる、こいつらに仕事を回そう」
「流石冥王、話が分かるッス。とりあえず、黒髪ロングの清楚系女子を1ダースほど回してほしいッスよ」
かくして着々と巫女巫女菩提樹大開発の外堀は埋まっていくのだった。
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